第24話 決闘ノ壱

 認めろの意味が分からない。


 「認めろとはどういう意味だ?後になって拡大解釈する気なら断る」


 あの時認めただろうと、無理難題を押し付けられるのはゴメンだ。


 ドンゴさんは頷き、エイラムにたいして説明を促す。


 「オイラを認めると宣言するだけでいい。あ、副隊長の付き人になるのは直接認めろ」


 「はぁ?」


 俺は観客席にダーツさんの姿を探す。居ない訳がない。だってあの時の含み笑いが……。


 見ーつけた。ってやっぱりニヤニヤしてるじゃないか。

 なるほどねぇ。組織で浮いた存在になってしまったエイラムの再教育と、俺の付き人教育のライバル役の一石二鳥を狙ったって訳ね。


 「お前の言い分は分かった」


 「「「おおおお?」」」


 修練場は決闘開催に傾いた事で、熱を帯びた。


 でもねダーツさん。


 俺、もうコイツのこと相当嫌いだから。

 コイツが浮きまくったのは、責任者がさっさと手を打たなかったからでしょ? そのせいで嫌な思いをした人がいっぱいいた訳でしょ?


 そうそう簡単にはいそうですかと、手を握る訳にはいかないねぇ。


 「ルー。望みを述べよ」


 ドンゴさんに促され、俺は深呼吸をしてからエイラムを見据える。


 「エイラム。俺が勝ったらチームソフィアの全員に頭を下げてお願いするんだ。心を入れ替えますから仲間と認めて下さいってな」


 「くぎぎ……だからその為にお前に認められ……ああ!分かった!それでいい!」


 「双方、望みを理解し決闘に破れし時はこれを履行すると誓うか」


 「「誓う」」


 「「「おおおおおお!!」」」

 「「「よっしゃーーーー」」」


 その宣誓に決闘場は盛り上がり、会場の興味は開催から決闘の行方へと移ってゆく。


 「よしよし面白くなったぞ」

 「普通にかんがえりゃエイラムだが」

 「ルーも最近は悪くねぇ。ヨゼフと訓練してるからな」

 「ヨゼフって最近コッチで訓練してるヨゼフか?ならちょっと楽しみだぜ」


 「あーん、ルーがぼこられちゃうぅ」

 「ルー!敵わないと思ったら降参して良いんだからな!」


 「どっちに懸ける!?」

 「あーシャロンさん引き抜かれたから胴元がいねえ!」

 「あー確かに!」


 盛り上がる会場を他所に、修練場中央では決闘の準備が粛々と続けられている。


 武器には泥炭を染み込ませた布を巻いて、攻撃の当たった場所などを加味して審判が勝敗を決めること。

 参ったと言えばその場で負けが確定すること。

 今後の生活に支障をきたす怪我をさせた場合は反則負けとなること。

 ココまではまあ納得だったのだが……。


 その他、固有の技や法術・精霊術には制限が無い事が告げられる。


 ……やべえ。


 なんか勝手に俺に合わせて法術禁止にしてくれると思い込んでた。


 只でさえ身体能力で負けてるっぽいのに、法術かぁ。しかも武器には布を巻くが、エイラムには小刀の他に爪も牙もある。


 でも……。


 俺は大好きなココの人たちを見下すコイツを許せない。勝ってコイツに土下座巡りさせるんだ。


 俺は少しでも不利を補うために、ここ数日のエイラムの様子を思い浮かべてみる。


 ……何かあった筈だ……。少しでも攻略のヒントを……。


 ……だーーーー!ムカつく所しか思い出せねえ!

 やべえ。なんか無かったかなんか!


 「双方構え。……始め!!」


 くそっ始まっちまった。

 取り敢えず距離を取る。懐に入られて一発で終わるのは断固拒否だ。



 「開幕攻めたな」

 「まあ、当然だが……」


 「意外に防ぐな。ルー」

 「防御の型がきれいにハマってるな」


 客席の前列。真剣にに両者の試合運びを見守る一団が居る。

 一塊に座ったその一団は、元からのチームソフィアが二名、チームゴーグールからの編入者が二名の四名組だった。


 チームソフィアの一人は口数少ない古株の犬族デイブ。

 もうひとりは人族のヤック。どちらも戦闘班でルーの戦闘能力をそれほど知る人物とは言えない。


 編入者の一人は負傷離脱者である犬族のアシバン。以前のチームでは長く中堅を担ってきたベテラン所である。

 引き抜かれていったシャロンが、詳しく情報を聞いた相手であり、移籍組では最も早くチームソフィアに馴染んだ人物である。

 その隣は人族のポジー。今回の人族排除でチームゴーグールから出された運搬班所属の人物。この二人はエイラムをよく知る人物と言えた。


 「エイラムが攻め倒すのは分かっていたが、ルーと言ったか、意外に防ぎますな」


 アシバンの言葉通り、エイラムは短期決戦を仕掛けて開始早々猛攻を繰り出している。


 そのエイラムの右足が、引き気味に構えるルーの軸足を刈ろうと、水面蹴りよろしく地面を滑る。


 ルーはエイラムの動きが良く見えているようで、最小限のステップで蹴りの範囲から逃れ、回し蹴る足が過ぎた直後に、ステップインしてエイラムの首筋にククリを振るう。


 だが、隙に見えた背中は、守備の堅いルーを誘う罠だった。


 上体を更に低くしたエイラムは、ルーの繰り出したククリの下を潜り、水面蹴りの二連発を放つ。


 がっ。


 体重を乗せてステップインしたルーの右足は、エイラムの放った水面二段蹴りに見事に刈られ、ルーはその場で前のめりに一回転してしまう。


 尻もちを付いたルーにエイラムの小刀が迫る。


 回転し、肉球がこすれる音を発する軸足。

 今までより随分と離れた位置に着地した踏み込んだ足音。


 ルーはエイラムの踏み込みが、やけに深い事をその足音で知り咄嗟にエイラム側へと転がる。


 今までの逃げの戦い方から、離れる方へと回避行動を取ると予想していたエイラムは、突然の懐への回避に虚を付かれ、脚にぶつかってきたルーに躓き、前のめりに転んでしまう。


 「「「おおお」」」


 修練場から沸き起こるどよめき。


 「決まるかと思ったが……」

 「頑張れ!ルー!」


 「何だ今の?」

 「おかしかったですな」


 視線を向ける事無く、エイラムの深い斬撃の裏をかいた動きは、戦闘班の一部の猛者の首を傾げさせた。


 「それにエイラムの反応が鈍いですな」

 「アシバンさんもそう思いますか」


 「ここからだと分からないが、目か耳を負傷したのかも知れませんな」

 「そうですね、確かにそんな動きですね」


 エイラムの動きに疑問を持つ移籍組二人の前、最前列で懸命に声を張ってルーを応援する者もいる。


 「よく躱した!基本の型を思い出せ!足捌きと重心だ!」


 その声に周りの空間が少しだけ和む。

 声の主はルーの稽古相手、ヨゼフ。

 ルーがここへ来て以来、最も変化した男でもある。


 ヨゼフの声に釣られるように、ルーに応援が飛び、対するエイラムにも掛けたんだから損をさせるなと声援が飛ぶのだった。

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