第26話 僕は荒らし屋じゃない!?
僕らはまた工場『オリカフト』にやって来た。
正直、フィークさんとは金輪際会うことが無いと思ってたのだけれど、なんと早い再会だろう。一日ぶり?
「おやおや、これはハルガードさんとラディアさんではありませんか。なにか忘れ物ですか? 遺失物は届いておりませんが」
『ヒールタブレット』の件があってか、僕らが工場に入ると、あっさり事務室に通された。フィークさんは僕らを見て、あんなことを言ってる。いやまあ、昨日の今日だもんね。忘れ物を取りに来たと思っても不思議じゃないか。
「実は、折り入ってお願いがございまして……」
「断ります」
ちょっと、まだ何も言ってないじゃん……。
「先日もそうやってクレームを入れてきたのをお忘れですか。あなたのことだ。どうせ、ろくなお願いでは無いのでしょう」
う、ごもっともで……。
相変わらず、フィークさんの読みはキレッキレだ。互いに手の内を晒しあった仲だけあって、異次元レベルで話が早い。悪い意味でだけど。
「そうは言っても、今回は多くの人の命が関わってるので、引き下がる訳にはいきません。お話だけでも聞いていただけませんか?」
「『お話だけでも聞いていただけませんか?』などという常套句を出されて、この私が聞いてあげるとお思いですか?」
質問に質問で返すなって、この人は教えられなかったのかな。いや、分かって返してるんだろう。ほんとイライラしてくるな。
「それじゃあ、勝手に話します」
僕はフィークさんの許可を待ってたら埒が明かないと思い、勝手に事情を説明した。なんだかんだ言って、フィークさんは僕の説明を黙って聞いてくれている。なんだこの人、ツンデレかな?
「ククク、なるほど。それであなたがお困りな訳ですか。何もあなたが困る必要は無いでしょう。そんなもの、放っておきなさい」
「僕はこういう事を放っておけないんです。フィークさんなら分かるでしょう?」
「まあ、あなたらしいですね。ですが、駄目なものは駄目です」
「どうしてですか? このまま放っておけば『エリクシール』の副作用で人が死ぬんですよ? フィークさんは、人が死ぬような薬を永遠つくり続けて、罪の意識は無いんですか!?」
僕の訴えに、フィークさんは冷めた目を向けて答える。
「そんなもの、ある訳ないでしょう。私はそんな事知りませんからね。誰も知らない事なのですから、誰も罪に問われることもありません。仕方なかった、で終わる話です。それをあなたは、どうしてそうやって掘り起こしたがるのですか?」
これだから、嫌なんだよこの人は。ドライ過ぎると言うかなんと言うか……。
「僕が【薬識】を持ってるからです。そして僕は、人を助けるために冒険者になりたいからです! 真実を知って、見て見ぬふりなんて出来ません!」
「そうですか。それは残念なことです。ここで諦めてください」
にべも無い。たぶん、この人に慈悲の心は一片もないから、期待しても無駄だ。
僕の訴えは、フィークさんにあっさり退けられた。この契約の鬼には、何を言っても駄目だろう。契約書に他言無用と書くだけで、この人なら死ぬまできっちり守りそうだ。マイナス方面に振り切れてはいるけど、凄まじい精神力だと思う。
僕の数少ない唯一のツテだったけど、やっぱり駄目そうだ。なので、僕は諦めて帰ろうとした。その時だった。
「あの、フィークさん。契約書類などは、この机に入ってるんでしょうか」
「ええ。それがどうかしましたか?」
「では、失礼します。アクティブスキル【兜割り】!」
ラディアさんはフィークさんに書類の所在を尋ねるや、スキルを放って机を叩き割った!
「「ぃいっ!」」
突拍子も無い出来事に、僕もフィークさんも声を揃えて驚いた。スキル付きのチョップで机を破壊したラディアさんは、散らばる紙束の中から目的の書類を探し出すと中身に目を通しはじめた。
「あなたねぇ、何やってるか分かってるんですか!?」
珍しくフィークさんが声を荒らげる。ラディアさんはペロリと舌を出して、フィークさんを挑発する。
「ハルガード君、逃げますよ!」
僕はラディアさんに手を引かれて、一緒に走り出した。
突然の破砕音を聞きつけて人が集まってくる。あたりが騒然としだした。
「待ちなさい!」
叫びながら、フィークさんが追いかけてきた。ラディアさんは、追いかけてくるフィークさんに光る何かを投げつける。フィークさんは慌ててそれを受け止めた。
「机は弁償しますので、それで許してください!」
フィークさんにそう言って、ラディアさんは走り続けた。僕も急いでラディアさんを追いかける。フィークさんの脚力では、冒険で足腰の鍛えられたラディアさんに適うはずもなく。どんどんと距離が開いていった。
「ラディアさん、フィークさんに何を投げたの?」
「雑貨屋さんで買った、金メダルです。鑑定書は、壊した机のところに置いておきました」
ラディアさんはサラリと言ってのける。
買い物の時、ラディアさんは受け取った報奨金で十万ルフ相当の金メダルを購入していたのを思い出した。あれ、惜しげも無くあげちゃったんだ。ほんとこういうところ、大胆だよなぁ。
「それよりも、ハルガード君。元締めが誰か分かりましたよ! 書類を見て私、ビックリしちゃいました!」
ラディアさんが、走りながら言う。僕はその元締めの名前を聞き逃さないよう、話の続きに集中した。
「業務委託契約を交わしている相手は、アナグニエ副学長です!」
なんだって!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます