➤4話 初めての友達


「ふぁ〜あ…」


 俺は藁の上で寝ている。藁がチクチク背中を刺し、最初は寝不足が続いたが、今ではもう慣れてぐっすり眠れる。


 今年で4歳になり、髪もだいぶ伸びた。俺の髪は漆色で、まともに洗っていないから荒れている。前世とは違って、洗剤も綺麗な水も無いから仕方ない。


 そして、2歳の時から自分の体に違和感は感じていたが、4歳になって身体能力が異常であることに自覚した。1歳までは並より早い成長程度で、そこまで気にしなかったのだが、2歳頃から人並み以上の運動が可能となっていたのだ。走力は並みの大人以上で、野菜の大袋も軽々と持ち上がれたのだ。


 この時点で異常なのだが、4歳の今では倒壊している大きな瓦礫を片手で持ち上がれる。超人体質というやつかな。それにしても、体はゴリゴリマッチョではない。ややがっちりしているだけの4歳児らしい体だ。


「アル、おはよう」


 最近では「アル」と呼ばれるようになった。アベルって結構短いと思うんだがな。前世の神話かなんかでは殺される側だから、不吉に思っていたから別にいいけどね。


「母さん、おはよう!」

「ご飯はそこに置いてるよ」


 これは母さん、イザベルだ。俺のお揃いの黒髪長髪で、ほっそりとしたスレンダー美人だ。年齢は22歳で、俺が死んだ年齢と同じ年齢だ。

 

 まだ隠しているが、この辺りの医師となっている。しかも魔術でだ。詰まる所、治癒魔術師…といったところか。


 そんなこんなことを考えてると、俺は朝ごはんのバナナスを食い終える。我が家の食事はほとんど野菜だ。前と変わらず貧しい生活をしているが、少しだけレパートリーは増えた。たまに火を起こして野菜だけの炒め物を作ってくれたりもする。


「今日も買い物に行ってくる?」

「お願いね。今日はトマトンともやしを買ってきてね」

「お任せあれ!」

「気をつけてね」


 俺は胸をどんと叩き、胸を張る。この頃は買い物に出かけることができるようになったのだ。「買い物に行きたい!」と懇願し続けたら渋々許可をもらえた。ただし、ダンさんのところだけという条件付きである。あの人は根っからいい人だから信用できる。文句はない。


「う〜ん…いい天気だ」


 俺は思いっきり拳を挙げて、背伸びをする。


 いい天気なのは久しぶりだ。いや、ほんと。


 二歳まで、ずっと黒い曇天が渦巻いていた。強烈な風とか雨はなかったが、黒い不気味な空だった。しかし、二歳が過ぎた頃からこうして空が晴れる日が増えていった。


 漫画かなんかにもあったな。俺が忌子で「悪魔の子じゃ! 今すぐ殺すべきじゃ!」とかね。うん、ないない。どんな中二病設定だよ。でも、俺が身体能力が異様に高いからあり得るのかも。いやいや……


 まぁ、ずっと薄暗い生活していたからか、すっきりとした爽快感がある。

 ヒリヒリと日差しが気持ちいい。


「うん。今日はバナナスを持って行こうか」


 俺はいつも通り、秘密の菜園で野菜の手入れを行う。草むしりをしてから、蔦に生えているバナナスをちぎり取る。

 そして、新たな野菜の収穫も開始した。試行錯誤の繰り返しで俺の菜園で育てられる野菜がなかなか見つからなかったが、2点の野菜の栽培に成功した。今では三十メートルの畝に伸び、トマトンとウリンゴの列が新たにできた。


