第32話 早く兄さんの元へ

『しぶといな…。ん?お前が持っている剣はキングのか?』

ブヒブヒとロードがロベルトの大剣を指差して啼く


「豚っ!何を言っているのか分からんぞ?」

ロベルトのセリフはもっともだ

「ロベルト様!アレはロードです。我らでは勝てませぬっ」

ロード級ともなれば、それこそランクSが4〜5パーティーは必要になる。いわゆるレイドだ。

「だろうな。今の俺では、キズをつけることもできまいよ」

「であれば、どうなされますかっ?」

んー、どうしようかなぁ…とロベルトは思った

「それより、オークの数が減ったか?」

わんさか湧いていたオークが激減する

「これならば…ワンチャンあるぞっ」



◇◇◇



「うほー!いるいるっ。エリザ、コイツ等はアタシがやるぜ?」

3人の目の前にはオークの群れがいた

ん?1人少ないぞ…?


「あたしがいっちばんのりー!お先にぃ〜」


マルーンは特攻スキル "一騎駆け" を使い、敵陣に突っ込んで行った

「あぁっ?! 先を越されたっ」

ヌレハは敵陣に、縦ラインで道を作っていくマルーンに『抜け駆けかっ』と焦り、自分の戦斧を握り締める

横を見れば、エリザがボーっとしていた

「…エリザ、もしかして心配してるのか?」

イッキと離れてから、口数がガッツリ減ったエリザ


「心配?…そうですね、ご主人様が心配です」

エリザの心は此処にあらずだ

「仕方ないだろ? ご主人様、干し肉の食い過ぎだってーの」

この大事な時に…イッキは腹痛で、トイレの為に離脱していた


「アタシらも食べ物を調達しなかったから、悪かったのかもしれねーが…」

「ご主人様…」

「心配すんなって。出す物だしたら元気になって現れるさ」

「………」

「おっと、マルーンのヤツ…どんどん狩ってやがるな。じゃ、アタシも行ってくるぜ」


「おらーっ!この豚どもがー!!」と、戦斧を振り回してヌレハも突っ込んで行く

エリザは遠ざかる背中をじっと見つめていた



◇◇◇



「確か…この辺り…だったかな?」

トイレタイムのはずのイッキは、辺りをキョロキョロしながら進んでいく。

いや、戻っているが正解か

「干し肉を食べ過ぎだからといって、下痢にはならないよね…ぷぷぷっ」

ニヤニヤして歩いては、思い出して笑う


「あっ?! ここだ、ここだよっ」

イッキは見覚えのある場所に来た

「確かこの奥からだったよね…聞こえてきたのは」

そう、この馬鹿は途中で「キャッキャ」と話す女性の声を聞いた。湯気らしきものが立ち籠めることから、『露天風呂あるんじゃね?』と推理した訳だ。

どんどん奥に入って行くイッキ


「…キャッキャ」

(うんうん。聞こえる聞こえる…。絶対に若い女の子だよ、コレ)

救援目的をすっかり忘れ、頭の中はピンク色になっていたイッキ

(あの岩の向こうだよねー。よし、行こ…

っと、危ない危ない。ごく自然感を…装わなくちゃ)


イッキはパッと服を脱ぎ、全裸になった

(露天風呂があることを…まったく知らなかったフリしとかないとね)

スリルと興奮で、元気が良かった自分の槍が鎮まるのを待つ。

コイツはクズだ!


