第12話

 ドンッ、という衝撃と、ほぼ同時に。

「お嬢さん!!」

 オジさんが叫ぶのが聞こえて、左側の頬が土に押し付けられた。肩と腰に、重みがかかる。

「ったぁ……!!」

「悪、ぃ、力加減、できなくて、よ……」

 オジさんが、自分の体を起こしつつあたしの背中を支える。

「怪我、ないか?」

「え、うん、あたしは大丈夫だけど、オジさん、は」

「大丈夫だ。はーーー、焦った……」

 煙のにおいが流れていくなかで、オジさんが大きくため息をついた。煙。爆発の、煙。

「まさか、爆弾を持ってたとはな。いや、持っていたならゴーグル端末で見つけられたか。ということは」

「……体のなかに仕込んでた」

 あたしとオジさんは、爆発の起こった場所を見つめた。ついさっきまで、あの子が立っていた場所だ。今は、何も、ない。

「骨すらも残らねえ爆弾……、どんだけの覚悟だよ」

 オジさんのその言葉を聞きながら、あたしはふらふらと立ち上がった。煙がまだ消えていないのが、命の名残みたいだった。あたしは、本当はそんなことを思い浮かべるほど情緒的な性格じゃないはずなんだけど。

「覚悟がなんだっていうの」

 東京アラートが機能していることを知りたかったとかなんとか、よくわからないことを言って、自分で自分の体を爆破させて、それで、なんだっていうんだろう。

「死んで抗議を示すってやり方が通用する時代はさ!!! とっくに終わってんのよ!!! 知らないの!? あんなに賢そうな口ぶりであれこれ語ってたくせにさ!!! なんで知らないの!?」

 もう、あの子には届かない。わかってはいたけど、叫んでしまった。

 周囲に集まっていた人々はいつの間にか、ひとりとしていなくなっていた。命を落としていないなら、別にそれでいい。

「お嬢さん」

 オジさんが、静かに呼んだ。あたしの叫びを、唯一聞いていたひとだ。震えるあたしの肩を、ぽんぽん、と叩いた。そんなことで気持ちが静まるわけでもなかったけど、不思議と慰められたのも本当だ。

「帰ろう」

 あたしは、がくり、と頷いた。


 東京アラートによって「死者三十七名の可能性」と出された予知は、「死者一名」という大幅な人数減少で食い止められた、として、あたしたちの仕事は「成功」という評価を受けた。

 その、たった一名の死者の名前を、あたしは、知らないままだった。


 今夜の都庁は、まだ、静まり返っている。

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東京アラート、ア・ラ・モード 紺堂 カヤ @kaya-kon

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