弐 『またお礼をしてくれるらしい』
あれから遅れて来た兵士も加わり、長い時間戦闘が続いて今は陽が傾いて夕方ほどの時間になった。
結果から言えば女騎士はめちゃくちゃ強かった。その細腕や柔らかそうな脚は見た目からでは信じられないほどの膂力を放ち、目に入った盗賊を片っ端から倒していった。航もその間数人の相手はしていたが―――
あれこれ俺いらなかったんじゃね?
『お疲れ様です。流石の戦闘技術でしたね』
……大したことねぇよ…。
「はァ…疲れた!」
「ご主人さま~‼ 」
あーあーあんなに走って。疲れてるだろうに。おっと…。
エリンの来ている服は決して奴隷らしい貧相なものではないが、やはり最低限というべきもの。あまり大仰な動作をすると見えちゃいけない部分が見えそうで、少しドキドキする。
お金が入ったらエリンの服を買おう…どびきり似合うかわいい服を…。
『早速親気取りですか?』
うっさいなー、かわいい女の子にはかわいい衣服を着せるべきだろ?
「ご主人様!大丈夫ですか?はい、お水です」
地面に腰を下ろして水袋をコルクを抜いて渡してくれる。
「さんきゅ、丁度喉乾いてたんだよ。んっんくっ…ふぅ」
「お怪我はありませんか?」
「平気平気。あの程度のチンピラなら慣れてる慣れてる」
「強いんですね!ご主人様は」
エリンは嬉しそうに航を見上げる。
これよこれ、こういうのよ俺が求めてたのは‼
悪いやつ倒して女の子に介抱される。正に異世界生活!
くぅ~、異世界万歳!あァ、癒されるわー。
『何を気持ちよくなってるんですか』
くっ。やっぱ訂正するわ。最高なのはババア以外だ‼
『それなら私に感謝しなくてはいけませんね。なんて言ったって貴方をここに連れてきたのは私なんですから』
ああ言えばこう言うヤツめ。
「⁇ ご主人様?どうしたんですか?」
「あぁいや、なんでもない。気にするな」
「⁇ 」
苦笑いする航にエリンが首を傾げる。
俺もあいつの全部を把握してるわけじゃないし、いつか言える日が来るといいな。ババアのこと。
「拳士殿ォ!拳士殿はいらっしゃるか‼ 」
そんなことを思っていると、一人の兵士がウロウロと誰かを探していた。
「……さて…」
ステータスがどうなってるのかチェックでも―――
「…ご主人様。多分、呼ばれているの、ご主人様です」
「あ、ぇ俺⁈ 」
「あ、あの。兵士の皆さまは槍をお持ちですから」
あぁなるほど。いやそれでも拳士って。
「あぁ!こちらにいらっしゃいましたか拳士殿!隊長がお呼びです」
「......?」
「......?」
なんだろうと、航はエリンと顔を見合わせた。
「この度は、盗賊団の発見と討伐へのご協力、誠に感謝します!」
「「「ありがとうございました!!!!」」」
金髪の女騎士は勢いよく頭を下げると、後ろに控えていた怪我をしていない兵士たち数十人が続けて頭を下げる。女の結われていない柔らかい髪がスラリと垂れた。
えぇ…んな大げさな……。
「気にすんなよ。俺たちが追いかけられていたのを、たまたま見かけたお前たち巻き込んだだけだから。なんなら礼を言うのは俺らの方だ」
「例えそうだとしてもです。あの盗賊団は非常に狡猾で、今まで常に少数で行動をしていました。コソコソと逃げ足も速いので、今日のように軍で探しても普段なら出てこないのです。他にも色々事情がありまして……」
なーるほどね。俺みたいな一般人が手下をボロッカスにしたから、このままだとナメられると思って仕返ししようと躍起になったんだなあいつら。それで運悪くこいつらの行軍の日と鉢合わせたと。
「何故かはわかりませんが何はともあれ、このようにまとまって出てきてくれたのは運が良かったのでしょう」
「ん゛~~~~まぁ、そういうことなら……」
貰えるものは貰っとくか。
航はこの時、思い違いをしていた。所詮盗賊を倒した程度の報酬、大したことはない。そう思っていた。
「本当か⁈ それはよかった!それでは後日、是非王宮にお来し下さい。それ相応の礼をいたします!」
「王宮……首都ライネロイネか?」
「いえ、今はすぐそこのスラムバータにあります」
すぐそこじゃん…。
「へぇー、普通王宮つったら首都じゃないのか?」
「はい、税を収めるのに商業都市は都合がいいので。色々な都市への交通も良く、前国王がこちらに王室を移しました」
なるほどねぇ。異世界といえばバカ殿が多いイメージだけど、意外に賢い王様じゃん。
「んじゃあまぁ明日にでも伺いますよっと。それじゃあ俺たちは行くわ」
街に振り返って出すとエリンが兵団に一礼して追いかけてくる。
「…あ、お待ちを!お名前を教えていただけないでしょうか!」
「あ、そうじゃん」
当日になって名前がわからないってドタバタしたらそりゃ困るわな。
首だけ回して自己紹介をする。
「俺は航。皇航。こいつはエリン。俺の仲間だ」
エリンの頭に手を置いて一緒に紹介する。
「そいじゃ、またな」
さーてと。おばちゃんに宿賃借り行くかー。
「皇…航……⁈ あの男が…‼ 」
航達が立ち去った後、しばらく張った表情をしていた女騎士だったが、何かを思い出したのか兵士に命令を出した。
「誰か!すぐに陛下に報告を‼ 」
「は、ハッ!えっと、なんと報告すればよろしいでしょうか?」
「―――天啓の救世主が現れたと」
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