追想ホロスコープ
長月瓦礫
追想ホロスコープ
その日は、朝からずっと雨が降っていた。
天井を打つ雨の音に、誰かの歌声が紛れていた。
俺の足は自然とピアノのほうに向いていた。
他の連中はいないはずだし……ニコが弾いてんのか?
ピアノが置いてある部屋をこっそりのぞくと、そこにいたのはカインだった。
「……マジかよ」
おいおいおい、俺が見てんのは幻覚か何かか?
口を手でふさいで、扉の横に立つ。
こっそりと部屋を盗み見る。
厨房とまちがえた……わけでもなさそうだ。
目を閉じて、ピアノの前に座っている。
さっきの声もそうなんだろうか。
天井を打つ雨の音もあるからか、じわじわと心に染み渡っていく。
今日は朝から雨が降っていた。記憶の海へ深く潜っていくダイバーにでもなった気分だ。
あの部屋は今、アイツの世界で満たされている。
一体、何が見えているんだろうな。
壁に背を預け、俺も目を閉じた。
見えているものは全然違うんだろうけど、懐かしさと寂しさが響いている。誰もが忘れてしまった思い出をたどっているような、どうしようもない孤独がそこにあった。
遠い日の思い出をたどっていくうちに、どこに行く着くんだろう。
ピアノの音が止まった。現実に引き戻された。
どうしよう、目が離せない。
ここにいるのが分かったら、絶対に怒られるのは目に見えてるのに。
席からゆっくり立ちあがり、ふたを閉めた。
何でそんな名残惜しそうな表情をするんだ。
アンタの世界に何がいるんだよ。
自分のことは全然話さないからなあ、あの人。
過去に何があったのか、ちっとも分からない。
あ、こっちに来る。
慌てて近くの部屋に入り、やりすごす。
ひとりになって、改めて強く感じる。
あの記憶の海の中に、取り残されたような気分だ。
「こんな、どうしようもない孤独を抱えてんのか……?」
胸をつかえるような苦しさを覚える。
別れるのが辛そうな横顔が頭から離れなかった。
追想ホロスコープ 長月瓦礫 @debrisbottle00
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