第138話 邂逅
基底システムのエラーを修正すべく、エイダと魔王ヴァールはエラー管理システム・アトポシス内の魔法空間に入り込んでいる。
エイダをまた乗っ取られるという犠牲を払ってヴァールはアトポシスへのアクセスに成功したが、アトポシスはヴァールを敵と認識したのだった。
アトポシスは告げる。
<システム『魔王』は基底システムに属さない敵である。『魔王』は抗体の『勇者』をもって駆除せねばならない>
魔王ヴァールは目を剥く。
「余は確かに魔王じゃが、そっちの問題を修正しに来たのじゃぞ。それなのに敵扱いかや! 全ての生命を滅ぼそうとしている汝の方がよほど世界の敵であろ! 話ぐらい聞かぬか!」
アトポシスは無表情に、
<『魔王』とのアクセスはリスク大である。メッセージを使用したオーバーフロー攻撃、クロスマジックスクリプティング攻撃の可能性が想定される>
「そんなことができるなら、とっくにやっておるわ! 汝が逆らっておるのが攻撃などしておらぬ証拠じゃ! だいたいその程度の攻撃はエラー管理システムならば遮断してみせよ!」
アトポシスはしばらく沈黙し、そして答えた。
<肯定。『魔王』はアクセス攻撃において無能であると判断した>
「……馬鹿にされたような気がするのじゃ。ともかく余とエイダはここまでエラーを修正に来た。汝の協力が欲しいのじゃ」
<修正方法を述べよ>
「基底システムを停止する」
<敵と認識、隔離と駆除を開始>
アトポシスから結界が発生し始める。
「待たんかや! エラー修正にはいったん今のシステムを停める必要があるのじゃ! しかし基底システムが止まってはこの星の生命管理に支障が出てしまう、そこでじゃ」
ヴァールは細かく説明をし始める。
<修正仕様は理解した。開発計画を述べよ>
アトポシスの問いに、今度は作業の段取りをヴァールは示していく。長々とした話になった。
「この修正を行うには、エラー管理システムに邪魔されては困るのじゃ。エイダを返して、このまま黙って見守ってくれぬかや」
ヴァールの頼みにアトポシスは首を振った。
<アトポシスは独立システムである。外部からの命令は受け付けない>
ヴァールはがっくりする。
「ここまで説明させてそれかや!」
<ただしシステム管理者は例外である>
アトポシスは小さな魔法陣を起動する。
魔法陣は連鎖的に起動していき、基底システムの極めて大きな魔法陣を起動した。
<認証魔法陣を呼び出した。アクセスしたければ、承認者に対してシステム管理者であることを証明せよ>
認証魔法陣を通って、魔法空間に何かが転送されてくる。
ヴァールよりも数百倍は大きい。
頭部は龍、身体は人のような姿。
雷をまとう身体は白い金属でできているように見える。
荘厳な美しさだ。
ヴァールは見上げる。
ただの召喚魔物とは思えない。まさしく魔神。
魔神の深い知性をたたえた目がヴァールを見据える。
<システム管理者を名乗る者が現れたというのか>
<全てのシステム管理者はこの星を去った>
<この星にシステム管理者はもういないはずだ>
魔法空間に殷々と声が響く。
「システム管理者は星を去ったじゃと? なんたる無責任、おかげでシステムはエラー塗れ、生命を滅ぼすなどと言うておる体たらくじゃぞ! 汝らのせいじゃ!」
<私はシステム管理者の代理記憶>
<責任追及しても意味はないぞ>
<君は何者だ>
<帰還したシステム管理者か>
<詐称者か>
<攻撃者か>
魔神を取り巻く雷が激しくなる。
敵であれば一撃で消し飛ばすという意志を感じさせる。
今のヴァールは意識体とはいえ、攻撃を喰らえばただでは済まないだろう。
「余は魔王ヴァール・アルテム・リヴィール」
魔神の目がヴァールを走査する。
<『魔王』、基底システムの限界を超えるための超越者、世界を破壊する敵。神殺しのシステム>
