捌 『顔が良過ぎる』

「離して!ねぇ離してってば‼ 」


玉座の間を出てすぐ、右手でエリンの手首を、左手でエレノアの首根っこを掴んで引っ張っていたが、いい加減エレノアの暴れようが酷くなってきたので足を止めて会話を試みる。


「お前さ、素だと案外ラフに話すよな」

「え、えぇ?何よ急に。そりゃ私だって騎士や姫の立場を忘れて振る舞う時だってあるわよ」

「そんなもんか」


昨日はもっと騎士騎士してた気がしたが、何故だろうか。今のエレノアの方が上手くやっていけそうな気がした。


「ご、ご主人様?そろそろ離してあげましょう?エレノア様、流石にちょっと可哀想ですよぅ…」

「はぁ…仕方ないな、ほれ」


エリンに言われてようやく掴んでいた手を離してやる。


「なんでエリンちゃんの言うことはちゃんと聞くのよ!」


文句を言いながらパッパッとスカートをはたいて立ち上がる。


「本当に嫌なら、着いてこなくても良いんだぞ」

「なんですか急に。あなたが私を引っ張ってったんじゃないですか。今更罪悪感にでも苛まれたんですか」

「いや、別に?」

「なんなんですかあなた…」

『私も貴方と初めて出会った時にもこれは思いました。なんなんですか貴方。たまに本当に理解出来ない行動とりますよね』


まだたったの三日だろうに。拒否ってたからもう拉致るしかないと思って。あの感じなら少しくらい雑に扱っても大丈夫な気がしたし。


『物事には程度というものがあります。それを下回っても上回ってもいけないんですよ?』


そんなもん知らねぇな。俺はやりたいようにやる。それだけだ。


「ありがとねエリンちゃん、この人止めてくれて。それにしても今日は可愛い服着てるのね!」

「あ、ありがとうございます。これ、全部ご主人様に選んで頂いたんですよ」

「えぇ…あなた、女装癖でもあるの?」

「なんでそうなるんだよ!」

「だって……こんないかにも女の子らしい服をあなたみたいなガサツな男が選べるのにはやはりそれなりの理由が―――」

「いい度胸だ今日の晩飯のスープはお前からダシをとってやろうか」


心外な事を言われたので頭を拳でグリグリしてやる。

女装が似合う人間はすればいいと思うが俺は似合わない。体格が良すぎるから。


「痛い痛い痛い痛い‼ ごめんごめん!ごめんなさいってば‼ 謝るから許して!!!」

「あわわわわわっ!」

「じゃあ逆に、逆に聞くけどお前俺がどんなの選ぶと思ってるわけ?」


拳をこめかみから離さずにグリグリするのだけを止めて聞いてみる。


「そりゃ、如何にも偏見がゴリッゴリでフリッフリのゴシックドレスだったり縞々なハイソックスとか趣味の悪いアクセサリーをジャラジャラさせて―――」

「コイツっ!!!」

「痛い痛い痛い痛いやめてやめてごめんなさい!!!あなたが聞いてきたんじゃない!痛い離して許して‼ 」

「はわわわわわっ!」


気が済んだので解放してやると両手で頭を抑えてこちらを見ていた。


「私一応これでも一国の姫なのよ⁈ なのにこんな乱暴するなんてぇ!」


若干涙目だった。


あ、今のはちょっと可愛いかったな。


『えぇ……』


航はババアのドン引きした声に聞こえなかった振りをして咳払いをした。


「今のはお前が悪い」

「あ、あはは……えっと、それでエレノア様はご主人様と一緒に来ていただけるんですか?」

「嫌よ!嫌!嫌だけど、仕方ないじゃない。お父様が初対面であんなに気に入るんだもの。きっと理由があるに違いないわ。だから姫としても騎士としても私の一存で拒否なんて出来ない」


航もエリンも、正直口ではこう言っていてもエレノアは満更でも無いような気がしてならなかった。

お互いに一度顔を合わせた後、また航が話し始める。


「本当に嫌なら来なくていいって、そんなの一々気にする必要ないだろ」

「だからそんなの出来ないわよ!あなたが今どれくらい重要な立場にいるか、あなた全然分かってないわ!」

「おいエリン、俺はどれくらい重要な人物なんだ?」

「私の大切なご主人様です!」

「はいそこー私を無視してイチャつかなーい」


とは言っても実際かなり大袈裟じゃね?救世主とか言われてもピンと来ねぇし。ババアお前なんか知らない?


『ババアではありません』


いやそれはいいってもう。それで?なんか心当たりは?


『…無いですね、特には』


そうか。まあ特に何かをしろと言われてる訳でもないし当分はこのお姫様だなぁ。


「な、……そん…に見……て」


それにしても騎士にしては軽装だな。鎧というよりドレスに近いし。


『魔力の服だと思いますよ。防御性耐久性は勿論、他にも恩恵があったりしますね』


良いもの身に着けてるあたりはやっぱ姫様なんだな。中身は思春期の女子高生にしか思えないけど。


『女子高生?』


向こうの世界のブランド物だ。気にすんな。


「とりあえず―――







♡ EleanorエレノアSideサイド ♡


ツッコミをスルーされてからずっとこっちを見てくる。


じっと見られているのにくすぐったくなったエレノアは少しだけ顔を赤くしてモジモジしだした。


「な、何よそんなに見つめて」


よく見たらこの人、ものすごく顔が良い?!ちょっと!ヤダそんなに見ないで!目合わせられないんですけど‼ 何、これ!

何か言ってよ‼ 怖いんですけど!私なんか悪いことした?あっあっあっかっこいいもう無理限界ぃ……。


耐えきれずについ両手で顔を隠してしまった。


顔がぁ……顔が良すぎる………。






○ Wataru Sideサイド ○


「とりあえず……あ?何してんだお前」

「…ナンデモ……ナイデス」


あ~?変なヤツ。


「あ、あはは……分かっちゃうなぁ、エレノア様の気持ち」


エリンの乾いた笑いだけが廊下の中に響いたのだった。

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