弐 『着地失敗』
ふわふわする...。ここはどこだ?夢か?
夢ってもう少し何かしてるっていうか、充実してるっていうか。
あれ、なんか当たってる。息も出来ねぇ。
今頭ぶつけたぞ。
つか‼
「鼻痛ぁゴボゴボゴボォ!!!!!?!?」
―――皇航は初めての異世界で溺れていた。
「ふっざけやがってあのババア!!!!次あったら絶対締め上げてやるゥ…あることないこと身内に吹き込んでてめぇの人生めちゃくちゃにしてやる!!!!」
『残念でしたね。私に身内はいませんよ』
「あ゛?!!」
脳内にババアの声が響いて咄嗟に後方の空に振り向いて怒鳴ってしまった。
いけない、落ち着け。
『気分はどうですか?何か体に異常は?』
「最高の気分だ、ヘドが出そうなくらいな」
『それなら重畳です』
バカにしてんだろこのババア。
『ババアではありませんよ。お姉さんです』
「エスパーかよ!」
『貴方の考えていることは全て私に筒抜けです』
「プライバシーって知ってる?つかなんで水の中に叩き落されたんだ俺」
『あなたが急に転移にしろなんて言うからです。咄嗟に設定した座標に飛ばせませんでした。本当なら転生したほうが貴方の潜在能力をこちらで調整出来て貴方にもいい事づくめだったんですよ?けど……そうですねどうやらその必要もなさそうでしたね』
「え何、どういうこと」
『貴方のポテンシャルは高いということです。それよりも、あなたの視界に何か映っていませんか?』
「次から次へと勝手なやつめ。出てるよ」
水の中にいた時からそれはかすかに見えていた。左上のボックスに自分の名前と人間であることが記されていて、職業欄は空白のままになっていた。そのすぐ下にはHPとMPゲージのようなものもあって、如何にもゲームといったような感じだ。
そして右上に独立した805874という数字があった。
なんだこれ?
つか全部視界の邪魔なんだけど、ゲームじゃねんだから。
『こういう世界だと思ってください』
「俺の脳内と会話しないでくれます?」
『では今後あなたは街中で独り言を言いながら私と会話すると。それはさぞ注目されるでしょう、独り言が激しいと』
「ああもう俺お前嫌い!!」
『私は貴方が嫌いじゃないですよ』
やりづらすぎるこのババア。
『ババアではありませんよ』
川辺で服を乾かしながら近くで薪を拾って火を起こし、少し落ち着いた頃。
「俺結局どうすればいいの」
今自分がどこにいるのか、これからどうすればいいのか、何一つわからない状況で川で溺れていたので正直もっと色々知りたい。なんだかんだちょっと楽しい。
『フフフ』
「なんだよ」
『いえいえ、良かったと思って。フフフフッ』
「笑ってないで教えてくれよ」
『フフフ、はいはい。どうすればいいかでしたね。視界右下にメニューがあるでしょう?』
「あ、マジだ。目が染みてて見えなかったわ」
それを手の平でタッチするといくつかまた新しい項目がその上に並んだ。
・アイテム
・装備
・ステータス
・フレンド
・マップ
・図鑑
「あーはい。完全に理解した」
『あら、本当?』
「マップマップと。なになにー?」
マップをタッチして出てきたのは当たり一帯のマップ。自分の現在地が矢印になっており、向いている方向がわかる。
「んー少し狭いな。範囲を広げらんねぇか?」
両手で画面に触れて絞るように動かすと、初めよりも広い範囲が見えるようになった。
『流石というか、飲み込みが早いですね』
「こういうのは現代人の男の子は適応能力が高いんだよ」
『人の事をババアと呼んでおいて二十一歳の自分を男の子はどうなんでしょうか』
「嫌味は聞かない聞かない」
ババアの嫌味を聞き流しながらマップをいじっていると少し南の方に街らしきものがあった。
「商業都市スラマバータ」
『名前の通りですね。結構物価高いですよ』
