漆 『国王公認!姫、拉致られる!』
「おとうさっ、陛下‼ これはどういうですか!!!!そのようなご冗談を‼ 」
娘を嫁に、と言ってのけた王に、航やエレノア含め、皆混乱していた。
「エレノア、これは冗談などではない。それにお前も夕べ、救世主殿の勇姿を嬉々として語っていたではないか」
「た、確かにこの男は私の背後を守って戦ってくれましたし、実は相手をしていたのが全員盗賊団の中でも手練ればかりだったり、それを鼻にかけること無く平然としてるところも心を動かされるものがあったり、更には去り際のあっけなさが風来坊のようで「あぁ、この人は自分とは見えているものが違うんだな」などと私の心をかき乱し昨日なんてその後姿が頭から離れずまとも眠れなかったりもしましたが‼ ―――」
『凄いですね。あそこまで言ってくれるなら満更でもなかったりしませんか?』
ドン引きだわココどこだと思ってんだ‼ 玉座だぞ親と家臣と本人がいる前で無意識にあそこまで赤裸々にフルオートで暴露された俺の方が恥ずかしいわ!
「―――このような無礼な者を!!王家に迎えるなど!!!!」
しかしーその場にいる兵士や臣下含め、全ての者がこう思った。
「「「あるぇ⁇ 思いのほかばっちり高評価だぞ⁇ 」」」
「ハッハッハ。救世主殿、ご覧の通り娘は構わないと申している。どうか貰ってはくれないだろうか」
「もう!!!おとうさん!!!!」
怒るエレノアは自分の立場を忘れているようで、さながら駄々をこねる子供ようだった。
『どうするんですか?』
そんなの決まってんだろ。
「やだ」
今度は航が周囲の人間を凍り付かせ、一蹴してのけた。
「勿論すぐにでなくても、婚約で―――」
「無理」
「そこをなんとか―――」
「無理!」
「……理由を聞いてもよいか?」
「俺には旅をして、やらなきゃいけないことあるから、王家とかこの街には留まれない。あと好きでもない人と結婚とかマジありえないわ」
「…そうか……それもその筈か。では、せめて娘をその旅とやらに連れて行ってはくれないか」
「陛下!!いい加減になさってください!」
痺れを切らしたエレノアがコービット王に駆け寄って説得をし始めた。
新しい仲間か。正直二人だけっていうのも少し寂しいと思っていたし悪くはない提案だけど……。
『いいんじゃないんですか?特に損はしないでしょう』
そうは言うけどよォ。あれは、旅をするうちに好きになってもらえばいいっていう建前使っといてから、後で何かしら理由こじ付けてくっつかせる気満々だぞ。
『逃げればいいじゃないですか。好きにさえならなければ、貴方なら絶対大丈夫でしょう?』
んーまぁ物は試しだな。あんまウジってても仕方ないし。本気にしなきゃいいしな。
航にとって一番大切なのはエリンの意見だった。もしも姫を仲間にしてただでさえ自分の立場と比べて苦しくなったりして、その上で馬も合わなくてイジメられたりしたら目も当てられない。
「エリンは嫌じゃないか?エレノアが一緒に着いてくるの」
「え、あの!わ、私は全然、嫌なんかじゃ、ないです。ご主人様に従いますから…」
まだエレノアの事をよく知らないし、現状はこんなもんか。
「なぁ、試用期間ってアリか?」
「何?!」
「それは、どういうことだ?」
言い争っていた顔のまま、一斉にこっち向くのってなんかシュールだな。
「エレノアと俺ら二人との相性もあるだろ。一緒に冒険するならそういうのも含めて互いに理解し合わないと、息が詰まる」
「エ、エレノアと軽々しく呼ばないで変態っ!!!」
「ぇ待って何が⁈ 名前一つ呼んだだけでどこまで想像したんだよ!」
妄想たくましいお姫様だな。
航の世界では「一国の姫=淫乱」という謎文化が一部界隈では常識になっていて、オタク共の格好のエサだ。エレノアはその最たる例と言えるだろう。
「どれくらいの期間が妥当だと考えているのだ?」
「ちょっ⁈ 陛下!こんなの相手にしなくても―――」
「とりあえず一週間もあれば人柄や相性は分かるんじゃないか?」
「おいコラ聞きなさいよ!無視しないで!」
「じゃ、ひとまずそれで」
お?この王様、口調を合わせて来た。
「じゃ、そういうことで」
「そういうことで、救世主殿」
「もうだめだぁ!!おしまいだぁ~!」
「クッハハ!」
この王様、案外ノリが良いじゃないか。
話がわかる人間は好きだ。
「救世主とかそんな疲れる呼び名より、航って呼んでくれよ」
「ハッハッハ!そうさせて貰おう。航殿、娘をよろしく頼む」
「おう、任せろ」
航はそう言うと、速足でエレノアの首根っこを掴んで後ろ向きにい引きずって帰って行った。
「うわァッ!!!ちょ、ちょっと‼ 触らないで!離して‼ 引っ張らないで!!!お願い、お願いだから‼ 私普通に歩けるから‼ だから引きずらないで!!!ねぇ聞いてる⁈ 聞いてます?!!聞いてくださいお願いします!!!」
無慈悲、航はその声を無視して「クッハハハハハハハハッ」と笑いながら出て行った。
「こんなの認めない!!私は絶対認めないんだからァ!!!!」
姫騎士の威厳?俺には関係ないしな‼
『鬼畜じゃないですか』
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