ウリンゴ…濃い緑で瓜の形をした果物。味はリンゴ。

トマトン…栄養価が高く、超甘いトマト。


 ダンさんの株を奪う結果になったが、美味しさはあちらの方が一段上である。


「……これもついでに持って行くか」


 レナッツとウリンゴ、合わせて数十個収穫する。


「動物とかの荒らしがないのが救いだな」


 うまい野菜を育てていると、周りの動物に狙われるのが常だ。うちは天井に空いた穴には網を張って室内育成を行なっているため、鳥による荒らしは防げている。


 そして、母さんの話によると、家の川の向こうの森には魔物が多く生息しているらしい。そこから出てきたりしないかと思ったが……一度たりとも出てきたことはない。


 人による荒らしもなかった。我ながらいい場所を見つけたもんだ。


 とはいえ、ずっとコソコソしているのは気が引ける。母さんに、菜園のことを明かして野菜の販売をすれば、金も入ってくるようになる。

 まずは怒られると思うけど……


「んー…そのうち…な」




◇◆


 俺は大袋に入れた野菜を運んでいる。明らかに自分よりも大きい袋をサンタクロースのように片手で持てる。やっぱり身体能力が異様に高い。


 努力もしていないのにこれほどの身体能力はおかしい。やったことと言えば、畑作業くらいだ。あ、畑作業で自然に鍛えられたのかもしれない。


「ここらに置いとくか」


 とりあえず俺は袋をダンさんの付近の草むらに隠し、敷居店に向かう。


「おはようございます! ダンさん!」

「おお、アルか! 今日もおつかいか?」

「はい!」


 まずは買い物だ。その後にこっそり廃棄処分の野菜と交換をする。我ながら面倒くさいことをする。


「もやしとトマトンをください!」

「ほらよ」

「ありがとうございます!」

「ああ、そうだ。これも持ってけよ」

「え、いいんですか?」

「ああ、お母さんと一緒に食べな」

「ありがとう!お母さんも喜ぶと思います!」


 きゅくりを受け取り、ダンさんの敷居店から手を振りながら去る。

 ダンさんも応えて振ってくれた。


「……よし」


 貰ったきゅくりも俺が収穫したものだ。品質は悪くないからなのか、いつも何個か店に並べている。


 俺が渡した野菜がそのまま俺に回って来ている。意味のないスパイラルだ。


「ん? あれは…」


 俺は足を止めて、草むらに隠れる物体を視認する。

 フードを深く被った子供だ。

 そいつは俺の作物を漁っていた。


「ああ────ッ! 何してんだお前ッ!」

「ッ!」


 そいつは気づいたのか袋を持って一目散に走って行くが、俺の走力は並以上だ。

 俺は、一瞬で距離を詰めて並ぶ。


「ひぃぅ⁉︎」


 若干引きつった声で驚かれる。


「それを返せ!」


 俺はそいつの腕を掴んで引っ張る。

 瞬間、鈍い音が聞こえた。



 ───グギャ。



「え……?」


 俺は音がした方へ目を向けると、腕がだらんとした。先ほどの音は骨を握り潰す音だったのだ。


「ぎ、ぎゃあああああああぁああああ⁉︎」


 現状に気づいた子供は発狂したように泣き叫んだ。


「ど、どうすれば⁉︎」


 こんな所に病院とかあは訳がない。この辺をずっと散策していたから間違いない。

 あ…母さんだ。癒術師の母さんなら治せるはず!