「…ちなみに俺の今の所持金は?」
『ステータスに書いてありますよ』
別タブでステータスを表示すると様々な項目があり、その中の所持金の欄に目をやると―――
【 0 】
「(ニッコリ)」
『……』
「別の町探すわ」
『是非そうして下さい』
もう少し自分を中心にマップを広くすると今度は東北東の方角にまた街があった。
「工業都市リーゼルハイン」
『こちらもほとんど名前の通りですが、少々治安が悪くて...土地勘の無い旅人をカモだと思う荒くれ者が多く、朝目が覚めたら身包み全部剥がされていたり、奴隷商に売りつけられていたりします』
「論外じゃねぇか。ここもなし」
『是非そうして下さい』
そうして向かう先の選別が進んでいった。
「ナツミ村」
『住人全員がエルフですので、種族関係の悪い人間が近づくと攻撃してきます』
「次!」
「首都ライネロイネ」
『ここから道中にドラゴンや下位悪魔が跋扈しています』
「次‼ 」
「農村ジュネ」
『村長が代わってから、渡らなければならない橋の通行税が高額に…』
「つぎィ‼ 」
「悪魔城ザルケード」
『言わなくても分かりますね』
「一応聞こうか」
『大悪魔アスモドゥスが討伐されて以来魔王が別荘にしています。今は幹部の何人かが住み着いています』
「えぇ…より悪化してんじゃん」
『もし行くなら―――』
「行くかぁ⁈ つぎィィ!!!!!!」
そんなことを続けているうちに日が傾いていた。服は乾ききって、唯一身に着けていた下着も湿り気が残っていなかった。
「ぜぇ…ぜぇ…どうすりゃいいんだよこれ」
『そうですねぇ、困りました』
「とりあえず商業都市じゃダメか?仕事とか見つけてどうにかできねぇ?」
『それがいいかもしれません。私の思った以上にこの世界はめちゃくちゃでしたね』
「はぁ、時間無駄にした」
『っと、すみません。私はこれにて。また明日にでも呼びかけてください』
「え、は?おいちょっと⁈ おい‼ 返事は⁈ 」
応えは帰ってこず風が木々を揺らす音とカラスのような声だけが返ってきた。
思っていたよりも風が冷たく、くしゃみが出てしまった。
「あぁさむ。服着よ」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」
「―――え?」
こんな時間の森の中に俺以外に人がいたのか。男の声だったがめっちゃ女みたいな悲鳴じゃなかったか?
急いでズボンを履いてマップを確認する。
「これは…‼ 」
数人に囲まれた一人。それと後ろの馬車のマークが記されていた。
「野盗か?」
けどなぁ、俺レベル1だしなぁ。こいつらも平均レベル6くらいって書いてあるから、大したことはないと思うんだけど今の俺にはなぁ…どうすっかなぁ…。
「お助けぇぇぇぇぇぇぇええええええ!!!!!! 」
「っるせぇなボケ!!!! ハッ‼ 」
咄嗟に口を抑えたが遅かった。ずっとあのババアに振り回されてイライラしっぱなしだったせいか反応してしまった。
「おい!あっちにも誰かいるぞ‼ 捕まえろ‼ 」
やっちまったぜおい。どうすんだよ。一応ババア呼んでみるか?
「あのォ…お姉さま?いらっしゃいますでしょうか、ワタクシ野盗に襲われそうなんですがぁ…」
勿論返答はない。
「あのゥ…今までババアと呼んですみませんでした、どうかお許しを。そして助けて下さいお願いします」
先程よりも丁寧に、電話越しのサラリーマンのように頭を下げるがしかし、応答はない。
あれこれもしかして死んだのでは?
「見つけたぞ!一人だけだ!こいつも身包み剥いじまえ‼ 」
来たよもう……こうなったら仕方ない。
「やるだけ、やってみるしかねぇか」
皇航は腰を落とし、異世界初めての戦いに備えた―――
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