肆 『これから俺の職業は───』
「すぅ......すぅ...」
部屋の明かりを落とし、エリンとは反対側のベッドで胡坐をかく。
「まさかあの大人しかったエリンがあんなに暴れまわるとはな」
『きっと、元々そちらが彼女の素なんでしょう』
「かもな」
エリンはまだ17歳。俺の世界じゃまだまだ子供で、何か重大な決断をするには早い年齢だ。そんな女の子が奴隷になって自分を抑えて必死に生きてきたのだろう。内心ではまだまだ甘えたい盛り遊びたい盛りの筈なのに。
あの後会計を済ませて宿を探したが、遅くなっていたこともあってかなり時間がかかった。
その間眠ってしまったエリンをずっと抱きかかえて歩いていたが、エリンの体重が軽すぎたせいか、疲れることもなくむしろ良い腹ごしらえになった。
『今のうちにステータスやドロップしたアイテム、スキルの確認をしましょう』
「アイテムまでドロップするのか」
慣れたような手つきで視界を操作してアイテム欄を開く。
・下級ポーション 30
・上級ポーション 3
・聖水 4
・聖女水 2
・神水 1
・エクスポーション 1
・皮の小手 12
・ウィングブーツ 1
・汗の染みついたバンダナ 120
・鉄の剣 5
・銅の短剣 4
・使い古された鉈
・悪魔の杖 1
・原初の魔術師のローブ 1
・空白のスクロール 25
・幻魔の宝玉 1
・王家の指輪 1
・エメラルドの原石 1
・ダイヤモンドの魔石 1
・抱き枕 1
「なぁ~にこれぇ~」
『素晴らしいですね』
「汗の染みついた...ってきったねぇなぁ‼ 」
「ん、んゅっ。んん」
あやっべ!!起こしちゃったか?
「すぅ...すぅ......」
......ホッ。セフセフ。
『それにしても盗賊というだけあって中々珍しいアイテムも手に入りましたね』
「そうな。字面からしてレアって感じがするのもあるし。エクスポーションやら悪魔の杖やら...ん?」
聖女水???????
「おいババア、なんだこれは」
『聖女水です。ババアではありません』
「だからなんだよ聖女水って」
『そのような事を言われても聖女水は聖女水です』
「イミわかんねぇよ!!!」
「んんんんっ!んゅゅゅゅぴぴぴぴぴぴぴ」
「ヒッ?!」
今度こそ起こしてしまったか?!つかどんな寝息だよ!!俺まで変な声出たわ!
「すぅ、すぅ、ひゅるるるるぅ......」
『もういっそ脳内で話したらどうです?』
「んー、いいや。酒も入ってるから大丈夫だろ。次から叫ばないように気を付けるだけにしとくわ」
『何故?』
「頭ン中覗かれてるみたいで気持ち悪ィんだよなあれ。まああとは、単純にお前と腰据えて話したことなかったと思ってな」
万が一こいつの弱みとか握れれば万々歳だしな~。
『......そういうのはもっと雰囲気を考えてください。大体、アイテム整理をしながら言うセリフじゃないでしょう』
あん?
「なんだよ、怒ってんのか?しょうがないだろ、今くらいしか時間ないんだから。はぁ~それにしても、相手のレベルを確認するのに一々マップ開かなきゃいけないのどうにかなんねぇのこれ」
『......もう、仕方無いですね。ステータスの右下に歯車のマークがあるはずです。そこから色々とイジれますよ』
「そういうのはもっと早く言ってくれよな毎回言ってるけどさぁ」
『嫌です』
「コイツっ!!」
『また大声を出すんですか?今度こそ、エリンを起こしてしまうかもしれませんね』
「こっのっやろ......やっぱお前嫌い!ババア!!」
『フフフっ。ババアじゃありませんよ。フフッ』
何を笑ってんだ......ったく...。
とりあえずアイテム整理はこれで終わった。明日いくつかエリンに渡してやろう。
「百人単位で倒したから、レベルも今日一日で3から15まで上がったし。今日は良いこと尽くめだなぁ」
『それなら、そろそろスキルを取得しては?』
「それは今のところ不便ないから後回しだな。エリンの得意不得意もまだ知らないし。そもそも、俺まだ職業も無いし」
『随分慎重ですね』
「スキルの振り直しは出来ないって、昨日の夜に画面から注意されたじゃん?ちゃんと考えようと思って」
『もう試したのですね』
あん?なんだこいつ、見てなかったのか?
「俺がスキルをいじろうとしたことは知らなかったのか」
『私にも色々あるんです』
「んん~~~?怪しいな」
こいつも四六時中俺を監視してるわけじゃないのか。
『......それよりも、もう職業くらいは決めましたか?』
「ん?いやまだだけど?ちなみにお前から見て俺に相性が良さそうなのは?」
『そうですね......本来肉弾戦専門のあなただからこそ、逆にあえて魔法系なんて面白いかもしれませんね』
「なっる、ほど...いざとなったら近接戦闘が出来る魔法使いか!確かに面白そうじゃん!え、めっちゃ楽しそう!!もうそれにするわ!決まり!!」
『え、いいのですか?エリンとの相性がとか言ってたじゃないですか』
「いいんだよ。最悪今まで通り素手でもいいし。何より俺がそうしたい!」
ほいほいほほほい、え~っとなになに~。魔法使い呪術使い、あとは神官と奇術師か...んん??
「魔法使いと呪術使いって何が違うんだ?」
『言ってしまえば、攻撃特化型か支援特化型かというだけです。基本的な攻撃魔法や支援魔法は両方使えるようになるので、あなたにはどちらも同じくらい適しているでしょうね』
へぇー、確かに。強い魔法でそのままぶっ倒しても良し、自分にバフかけて相手にはデバフ、そんでもって素手でボッコボコにするも良し。どっちにしようか迷うな。俺ゲームとかでこういうビルドを考えている時が一番楽しいんだよなぁ!!
航の心臓の鼓動は速かった。内心は早く色々試してみたいという気持ちしかなく、今が夜なのがただただ惜しかった。
「じゃあ俺は、これに決めるぜ!」
航から淡く青い光が発せられ、部屋を優しく照らした。
「んんん、ごしゅじん......さま?」
エリンは夢うつつに発光する主人をしばらく見つめていたが、やがてまた何事もなかったかのように瞼を閉じた。
ご主人様が光るなんて、これは夢ですね。おやすみなさい、ご主人様。
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