異世界奴隷解放~世界中の奴隷を解放しろ!~
百鬼綺理成
序章
壱 『俺とババア』
皆さんは、占いを信じますか?
俺は勿論信じてはいませんでした。興味もないのに毎朝テレビで天気予報のあとに、延々十二位から一位までラッキーアイテムを添えて放送している所を聞き流す。
まあ占いなんて、その程度でしか俺には関係無かったんです。
あんのクソ占い師と出会うまではなぁ!
「はあぁ~~ぁあ、ねんむ」
一界の反社会的無気力大学生は今日も出席日数という宿敵と戦う為に戦場へと赴く。
振動するスマホを取り出すと友人の名前がそこにはあった。丁度良く電車の乗り換えでかかってきてよかった。眠気でぼーっとする眼をこすってイヤホンを逆のポケットから取り出して繋げた。
「うーっす」
「
「おん、正直眠すぎて乗り過ごすと思うから、居なかったら代筆よろしく~」
「ふふーん、そんなお前に朗っ報っだっ。ソルフェージュの井上、二日酔いで今日は休講になりましたおめでとォう!」
あいっかわらず適当だないかみっち。先月も同じようなことなかったか?
「まじかぁ、もう大宮なんだよなぁ」
「そのまま遊んでくれば?」
「はぁ、このまま帰るのも癪だからゲーセンでも寄るわー」
「またゲーセンかよ、金持ち」
「俺の金じゃねーし、俺が金持ちなんじゃねぇさ。ほんじゃ、おつー」
「あいー」
通話を切ってそのままアニソンを流す。空きまくりの登りエスカレーターに乗って溜まったLINYを返す。
お、有からじゃん、珍しっ‼
愛すべき唯一のひきこもり弟から連絡が入っていた。常識や一般人とどこかズレている弟と他愛もない話をして改札を出て階段をまた降りて駅から出る。
っとと。飯食ってねぇなそういえば
ゲーセンに向かう途中のラーメン屋に入って昼食をとる。まだ昼食には少し早い時間だったからか席はまだガラガラだった。
「らっしゃせーお好きな席どうぞー」
水を持った店員が着席を促してくる。音量を落としてからイヤホンを外し、席を見繕う。
せっかく人も少ないし、食べたらすぐに出るつもりだから、ここはカウンターよりもテーブル席にお邪魔しようかね。
「ご注文がお決まりなったらお呼びくださーい」
「あぁ濃厚を柔らかめ味玉トッピングで」
「濃厚柔らかめぇ、味玉ですね~」
店員が行ってしまう前に呼び止めていつもと何一つ変わらない注文する。そして出てきたラーメンを五分で平らげてゲーセンに向かう。俺のルーティンは非常に効率的だ。
「お待たせしゃしたー濃厚味玉でーす。伝票こちらでごゆっくりどうぞー」
備え付けのペッパーをこれでもかというほどふりかけて箸をとり俺は、
「いただきやす」
食事を貪った。
「ふゥ~」
肩に掛けたカバンを掛け直してゲーセンのある路地に向かう。何故かゲーセンってカラオケ屋と居酒屋が立ち並んでいる場所にが多いんだよなぁ。
タバコ吸ってる客引きのチョイ悪風兄ちゃんを数度無視して、俺は自動ドアをくぐった。
「うーっすドンジャラさん」
「あ!こんちャすワタリーさん」
真っ先に最短距離でカードゲームコーナーへ向かった。そこには、戦友がいた。彼の本名は知らないがかれこれ2年以上の付き合いだ。年齢も恐らく俺よりも2倍重ねてるおっさん。腹は出ているが気のいいおっさんだった。
「今日どうっすか、いいの出ます?」
「ぜんっぜんすわ、一時間座ってますけどホロすらないっす」
ホロ。キラキラしてるカードの事だが、ただのカードに上乗せしてステータスにボーナスが入るレアで、これが中々出辛い。
「そんじゃ期待できなそうっねぇ。やめとこっかな今日。今月そろそろヤバイし、クレーン見てきますー」
「うす!おつかれさんですー」
「おつかれっすー」
ああ言ったけどクレーンも別にいいわ。逆のゲーセンいくかぁ。
元来た自動ドアを潜ってイヤホンを取り出し、スマホに差し込み耳に入れようとして異質なものに俺は気付いた。
小さい紫のテントだけの占い屋がそこにはあった。
こんなものこんなところにあったか?二年以上この道通ってるけど、こんなものは初めて見た。
興味からなのか、怖いもの見たさなのか。
この時の俺は誘われるように中に入っていったのだけは今でも覚えている。
テントを潜った先は、テントの外見とは見付かないほど広く、明るかった。地面には多くの花が咲いていて、奥にはその景色とは似合わない黒のローブのフードを深くかぶった女が、水晶玉の奥で足を組んで座っていた。
その場で唖然としていると、思ったよりも若い声で話しかけられた。
「いらっしゃい。占いの館へようこそ」
「ん、おう。うす」
「さぁこちらへどうぞ?」
ちょっともうよく意味わかんなくなってきた。とはいえもう一つ席があることだし、とりあえず座ってから話を聞こう。
「さてと、ここに貴方が入って来れたということは、貴方にはこの占いの館を視覚で捉えられたということ。おめでとうございます、あなたは選ばれました」
「はー」
「……驚かれないんですね」
「現実味が無いしな」
「なるほど、そちらがあなたの素ですか」
「初対面で気持ち悪ィこと言うなよ。それより、俺は何に選ばれたんだ?」
「そうですね……まずはそれよりも他に聞きたいことがあればお答えしますよ」
「じゃあ、お前は何者なんだ?この部屋の仕組みは?これから俺はどうなる?」
「……素晴らしいほどに冷静ですね」
女は僅かに見える口元を綻ばせた。
「流石は
「あぁ…そういうのも分かるのね」
困ったな。あんま色々探られるようだと、こっちも―――
「ご安心ください。そちらはあくまで偶然。そうでもなければ運命です。貴方の家は呪われていることになります」
悟られたか。このババア中々に鋭い。やりづれぇな。
「……しかし先ほどの問いは全て後に分かること。私からわざわざ言う必要もないでしょう」
そういってババアは席を立ち、水晶玉に手をかざした。それは淡い光を放ちその存在を強調する。
「これからあなたは此処とは別の世界で使命を果たしていただきます」
「…一応聞くけど拒否権は?」
「ありません」
「力づくでも?」
席を立って慣れた構えをしてみせた。
「今のあなたでは不可能です」
「…そうらしいな」
対面してから感じていた気持ち悪さが現実味を帯びる。服の節々から見せる素肌はやせ細っていて、ただの貧弱なババアにしか思えない。だというのに、今の俺どころか人間が殴り殺せるような存在には思えなかった。
諦めて構えをといた俺にババアは言い放つ。
「用意はいいですか」
「大丈夫だ」
「あなたの使命は―――」
「―――その世界全ての奴隷を解放することです」
――――――うっわぁ。そういうやつね。俺にャちと難しいかもな、それは。
控えめだったはず水晶の光は、強くまばゆい光を放ち、世界を白く染め上げた。
あ。そうだ。
「せめて転生じゃなくて転移で頼む」
「え?」
豆鉄砲食らった鳩という例えがふさわしい表情、そして声をあげたババアを最後に、俺、皇航の意識は事切れた。
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