お好み焼きカメラ
三箱
お好み焼きカメラ
お好み焼きの上にカメラがのっていた。
じっと見つめているとシャッターボタンがパカッと開く。そこからにょきっとミジンコが現れ、小さな手を左右に大きく振っていたのだった。
僕は何も思わず、ヘラでひっくり返す。だがくるっと一回転したカメラはそのまま元の形に着陸した。
「俺に勝ってみせろよ」
ミジンコがガラガラの野太い声で小さな体を必死に動かしてカメラの上に立ち見つめる。
僕はそのミジンコを親指と人差し指で潰し、カメラを奪い去るとそのままミキサーにかけた。
バリバリバリガリガリガリとなる音を無視し再びリビングに戻ると、今度はお好み焼きの上に丸い球体、そして綱のついた丸い爆弾があった。
僕はそれを無言でつかみ取り、そのまま齧った。
シャキシャキとした食感と仄かな甘みと酸味が広がる。
「今日は悪くない日か」
二口齧ってから、ぶらさがっている綱にマッチで火をつけた。
そして風呂場にむかって走り、浴槽に投げ入れた。
プシューッと勢いよく水蒸気が噴き出し風呂場を白く染めた。
真っ白にそまる空間からうっすらと黒い影が現れ、ゆっくりと大きくなってきた。
「全く手荒いことする」
天井に届きそうな身長のパンダが、首を捻りながらのっそりと歩いてきた。
「ミジンコよりパンダのほうが似合っているぞ。龍太」
「だからと言って、無言で潰すとか。もう少し可愛がってもいいだろ」
「無理だ。本能的に気持ち悪い」
僕は止まったミキサーに手をかけて、コップに注いだ。
「ああああ! なに、カメラをミキサーにかけてるんだ!? カメラは焼くもんだろ」
「焼いたら辛いだろ」
「辛くねえだろ。絶妙に甘いだろ」
「どこがだよ。ミキサーにかけて細かくした方が甘いだろ」
「もういい。帰る!」
どすどすと床を鳴らし、肩を変に上げて、おかしな方向に腕を振っていくパンダ。
「でも、外出たら死ぬぞ?」
「は? なんで?」
「ネコ様がいる」
「それを先に言えよ! いつから」
「昨日から」
「くそ。ここも終わりか」
ガツンと壁を叩いて崩れ落ちる龍太を眺めながら、カメラを啜り、味を確認する。
ちょうどいい甘さだな。こいつが持ってくるカメラは良質なのが多い。
「何で、そんなに冷静なんだよ」
「二三日待てばいなくなる」
「それも先に言えよ!」
「おぬしら何を言い争っているんじゃ?」
突如背筋が凍りつくような感覚に陥る。
恐る恐る振り返ると、白い毛並みが恐ろしいほどに均等に生え、滑らかな流動な体つきの大根がテーブルの上で腕を組んで仁王立ちでいたのであった。
僕らは正座になりすぐさま深々と頭を下げた。
「ネコ様、どうかどうか御許しおう」
「すみません。すみません。後生の頼みです」
するとネコ様は短い脚を組み、フムと唸ったあと、頭の草をとって指に乗せていた。
「仕方ない。カメラ十年分で手を打とう」
「ありがたきしあわせでござる」
「さっさと持ってくるのじゃ」
「ははあ」
龍太と僕は早速風呂場にむかった。そして煙の中に飛び込んだ。
その先にはありとあらゆるカメラが置かれた倉庫だった。
「手当たり次第のカメラを持っていくぞ!」
「ええ。一眼レフとかは置いていちゃだめ?」
「バカいえ、あいつを怒らしたら死ぬぞ」
そう龍太に怒られたので、棚にあるカメラを一通り袋にぶち込んだのであった。そしてまた煙の中をとおって家に帰還したのである。
テーブルの上で体育座りをしていたネコ様はひょこっと立ち上がった。
「ほほ。よく集めてくれた」
「はは。ですのでお命だけは」
「案ずるな。しばらくは放っておいてやるわい」
「はは。ありがたき幸せでござる」
「では手始めにに一つ頂こうかの」
ネコ様は根っこをのばして一つのカメラを抱え込むように手に取った。そして、口を大きく開けてカメラを丸のみにしたのであった。
直後ネコ様の体が赤く染まっていった。そして……。
「か、か、か、からああああああい」
ネコ様の体は赤く燃え上がった。そしてそのままゴロゴロと転がった後、そのまま炭となって消えたのであった。
「「えええええええええええ!」」
僕と龍太は絶叫を挙げ、へなへなと床に崩れ落ちた。
「はあ。やっぱりカメラは生で食べちゃダメだな」
「そうだな。混ぜるべきだ」
「いや焼くべきだ!」
「混ぜる」
「焼く」
「混ぜる」
「焼く!」
と20回ぐらい言い合って疲れ果てると、また床にへなへなとしおれるように座った。
気がつくと、テーブルの真ん中にあるホットプレートのお好み焼きは真っ黒こげになっていた。
僕と龍太は互いに見つめ合い、ハアーと深いため息を吐いた。
「食べるか」
「そうだな」
僕らは真っ黒になったお好み焼きを半分に切り、そのままパクっと食べた。
「あー。まろやかでうまいな」
「そうだな」
しょっぱくてまろやかないい味だった。
完
お好み焼きカメラ 三箱 @SANHAKO
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