第23話 エイラムサイド
エイラム。
白狼種の血を受け継ぐ犬系。5才で黒ミミ盗賊団に拾われ、一年でチームゴーグールの一員として仕事に参加する。
まだ幼いとはいえ、元々の高い身体能力はそこそこの使い勝手があり、特にナシナシを忌避するゴーグールの元、実力以上の待遇を受けていた。
副隊長のロイズがエイラムの行いを黙認した為、エイラムの増長は激しさを増し、遂には人族以外からも不平が出る事態になった。
そしてエイラムはミスを犯す。
自分に割り当てられた見張り番を、他の者に押し付けて眠り、その時間に襲撃を受けたのだ。
ひと仕事終えた後の帰りは、隊全体の気が緩む。それ自体はいつもの事なのだが、今回は状況が悪かった。
襲った旅団を手中に収めたものの、雑な情報収集といい加減な仕事ぶりで、旅団長の娘を死なせた上に旅団長らと複数の護衛を逃してしまっていた。
旅団長が街に引き上げず、復讐者と化してに追跡をしてくる事を懸念して、ゴーグールは夜間の索敵能力が高い者を選んで、夜の見張りをさせていた。
悲劇はミスを狙ってやってくる。
エイラムに見張りを押し付けられた鳥族の者は、夜目が効かず忍び寄る復讐者に何の抵抗も出来ずに命を奪われてしまう。
地力で勝るチームゴーグールは復讐者を返り討ちにするも、貴重な人材と略奪した高価な品を失うこととなったのである。
かくしてエイラムはチームゴーグールでの居場所を失い……。
「なんでオイラがナシナシなんかと一緒なんだよ!」
チームソフィアへと放逐されたのであった。
◇
おかしい。
そりゃ見張りを交代したのは悪かったかもしれねえけど、あの鳥野郎だってちゃんと見張ってりゃあんな事にならなかったのに。
モーズさんはこの女が隊長をするチームで実績をつめなんて言うけど、女が行く仕事で実績なんか積みようがないだろ。どうせこっそり盗むだけだろう?
白狼の系譜を持つこのオイラが、女の下でこそ泥なんておかしいだろ。
ここのヤツらもおかしい。
チームソフィアなんてチームゴーグールの二軍じゃないか。一軍から来たオイラをなんで無視するんだ。オイラはチームゴーグールの副隊長ロイズさんの右腕になる男だぞ。
チームゴーグールのナシナシなんて、文句も言わずにオイラの命令に従うのに、ここのヤツらは無視するどころかフンと鼻をならしやがる。
覚えてろよ。ここのヤツらなんかどうでもいいんだよ。オイラはチームゴーグールに戻るんだからな。
◇
ありえない。
チームゴーグールがオイラを置いて仕事に行っちまった。
ちょっと反省させるだけの芝居じゃなかったのかよ。オイラは一体誰の下なんだ。誰がオイラに命令するんだ。オイラは序列のどこなんだ……。
ありえない。
なんでここのヤツらは、オイラを無視するんだ。前は黙って言うことを聞いていた、チームゴーグールに居たナシナシまでもがオイラを無視しやがる。
◇
オイラがおかしいのか?
オイラはロイズさんの右腕だって脅してやった。
実際はまだ右腕じゃないけどいずれそうなるんだ。嘘じゃない。そしたらハンって笑われた。何笑ってやがるって掴みかかったらこう言われた。
「ロイズが住処じゃおとなしい訳を知らないのか?」
疲れて帰って来るんだから当然だと言ってやったらまた笑われた。
「ロイズは一昨年ソフィアの姉御に絡んでボッコボコにやられたからな。外じゃ威張り散らしてるんだって?」
うそだ。いい加減なこと言うな。
……でもあの女の居る所じゃたしかに……。
オイラが? おかしい?
胸が苦しい。頭が痛い。オイラの序列はどこなんだ。まさか一番下なのか? 白狼の系譜を持つこのオイラが、ナシナシにも劣る最低の序列なのか?
◇
なんだあのガキ。こんな朝早くから薪集めか。無能なナシナシらしい仕事だな。でもまぁせっかく集めた薪ならオイラが有効に使ってやる。感謝すればいい。何なら子分にしてやるぞ。
なんだあのガキは。
チームゴーグールに居たオイラの名前を知らないヤツが、なんであんなナシナシの名前を知ってるんだ。しかも集めた情報じゃチームソフィアの副隊長ダーツの付き人らしいじゃないか。
付き人は弟子と同じ。ナシナシのガキが弟子だって?ダーツもナシナシだから弟子のナシナシなんだろうが、あんなガキが?
じゃあ白狼の系譜を持つオイラはソフィアの弟子だな。ソフィアもオイラが弟子入りするならきっと喜ぶだろう。仕方ないソフィアの弟子として実績を積もう。
直接ソフィアに弟子になってやると言いにいったら。いきなりぶっ飛ばされた。地面に弾む間もなく連続でぶっ飛ばされた。恐ろしい女だ。
……くそ。オイラはどうしたらいいんだ。
医療班のドンゴってヤツに会った。このチームじゃ相談は副隊長のダーツにするそうだ。まぁ隊長がいきなりアレじゃ相談にならないとは思う。手当の礼はしておいた。
◇
「ルーってヤツはどこだ?教えてくれ」
副隊長のダーツに会いに行った。オイラがまずい状況だって事を念をおされ、上から見る事に何の意味もないと言われた。そもそもお前は上なのかと、とも。
オイラはダーツに今のまずい状況を改善する提案を受けた。命令じゃなく提案だ。おかしなチームだと思ったが仕方がない。
「ルーってヤツはどこだ?」
「なあ、ルーを知らないか」
副隊長の提案通り、上から偉そうに言わなければナシ……人族も返事をしてくれる。ルーの場所を教えてくれたヤツはナシナシと呼ぶのも止めたほうがいいと言う。
「あ!」
ようやく見つけたぞルー。ひょろい人族と訓練か……ガキの割には結構やるが……まぁまだまだな。
「ここで言えないような事なら聞く気はない」
こんなに苦労して探したのに、なんだその態度は。コイツが皆に認められてるって?オイラは副隊長との会話を思い出す。
「付き人になって一から出直したいなら、ルーに認めてもらんだな。ルーが先任だからな。それにあいつが認めたなら他のヤツの風当たりも弱くなるだろうさ」
オイラはルーを指差して叫んだ。
「決闘だ!ルー!」
お前にオイラを認めさせてやる!!
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