俺の平穏が壊れてきている件

「私を呼んだのは君、かな?」

「は、はい!」

 今は校舎の裏に来ている。

 実際に告白の場面を見るのは初めてだな。

「あ、あの~一ついい?」

「どうかした?」

「い、いやそこの男子は?」

そりゃそうだよな。本来は二人で行われることだったし、俺がいるのも変なことだ。

「ああ、俺のことは気にしないでくれ」

「?わかった…。好きです!

 付き合ってください!」

おお!告白した!見た感じ優しそうな性格してるし悪い奴ではなさそう。

「…ごめん」

「そ、そっか。好きな人でも?」

「うん。この人と付き合っているの」

「!そ、そうだったんだ!め、目の前に彼氏が

 いるのに告白してごめん」

「俺のことなら気にしなくて良いぞ。

 さっきもそういったし」

「わ、わかった。時間とってごめんね。

 じゃあまた明日」

 うっ、断られるのってやっぱり辛そうだな。

 心なしか背中から哀愁が漂っている。

 これが俺も文月に告白できない理由の一つだ。告白というのは成功すれば今よりも関係が一つ進むし、友達や幼馴染みでは出来ないことも出来るようになる。しかし裏を返してみれば、今の関係が無くなるということでもある。

 自分の思い込みで壊すぐらいなら……と、いつも考えてしまう。

…いつかその時が来るのだろうか。

 自分の事だが、確約は出来ない。

 告白というのは両想いでもない限り、一方の感情の押し付けでしかない。

 失敗するとどちらもデメリットしかないのは、火を見るより明らかだ。

…そんなことを言ったら告白する奴なんていないんだがな。

 改めて告白の重みを噛み締めていると、

「今日はありがと」

文月がお礼を言ってきた。

「いつもこんな感じなのか?」

「まぁ、そうだね。何度もしつこくしてくる人

 もいるけど」

「大丈夫なのか?怪我をさせられたりは?」

「ふふ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。

 自分の事は自分でやるから」

「…本当にやばくなったら言えよ」

「うん!ありがと」

 モテすぎるというのも考えものだな。

 俺達は他愛ない話をしながら帰路につくのだった。




____________________________________________




 次の日学校に行くと、クラスの空気がいつも

と違うのがすぐにわかった。

 周りを見渡してみると、文月のところに大柄の男が立っているのがわかった。

「なあ俺たち付き合おうよ、文月ちゃん」

「…やめてください、東條先輩」

 話を聞くと東條というのがこの男の名前らしい。見た目はチャラく、話を聞く限り文月にしつこく絡んできているようだ。

 東條という名前は少し聞いた事があるな。

 俺は近くの生徒に聞いてみることにした。

「なぁ、少し良いか」

「ん?どうしたの石波くん」

 おお、この女子生徒は俺の名前をしっかり覚えてくれていた!少し感動を覚えたが話を進めることにする。

「あの生徒ってどういう人だ?」

「ああ、東條先輩のことね。名前はわかる?」

「いや」

「そう。名前は東條直也(とうじょうなおや)。

 この学校の三年生で、顔立ちも整っている

 から女子生徒に人気なんだけど、あまり

 良くない噂も出てるの」

「良くない噂って?」

「気に入らないとすぐに手を出したり、

 欲しいものは力付くでも手に入れるって。

 それで何人も怪我をしてる」

「それが本当だったらやばいな」 

「あくまで噂だけどね。信じてない人もいるし

 本人も否定してるから」

「分かった、ありがとう」

 俺は女子生徒にお礼を言い、文月のところに向かうことにする。

 今の話が本当なら、早めに対処しておかない

と文月が危ない。 

「ねえねえいいから一回付き合おうよ」

「私には彼氏がいると言いましたよね」

「そんなの嘘でしょ。本当にいたとしても

 俺の方が」

「ちょっと良いですか」

 声をかけると不機嫌そうな顔をしてこっちを見る東條先輩。

…なるべく穏便に済ませたいけどそうもいかないだろうな。

 俺はこれから起こり得る事を想像しながら、

話し合いを進めるのだった。


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