第4話

 人口保護局。あたしが所属している職場である。……職場、って言葉を使うのが正しいかどうか微妙なんだけど。出勤場所はそのときの東京アラートによって毎回変わるし、都庁に設置されている事務所には数えるほどしか行ったことがないから。

「今夜あたり、また出るかもなあ」

 はー、っとため息をついて、モスグリーンのソファに寝転び、天井を見上げる。当然のことだけど、昨夜のような星空は、この天井には見出だせない。

「綺麗だったな、昨日のプラネタリウム」

 昨夜、地下ドームで開催されたプラネタリウムは、なかなかに本格的で、どう考えても家庭用のプラネタリウム機器では不可能なレベルのものだった。ちゃんとした投影機なんてそう簡単に手に入るものではないと思うんだけれども、どうやったんだろう。……知らない方がいいような気がするから追求はしないでおこうと思うけど。

 プラネタリウムが始まる前に声をかけてきた子は、いつのまにかそばにはいなくなっていて、あれ以上の言葉を交わすことがなかった。識別番号の交換もし損ねた。

『あれが出るとね、ぼくはいつも、明日死ぬのはぼくかもしれないな、と思うんだ』

 そう言っていたのを、あたしはぼんやり思い出した。あれが出ると。東京アラートが、出ると。

 この子の気持ちはわからなくもないな、と思う。

 東京アラートは「明日、何らかの事件や事故で死ぬ可能性のある人間が二十人以上という予知が出た」ときに発令される。その事件や事故を防ぐのがあたしの仕事で、この仕事が成功すれば、予知されていた死者数をぐっと減らすことができる。でも、それって、「予知」という方向性で見たら「失敗」になるんじゃないんだろうか。予知した未来を、あたしたちが変えてしまってるってことなんだから。

 っていうか、未来を変えることができる、っていうところまで予知はできないものなんだろうか。そしたら、東京アラート、なんていう大仰なもので東京全体に「多くの死者が出る可能性」なんてものを知らせて、恐怖心を煽らなくてもいいわけで。

「そもそも東京全体に知らせる必要があんの?」

 ひとりごとにしては大きな声で、あたしは呟いた。

「何のためにあるんだろ、東京アラート」

 ソファから起き上がって、窓の外を見た。そこから見える都庁が、待っていたとばかりに、赤く光った。

「あーあ、やっぱり」

 もう数分もすれば、オジさんから通信が入るはずだ。仕事だよ、お嬢さん、とかなんとかって。

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