参 『初めての戦闘』

 夜になったばかりの森の中で、皇航は野盗達と対峙していた。


「にィちゃあん、いいところに来たなぁ。身に着けてるもん全部置いてけやぁ」

「そうしたら命まではとらないでいてやるぜぇへっへっへっ」


うわぁ。


「うわぁ」

「あん?なんだナメてんのか⁈ 」


やっべ、典型的過ぎてつい口に出てしまった。


「やっちまうぞゴルァ‼ 」


ナイフ持ちが襲い掛かってきた。

目の前には全部で5人。マップでは馬車の方にまだ二人残っていると記されていた。


丁寧に捌けばやれるか?ブランクはあるがイチかバチか。


足をバネに突き出された方の脇に潜り込む。


「アァ?! 」


そのままナイフを持った方の腕を掴み、身体を回し遠心力を利用して地面に投げ飛ばす。


「ゴフっ!」

「ナイフ、頂いてくぜ」

「テメぇ‼ 」


大男がその体に似合う程の斧を持って近づいてくるのを見て航は呆れていた。


こんなん当たる方が難しいんだよなァ…。


大振りな横薙ぎを低く下げていた体を当地させて躱す。


「うおっとっとっと」


体制を崩した大男に即座に立ち上がった勢いをつけて拳を突き上げる。その一撃は風を切る音が発生するほど素早かった。


「んがァ‼ 」


顎を殴り飛ばされ、大男は倒れる。近くに歯が二本飛び散っていた。


「悪いが治療費は出せねぇぞ。こちとら無一文だからなァ」


大男の落とした斧を持って一歩前へ踏み出すと、野盗共は怯んだようで。


「く、くるな‼ なんだお前は!」

「ただの無一文だよ。それよりも兄ちゃん達ィ?身についてるもの全部置いてけやァ。そうしたら命まではとらないでいてやるぜ?ヘッ」


鼻を親指で弾き、ナイフを舌で舐め回して格好つけてみせた。


「う、うおおあぁぁぁーー‼ 逃げろー‼ バケモンだー‼ 」


散り散りになって去っていく野盗を追いかけることなく、遠くまで逃げていったのを確認して航は馬車の方に向かった。






「おいおっさん、とっとと馬車から降りてもらおうか」

「ひ、ひィィィ‼ だ、だめですわよ!アテシの大事なもの沢山入ってるんだからあ‼ 」

「気持ち悪りィんだよ、とっとと降りねぇと仲間が帰ってくる前にぶっ殺すぞ‼ 」

「嫌ぁぁぁぁ‼ 変態よ‼ 襲われちゃう!誰か助けてぇぇぇ‼ 」

「てめコノヤロ、おいヤッちまうぞこいつ‼ 」

「そーらよっと」


野盗がもう一人の仲間の方を見ると眼前に斧の持ち手部分が迫っていた?


「え?」


そのまま彼はどうすることも出来ず、それを頭に叩き付けられ失神してしまった。






全然意外とヤれるもんじゃん。案外余裕もあったな。あんまりレベルって関係ないのかもしれない。


そう思っているとメニュー欄に[NEW]と吹き出しが出ていた。タッチするとどうやらレベルが上がったらしい。


レベル3に上がっていると共にステータスも上昇していた。


お?

4人しか倒してないけどこれ7人も倒した計算になってるな。なんかルールがあんのか。


「そこのお兄さん!」

「ああ無視して悪い。怪我ないかオッサン」

「アテシは平気よ!それよりもありがとう助けてくれて。アテシのようなオトメを狙う野盗がたまにいるのよもうほんとに困ったわあ」

「ああ、うん。そうだな」


ツッこむのも面倒くせぇよ。


航が助けたのはオカマのようなおっさんだった。剃り残しの髭と出っ張った腹になぜか短パンを履いていて剛毛にもほどがある脛毛と胸毛がとても特徴的だった。


「アンタどこ向かってんだ?そっちは商業都市だけど」

「その通り、商業都市よ!アテシ、奴隷商人をやってるの」

「ほう……」


ラッキーだな、奴隷商人といえば奴隷を売買する商人なのだから、ババアに言われたことを果たすなら願ってもない繋がりな筈だ。


「自己紹介しなきゃね!アテシはクラリス。かわいい名前でしょう?」


頭痛くなってきた。こいつがクラリス?

航はその姿をもう一度下から上へと見渡す。


いくらなんでもそのガラで【クラリス】は荷が重いだろ。


「あぁ、うんそうだな。名は体を表したり表さなかったり…」

「あらいやだ、ありがとう!でもごめんねアテシ婚約者がいるの‼ あ・き・ら・め・て・!」

「いや、あの、全然平気っす!」

「あらそう?ところで、お兄さん、お名前は?」

「わ、航。皇航すめらぎ わたる

「ワタルきゅん‼かっこいい名前ねぇ‼あなたも商業都市へ向かうなら一緒に乗ってく?飛ばせばあっという間に着くわよ?」


一瞬本当に名前をこのオッサンに教えてもよいのか考えてしまった…。


「マジか。そりゃありがたい。乗せていってもらっていいか?」


こりゃ僥倖だ。正直暗くなり始めてるし、このまま悠長にしていたら今度は野盗じゃ済まない気がする。


「もっちろんいいわよ!アテシの命の恩人だ・も・の!街に着いたらお礼もさせてね?」

「そこまでしてもらっていいのかよ、オッサン」

「もう、オッサンじゃなくてクラリスって呼んでちょーだい!行きの馬車には奴隷を数人積んでたのだけれど、街で売れちゃったから後ろには今沢山お金が入ってるのよ。ついでに首都で物件も買ったから、土地の権利証諸々入っててね?ワタルきゅんが助けてくれなかったらアテシ例え命があっても帰るところ無かったわよ。だからちゃぁんとお礼をしなきゃね~」


クラリスは一方的にまくし立てる。本場のおばちゃんみたいな奴だな。


「あそうだ、アメちゃん食べる?首都でたくさんお土産買いこんだの。特産品よ?」

「……食う」


ほんまもんのおばちゃんみたいなおっさんだな。ま、悪いやつじゃなさそう。


「うんまこれ」

「でしょ〜う?」

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