第8話 怒声

 魔獣の死体はバリケードを張っていた社員たち、後に判明する総務部(なぜ総務部がバリケードを?)が撤去していった。人手不足らしい。今のご時世人手不足を理由になんでも片付く、とは京子の弁。

 犬型の魔獣を捕獲したのは、新種は技術部で解析をして今後の駆除に役立てるためだそうだ。途中からグロテスクな話をし始めたので聞くのをやめた。


『魔獣の駆除が完了致しました。登録者の皆様、平時の生活にお戻り下さい。繰り返します──』


 どこからかそんなアナウンスが聞こえ、次第に人々が戻ってきた。何事も無かったかのように、というわけではなく、心からの安堵が窺える。


「こんなことはしょっちゅう?」

「壁内に出現するのは久々だな。完全にランダムなんだよ、奴らが出てくる場所は」


 言ったろ、世界中が出現予想地点だって、と煙草に火をつける京子。女殺し屋みたいだ。

 今回は被害がなかった。せいぜいコンビニの屋根が少し擦り減ったくらい。建物も対魔獣用に頑丈に作られているらしい。


「あ? 凛がいるじゃねぇか。ハッ、やっぱりそうか」


 メイスを肩に乗せてチンピラのように近づいてくる藤堂。戦闘中で気にも留めていなかった俺の後ろに凛がいたことに気付いたようだ。


「なによ再会早々。どういう意味?」

「急に執務室から飛び出した次はさっさと迎えを寄越せなんて連絡してきやがった課長サマがいてよ。これはもしやってな」

「課長が?」

「奴の心配症にも困ったもんだ。おかげでお前探すのにオレまで付き合わされて、仕事も碌にしてねぇ」


 悪い笑みを浮かべて事の経緯を語る。壁の上に立っていた時にはブチギレていた京子だったが、実のところ凛が心配であそこまで出張っていた、という話らしい。

 顔を真っ赤にして藤堂にアイアンクローをお見舞いする京子。恒例行事か。


「痛っ! イタタタタっ! ホントのことだろうが、なにキレてやがんだ、てめぇ!」

「ホントのことだからだろうが! いらんこと言ってんじゃねぇ!」


(ホントのことって言っちゃったよ……)


 その後和服でロメロ・スペシャルという前代未聞の所業に続いてラリアットまで食らわせるという本気ぶりを見せ、KOした藤堂は暫く白目を向いたまま動かなくなった。キツイ印象のあった彼が一瞬でキャラ崩壊した。牡丹の能力かもしれない。……そんなわけない。


「課長……」

「はぁ、はぁ、はぁ……んあ? なんだ?」


 怒鳴りながら全力で技を掛けていたようで息を切らして呼びかけに振り向く。ホントに試合後のレスラーみたい、と七瀬がポツリと呟くほど。


「ありがと。ごめん、心配かけて」

「! ……ホントだよ、バカ」


 若干照れながらも快活な笑顔で応え、凛の頭を無造作に撫でた。


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