第3話

 三十人以上が実際に顔を合わせるかたちで集まる場合は、時間・場所・参加者全員の識別番号などの情報を揃えた上で行政に申請をする必要がある。その申請をしないで集まり、音楽や映像を共有する場所……、それが「地下ドーム」だ。あたしは去年、仕事中にこの地下ドームの主催者と知り合って、声をかけてもらうようになった。昨日、通信を送ってきた子がそうだ。あたしよりもちょっとだけ、年上だと思うのだけど、正確な年齢は知らない。

 友だちを連れてきてもいいよ、と言われてはいたけれど、あたしは誰も地下ドームに誘ったことはない。「バーチャル空間でライブも芝居も楽しめるのに、なんでわざわざ出掛けなくちゃならないの?」という子たちが、誘いに乗るとも思えなかったから。

 オジさんを誘おうかな、と思ったことは、実はある。きっと喜んで来てくれただろうけど、違反の罰則がたいしたことはないとはいえ違法であることに変わりはないことに、曲がりなりにも政府からお仕事をもらっているオジさんを巻き込むのは気が引けたので、やめた。まあ、政府から仕事をもらってるのはあたしも同じなんだけど、あたしは自己責任ってことで。

「今日は何やんの?」

 地下ドームは文字通り地下にある。階段を降りたところに顔見知りを見つけて訊いてみたら、細身のその子はぱちぱちまばたきをして、プラネタリウムだってさ、と言った。

「プラネタリウム! いいね、アガるね」

 地下ドームでの催しは、その回ごとに違うし、何をやるかは当日行ってみないとわからない。そういうロシアンルーレット感も、あたしは気に入っていた。

 ドーム内は、集まっている人数のわりに静かだった。今回は初参加の人が多いのかもしれない。直接の会話に慣れていない人たちが多いときは、妙に静かだから。

 誰かに話しかけてみようか、それともあたしも静かに待とうか、と迷っていたら、スッとコーラのボトルを差し出された。受け取りながら相手の顔を見る。見覚えのある顔だったけど、話をしたことはないし、識別番号の交換もしてない。

「君、よく来てるよね」

「うん、そっちもね」

「ぼくは、静かな内容のときだけ。音楽は好きだけど、騒ぐのは苦手だから」

 初めて言葉を交わすぎこちなさはあったけれど、不思議と遠くに感じなかった。直接話す、ってこういうところがいいんだよな、とあたしは思う。

「おととい、東京アラートが出たでしょう」

「え、うん」

 ドキッとする。あたしが東京アラートによって出動する仕事をしていることは、ごく少数の人しか知らない。

「あれが出るとね、ぼくはいつも、明日死ぬのはぼくかもしれないな、と思うんだ」

「え、でも」

「うん、人口保護局が防いでいる、っていうのは知ってるけど。でも、考えちゃうんだ」

「……そっか」

「うん」

 その子とあたしが微笑みあったとき、開始を知らせるブザーが鳴った。ドーム内が少しずつ暗くなってゆく。

「楽しもう、星空を」

「うん」

 あたしはコーラを喉に流し込みながら、星空に変わったドームの天井を見上げた。

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