先輩と可愛い後輩
第7話 先輩のご褒美
部長の高城モカは、手元の資料をじっくり眺め終え、ふっと息を吐いた。
目の前では、緊張した面持ちで固唾を呑んで高城の様子を見守る後輩社員の田口君がいる。
「ど、どうでしょうか?」
不安げな様子で尋ねてくる彼に、モカはふっと表情を柔らかくして答えた。
「えぇ、よくできているわ。成長したわね、田口君」
「あ、ありがとうございます!」
作成資料の完成度を褒められて、素直に喜んだ笑みを浮かべる田口君。
そんな後輩の成長を見て、思わずモカまでほっこりしてきてしまう。
モカは、自身の頬に手を当て、暖かい目で後輩の成長した姿を眺めていた。
すると、田口君が急にモジモジし始めた。
「あ、あの……部長」
「えぇ、何かしら田口君?」
モカが問いかけると、田口はそっと耳打ちしてきた。
「上手くできたので、ご褒美ほしいなって……」
「なっ!?」
モカは唖然とした様子で田口君を見つめた。
田口君は、縋る子犬のような瞳で期待した視線を向けてくる。
しかし、ここはオフィス内、ご褒美を気安く出来るような場所ではない。
「ダメ……ですか?」
潤んだ瞳で首をちょこんと傾げる田口君。
あぁ、もう! どうしてそんな幼気な瞳で私を見つめてくるの!?
そんなの、してあげたくなっちゃうに決まってるじゃない!
モカは田口君のあどけない可愛さに胸打たれ、面食らってしまう。
「もう・・・・・・バカ。全く仕方ないんだから、ついてきなさい」
モカはため息を一つついてから立ち上がり、田口君を見ることなくオフィス内から出ていく。田口君も、何も言わずに後をついてきた。
モカたちが向かったのは、空き会議室。
カードキーで施錠を解除して、薄暗い会議室に二人きりになる。
近くの廊下に誰もいないことを確認してから、モカは机の上に腰かけ、ゆっくりと両腕を広げた。
「おいで、信也君♪」
「モカさんー!」
モカは、我慢できないといった様子で突進してきた信也君の頭を広げた両腕で抱え込み、信也君の頭を胸元へと持っていく。
モカは信也君の顔をそのまま胸元へと押し当て、抱きとめた手で優しく頭を撫でてあげる。
「よしよーし、信也君。よくできましたねー」
「はい、頑張りました、モカさんー!」
頭を胸元に押しつけられ、撫でられる信也君は、嬉しそうに表情を緩ませている。
信也君の可愛さに、モカは恍惚の表情を浮かべてしまう。
はぁ……幸せだと。
これが、モカと信也の会社内で内緒にしている恋人関係。
他の人に見られたら、普段凛々しく可憐であるモカのイメージが一掃してしまうであろう甘々っぷり。
モカは、後輩であり彼氏でもある信也君を、甘やかしたくて仕方ないのだ。
家に帰れば、先に帰宅した信也君が手料理を作ってくれて待ってくれている。
「お仕事お疲れさまモカさん。夕食作っておきました」
「ありがとー信也君! よしよーし♡」
「えへへっ・・・・・・」
「はぁ……信也君可愛すぎるわ」
気が付けば、信也の頭を胸元で抱きかかえて撫でることが、モカにとって最も彼とリラックスできる癒しとなっていた。
ここしばらく、モカも信也も仕事が立て込んでおり、プライベートでも中々会う機会がなかったことも起因して、信也君もモカの母性的な甘やかしなでなでを待ちわびていたのだろう。
今までオフィスでこういうことしたことなかったのに、モカは仕事をさぼって二人の幸せな空間を作りだしている背徳感に駆られていた。
でも・・・・・・もう少しだけ二人の時間に浸りたいと思って、モカは今日も信也君を思う存分甘やかしてしまうのだった。
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