歓迎3

 目覚めた部屋に置いてあった黒いリュック。なんの変哲もないあれが、もしかすると今後の展開に大きく関わるのかもしれない。


 ただ、あのキーアイテムについての記憶が薄いのが難点だ。なんせ目に入った数秒後にはフェイドアウトしてしまった。僅かな記憶を呼び起こすと、汚くはなかったが使い込まれた形跡はあったように思う。


 瓦礫の山と化した空き家に戻るか。いや、存在するかも定かでない、存在していても木っ端微塵で徒労に終わる可能性もある。

 それにただの捜索ならいいが、魔獣蔓延る魔都ともなれば話が違う。まともに戦えない俺では、それこそ魔獣の餌になって終いだ。

 これでは凛のことを脅せる立場ではないな。


(社長に言って、誰か護衛を頼むか)


 ──恋、黙ってて。


「⁈⁈」

「どうした?」

「あ……いえ。…………あ、面接みたいな質問しないのかなって」


 思わず適当な理由をでっちあげる。不審に思われる様子もなく事なきを得た、と思う。


 俺だけに聞こえるように喋った。小さい声で、という意味ではない。

 これはテレパシーというやつだ。記憶の隅っこにあったのを辛うじて引っ張り出せた。心を読んでいたのもこの力を使ってのことだったか。便利な能力持ちやがって、と内心悪態を吐く。


 俺には黙ってて、の意図がわからない。記憶の手掛かりを探すなら、組織を使っての方が効率が良いに決まっている。


「どうしたの? 恋」


 七瀬と視線がかち合う。何でもないような顔で彼女は俺を見る。

一瞬にも満たない出来事だった。ビー玉みたいに透き通った七瀬の瞳が怪しく光ったのだ。


(……そうか。不確定な情報は共有すべきじゃないってことか)


 七瀬の指示、『黙ってて』にした。それっぽい理由を貼り付けて。それと同時に一瞬前まであった疑問も雨散霧消していく。


 



 

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