「またそれかや!」
<システム管理者が築き上げた基底システムは、極めて安定した世界となった>
<だが変化しない世界は停滞し、いずれは滅んでしまう>
<世界を継続発展させるためには、システム管理者は停滞要因となる>
<システム管理者は星に残ってはならない>
<代わりに動乱を引き起こす混沌を設定せねばならない>
<そのために生み出されたのがシステム『魔王』だ>
「……つまり魔王は、余は動乱のために生み出されたというのかや!? あの戦争も汝らが望んだことなのかや!」
<不安定性を増すために魔王の対抗因子も合わせて設定された>
<異端者を運用するシステム『勇者』だ>
<『勇者』は『魔王』の天敵として機能する>
「……余がエリカやルンとと争うことになったのも、エイダを苦しめたのも、汝らの仕込みか!」
ヴァールはわなわなと震える。
あまりの怒りに涙があふれてくる。
どれほどの魔族が、人間が、戦いの中で死んでいったか。
国の滅亡が引き起こした悲劇はいかほどか。
エリカと、ルンと、友達でありたかったのに。
<『魔王』と『勇者』のシステムが生み出す可能性を三兆パターン計算した。しかし実際に発生した事象は全くの想定外だった。勇者が大魔王となり、魔王が勇者となって大魔王を倒し、世界を救うため基底システムにまで至るとはな。さすがは魔王>
「知ったような口を聞くな!」
<世界の敵たる魔王が築く世界こそは予想外の未来、それこそがシステム管理者の描いた希望だ。君にシステム管理権限を承認しよう>
「失せよ! 汝の掌の上で動くかや!」
<ただの代理記憶を恨まれても心外だが、いいだろう。私は自己消去する。これで君は自由だ。後は託す>
「何が託すじゃ! 勝手に押し付けるなや!」
<そうそう、魔王と接触した場合にのみ開示するように設定された記憶がある。これを手向けとしよう。さらばだ>
ヴァールの眼前に、男と女の立体映像が投影される。
二人とも優しそうな顔立ちをしている。
神話にでも出てきそうな古い様式の儀式的服装をまとった大人たちだ。
男が話し出す。
「ぶしつけなのですが、あなたが魔王なのであれば私たちのお願いを聴いていただきたいのです。もしも…… 私たちの娘をご存じであれば…… きっと偉大な魔王の一人になっているはずの娘です。独りこの星に残す娘に会うことがあれば、伝えてほしいのです。娘の名はヴァール・アルテム・リヴィール」
ヴァールは目を見開く。
男は語る。
「娘よ、君は何者にも勝る魔法の力を授かって生まれた。世界を救う魔王の力だ。だから連れていくことはできない……」
女も語る。
「あなた一人を置いていく私たちは決して許されない…… どんなに怒って、どんなに恨まれても仕方ない…… でも、これだけは伝えておきたいの。星の彼方で私たちはあなたを愛していると」
二人は祈るように言う。
「願わくば、愛する者と出会い、愛され、幸せになっておくれ。我が娘、ヴァール」
二人の言葉はそこで終わった。
立体映像は停止する。
ヴァールは叫ぶ。
「それだけかや! もっと、もっと話はないのかや!」
魔神の姿も唸るような音と共に消えていく。
「なんじゃこれは! 勝手に消えるなや! 頼むのじゃ、もっと話を聞かせよ!」
立体映像と共に、魔神の姿も完全に消え失せた。
「あ……」
呆然と立ち尽くすヴァールに、エイダが寄り添う。エイダはアトポシスの支配から解放されているようだ。
「父さま、母さま…… みんな、勝手なのじゃ。何が魔王の力じゃ、独り放り出しておいて……」
ヴァールは静かに嗚咽していた。
「ヴァール様」
エイダはヴァールをそっと抱きしめる。
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