「あぅううう…」


 俺は狼狽しながらも、渦巻くるそいつを抱えて走る。母さんもそろそろ家から出かける。急いで帰れば間に合うはずだ。


 一直線に家へと駆け、数十分も満たさずに家が見えてきた。そして、俺は家の幕を思い切り払って中へと入る。


「母さん!」

「今日は早いの…ってどうしたのよ⁉︎ その子は⁉︎」

「け、怪我をさせてしまったんだ……」

「ゆっくり横にしなさい!」


 俺は母さんの言葉の通り、ゆっくり藁の上に降ろす。すると、取れたフードの中には少女の顔が出てきた。純白の長髪で、肌は雪のように真っ白だ。

 それにしても、何処かで見たような……


「うぅうう…」


 母さんが服を脱がし、露わになった左腕は真っ赤に膨れていた。


「アル! そこの袋持ってきて!」

「う、うん」


 指を差された袋を母さんに渡す。

 母さんは勢いよく袋を広げ、何の迷いもなく緑色の石を手に、本の一ページをパラパラと開いて詠唱した。


「汝に癒しを与えん『回復光ヒーリング』!」


 緑色の石が薄緑色に輝いた。すると、腫れた手首はだんだんと萎み、元に戻っていった。


「あぐぅう……」

「大丈夫よ。怪我は治ったよ」

「……ハッ!」


 気がついた少女は即座に壁に張り付いた。

 治してもらったっていうのに失礼な反応だ。

 ………俺のせいだから俺が言うのもダメか。


「私よ、イザベルよ。エリーゼちゃんだよね?」

「あ、イザベル…さん…?」


 母さんと知り合いのようだ。俺も見覚えがある。

 どこだったかな……。 あ、一年前の魔病の子だ。


「何があったの?」


 少女は俺の顔を見た。その顔は怯えと焦燥の顔に染まっている。


「あ…うっ……うぅ……!」


 すごい怯えられようだ。俺と母さんを交互に見ている。少女は何かに脅されているような雰囲気だ。もしかしたら俺が脅迫していると勘違いされているかもしれない。


 盗んだのは確かに悪いことだ。しかし、俺は人を傷つけたのだ。盗んだことは置いといて、まず謝るべきなのは俺の方だろう。

 そして、俺はエリーゼに一歩近づく。


「エリーゼ」

「ひっ…」


 こうも分かりやすく怯えられるとショックだ。

 そんなに怖い見た目なのだろうか。


「ごめんなさい」


 俺は正座をして、頭を地面にぶつけて全力で謝る。


「ちょ、ちょっとアベル、どうしたのよ?」

「野菜を取られたことで我を忘れ、君の腕を折ってしまいました。謝っても許されないと思うけど……ごめんなさい」

「………え!」


 エリーゼはなんか口パクパクしている。母も「えっ?えっ?」という顔だ。全力で謝りすぎたかな。

 けど、腕を折ったのだ。これでも足りないだろう。


「……えっと、私の方こそ……」

「僕にできることなら何でもします」

「そ、そこまではいいよ!」


 お互いに頭を下げている。しばらく沈黙が続く。

 すると、締めるように母さんは言った。


「そっか、お互いに悪かったのね」


 母さんは俺の頭に手を置き、エリーゼと向き合う。


「エリーゼちゃん、うちの子がごめんなさいね」

「い、いえ…」

「今日はうちのレナッツを持ってお帰り。魔力が減っていたから食べ物が欲しかったのでしょう?」

「あっ……その…」

「いいのよ、これからもアベルをよろしくね」


 母さんは微笑みながらそう言った。

 しかし、少女はビクビクした目で俺の方をチラチラと見られる。


「エリーゼちゃんで……いいかな?」

「う、うん」

「怪我させてしまったけれど、これからも一緒に遊んでくれる…? 僕、友達がいなくて……」


 俺は肩を落として暗くしてみる。


「あ……私でよかったら……」

「本当⁉︎ やった!」

「…………!」


 俺は子供らしくそう言ってみると、エリーゼは爛漫に明るい表情になった。子供はわかりやすくていい。


「ほら、アル。ついて行ってあげな」

「わかった!」


 母さんの後押しもあり、見送ることにした。



◇◆


「………」

「………」


 沈黙が辛い。エリーゼはチラチラこっちの様子を見ている。怖がられているのかな。俺は温厚ってことを知ってもらわないと。

 とりあえず、もう一度謝ろう。


「ごめん、腕はもう大丈夫?」

「う、うん」


 まだちょっと怯えられている。そんなに怖いかね。

 よし、イケメン対応をしよう。


「その袋、僕が持とうか?」

「───ッ!」


 ええー。袋をぎゅっと抱き締めて「渡さない!」って顔だ。まだ信用されていないのかな。

 まあ、こんな世界だ。簡単に信用できないのは当然か。


「盗ったりしないよ」

「信用できない……」

「エリーゼ、その野菜は元々僕の物だよ?」

「うっ……そ、それは………」

「冗談だよ、盗ったりしないって。ほら」


 強引に袋を奪う。一瞬悲壮な顔をされたが、俺が逃げなかったからか安心してくれた。


「ねぇ、なんで僕の野菜を盗ろうとしたの?」

「なんかね。魔力の高い食べ物をずっと食べていないと体が弱っちゃうんだって。 それでね、空腹を感じたらレナッツを食べなさいって言われてたんだ。でも、今日は遠くに出かけてしまったんだ」

「なんで?」

「……周りのことに興味があったんだもん」


 そうか、好奇心か。

 それは仕方ないな。


「あれ? じゃあ、なんで持って逃げたの?」

「…びっくりしてつい……」


 ついか。俺にびっくりして持って行ったら、腕を折られたと。

 本当、申し訳ないことした。


「ねえ…ええっと、アベルでいいんだよね?」

「アルでいいよ」


 「アル」っていう愛称は割と気に入っているし、前世の知識で「アベル」って名前は不吉だしな。


「じゃあ…ア、アルの目はなんで赤いの?」

「えっ? そうなの?」

「う、うん……」


 初めて知った。赤目で、荒れた黒髪……悪魔のような容姿。つまり、エリーゼは悪魔に腕を折られたと感じたのか。

 そりゃ怯えるわな。


「……怖い?」

「う、うん。ちょっと……」

「そっか……」


 うーむ、やっぱりか。


「で、でも、アルが怖い人じゃないって分かったから大丈夫だよ!」


 健気だなあ。子供は純粋だ。

 しかし、まさか見た目が中二病のような感じだとは思わなかった。母の目は赤くない。黒色で日本人に近い感じだ。……父の遺伝だろうか。記憶も朧気だが、赤ではなかった気がする。


「そういうエリーゼも両目の色が違うよね?」

「う、うん、生まれつきなんだって」


 エリーゼだって両目の色が違う。左目は青色、右目は灰色のオッドアイで、どっちも綺麗に映えている。特に灰色の目の方は吸い込まれるように輝いている。灰色というか、ダイヤモンドに近い感じだ。

 じっと見る俺に対して、目を逸らすエリーゼだ。


「変…だよね?」

「ううん、綺麗だよ」

「そ、そう? じゃあ、髪は…?」

「髪も綺麗だよ」

「そっ、そう……」


 エリーゼは顔を赤くした。肌が白いからか余計に赤みがかかって分かりやすい。ウブだねえ。


「あ、そろそろ家だよ」


 到着するなり、俺は野菜を入れた袋をエリーゼに渡した。


「ママ!帰ったよー!」


 エリーゼはドアを叩くと、奥からドタドタと慌しい足音が聞こえた。


「エリーーーーーッ⁉︎」

「あばっ⁉︎」

「アル⁉︎」


 ばーん!!とドアが勢いよく開き、俺の顔面から体全体にぶつけた。エリーゼは顔面スレスレでギリギリ当たらなかったようだ。

 俺は、たりっと鼻血が出た程度で済んだ。頑丈な体でよかった。


「エリー!どこに行っていたのよ!探したわよ!」

「ごめんなさい…」


 怒髪天のおばさんに、項垂れるエリーゼだ。

 しかし、一度もこちらを見ない。

 俺はスルーですかい。


「あれ?レナッツ?どうしたのよ、これ」

「イザベルさんの所に行ってた」

「イザベル?何してたの?」

「怪我を治してもらった」

「あら、また礼を言わないとねえ。───ん?」


 やっと気づいたようだ。


「あら?イザベルの所の子かい?」

「はい」

「目つきが悪いわね」


 いきなりショックだ。目つきも悪いのか。

 このおばさんストレートにモノを言うな。俺の心を貫通したぞ。


「……ええと、アベルといいます」


 エリーゼは、おばさんの腹をバシッと叩く。

 俺は目を薄めながら改めて自己紹介した。


「あ、ごめんなさいね。ハッキリ物を言うタイプでね。私はエリーの母のアリアです。よろしくね」


 一応は自覚はあるのか。なら、自制してほしいものだ。リアルに4歳児だったら泣くセリフだぞ。


「あなたがアベルね。イザベルから色々聞いてるよ! なんでも成長が早いらしいね」


 ほぉ、母と近所付き合いをしているのか。

 表裏がないってことで信用しているんだろうな。

 どちらにしろ、礼を言っておかねば。


「はい、母がいつも世話になっています」

「あらあら、律儀な子ねえ。いい男見つけたじゃない、エリー」

「ママ‼︎」


 いきなりぶち込んでくるな、この人。赤面したエリーゼは慌てておばさんを家の中へと押し込む。

 

 でも、悲しきかな。体格が違いすぎて、ずるずると足を滑らせながら必死になっている。

 微笑ましい光景だ。


「立ち話もなんだし、入りなさいな」

「あ、はい」


 中は結構いい感じだ。壁は少し捌けているが、台所も完備しているし、屋根にも穴がない。

 そして、トイレもある。うちのトイレは裏方の川だ。最初こそは抵抗があったけど、もう慣れた。我が家はこの辺では貧しい方だ。

 はぁ、前世の陶器トイレが恋しい。


「そこらで適当にかけてね」

「はい」


 俺は何故か緊張で、正座してしまった。

 足が痛い。


「それで? いつ婚約するの?」

「ブッ!」


 ……いきなりぶっ込んできた。

 まだ俺、四歳ですよ。


「いやね、髪や目が変わっているでしょう?」


 ふむ、変わっているな。

 おばさんの髪は金髪で両目とも青色だ。エリーゼは銀髪で青と灰のオッドアイだ。変わっているといえば変わっているが、変ではない。


「元気になった時にね。よその子によくいじめられていたのよ」


 マジか。こんな可愛い子をイジメるとか、なんて不届き野郎だ。


「でも、この子が友達を連れてくるとは思っていなかったわ」


 エリーゼにとって初めての友達認定されたってことなのかな。今日会ったばかりなのだが…


「いえ、今日、エリーゼと初めて会いました。いきなり僕がエリーゼに怪我をさせてしまったのです」

「あら、そうだったの」

「本当に申し訳ありません」

「でも、エリーが許したんでしょう?でないと、うちになんか連れてこないわ。それに、エリーの真っ赤な顔初めて見たわよ」


 むふふ、と口に手を当てながら笑われる。


「あなたみたいな聡明で律儀な子は大歓迎だわ。それで?婚約、する?するわよね?」


 ぐいぐいと迫られる。4歳児に何を求めてるんだ。


「いえ、それは追々考えておきます。まずは友達…からよろしくお願いします」

「あらあら、遠慮しなくてもいいのに…」


 遠慮というか、単に早すぎるだろう。四歳で婚約とか王族じゃないんだから。それとも、実はどこかの貴族の出だったりとか………ないか。


「いえ、その………もう暗いですし、今日はもう帰ります。母も心配しているでしょうから……」


 俺は逃げるように正座から立ち上がると、足に電撃が走った。


「お、っとと…」

「フフッ、痺れちゃったのね」


 足を伸ばし、痺れが引くのを待った。


「もう大丈夫です。じゃあ、また」

「気をつけてね。お母さんにもよろしく伝えといてね!」

「はい」


 おばさんに一礼する。エリーゼはいつの間にか起きて、おばさんの後ろに隠れている。


 それにしても隠れるエリーゼの顔が赤い。どこから話を聞いていたんだろうか。


「エリーゼ、また明日…」

「……でいい」

「ん?」

「その…エ、エリーでいい…」

「……じゃあ、またね!エリー」

「…!またね!」


 エリーの家からバイバイした。おばさんに至っては「あらあら、若いわねえ」と言っていた。おばさんの押し付け婚約はこれからも続くような気がするな。


「……友達か」


 前世ではあまり友達はいなかった。俺は漫画やゲーム、アニメの二次元にのめり込むあまり、中々趣味が合う人がいなかった。そのせいだろうか、俺が友人だと思える人が少なかった。


 いや、俺が他人に興味を持たなかっただけだろう。

 趣味が、考えが、合わなかったらすぐに突き放していた。そのせいで孤立したとも言える。


「今度は大切に、向き合わないとな」


 こうして俺は異世界で初めての友達ができた。

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