……

「あれあれー?こんな所に露天風呂がー」

知らなかった程で、岩から飛び出したが…全裸の時点でおかしいと気付かない馬鹿。

そして鎮めたはずの槍もビンビンだった



「ウキィ?」

「…………ホワイ?」

お猿さん達が浸かっていた


「なんでだよっ! ここは女の子ってゆーのが、お約束だろ?!」

良く見れば、女の子もちらほらいる

…ただし、ケモノだが。

「違うっ、僕が言いたいのは人間の女の子っ!言葉も通じないケモノはやだーっ!!」


「コトバ…ワカル」

「…へ?!」

ダークブラウン色のお猿さんが目の前に来た

「僕より…大きいね…」

他の猿たちは70〜80ぐらいの身長だが、彼女…そう、目の前においで下さったお猿さんはイッキより大きく、おっぱいも大きかった


「ワタシ…ムレノボス」

ペコリ

「あ、どうも。はじめましてイッキです」

ペコリ

2人?は裸でお辞儀した



◇◇◇


「くそっ!見失ったっ」

「オークに構い過ぎたな…」

隊長と副隊長は、襲ってくるオークを倒しながらついて行ってたが…途中で冒険者たちを見失った

「おい、どーする?」

「どーするったって、お前…。カッコつけてアイツらと別れたんだ。ノコノコ帰ったら、笑い者だぞっ」


2人は別に死ぬ気はなかった。ただ、生きて帰れない事を覚悟していただけ…

だが、冒険者を見失った今、何もしなければ間違いなく生存可能だ。しかし生き残りの冒険者を、全員始末しなければ帰れない

2人は五感をフルに使い、必死に探した

……

どれぐらいの時間探しただろう…

微かに声が聞こえてきた

『だから……

…もう出ないって…。…もう休も……よ』


「おい、聞こえたか?」

「あぁ、あっちから…だな」

2人は足音を殺して声のした方へ向かう

目的を達成する為に。


『ダメだってば…。…ちょ…、…たい』


微かな声が徐々に、はっきりと聞こえるようになる


『やーん。イッキ様のサイコーっ!』


?!

「「イッキ様っ?!」」

あり得ない場所で、いるはずがない人の名前が出る

2人は足音を殺すのも忘れ、大岩から飛び出した


「「………」」


「や、元気? 僕はね、オチソチソが元気ないの。…パンジーに搾り採られちゃった」


「「………」」

2人は絶句している

言葉なんか出るはずもない


「…風呂入る?」

イッキはそう言うと泳ぎ出した。

「ブハッ! 鼻にお湯がっ…」

馬鹿は息継ぎを知らなかったらしい


「イッキ様、それどころではありません!ロベルト様が暴走! 冒険者と共に、オーク軍に突っ込まれましたっ」

我に返った隊長は、イッキに報告した


「なぬっ?! 兄さんがオークに突っ込んだ?!

ロリだと思っていたのに…。たった1か月足らずで獣姦にはしったかっ、あの脳筋め!!」

自分のことは棚に上げて、ロベルトに怒りと失望をするイッキ。鼻からは大量に鼻水が出ている


「そうではありません、オークと戦っておられるのですっ」

(おや?)

勘違いに気付いたイッキ

「分かってるよっ!キミたちを試しただけだ」

なぜ試す必要があるのか…。2人には分からなかった


「イッキ様、よろしいかしら?」

「なあに? 忙しいから手短にね」

イッキは忙しい忙しいと言いながら、パンジーのおっぱいを揉んでいる

全然忙しそうな感じではない


「この辺りの冒険者?全滅しているわよ。

あ、いえ1人生きてるわね…それと、イッキ様の雰囲気に似てる人間が1人。2人は同じ場所ね」

「パンジー、1人はきっと僕の兄さんだよ。もう1人は冒険者?よくわかるね」

「いっぱい見てきたもの。気配で分かるわ。兵士たちの雰囲気とは全然違うわね。ちなみにあなた達2人は…兵士でしょ?」


「「「おおっ?! すげぇーっ」」」

パンジーの能力に驚く3人

「イッキ様、こちらのお嬢さまは一体?」


"バコッ" 「ぐぺっ?!」


「お嬢さまだなんて…。もうっ、バカっ!」

照れるパンジーに石をぶつけられた隊長は、膝から倒れた。石は額に当たったみたいだ

「おいっ?!大丈夫かっ。こんなんで死んだら、ロマニア騎士団の歴史・珍事篇に載っちまうぞ!」


〜〜〜


「何してるの?! 早く兄さんのところへ行かなくちゃ!」

ロベルトの元へ急ごうとするイッキ。

イッキは、パンジーに自分の服を着させた。服を渡したイッキは当然…全裸だ


「イッキ様…。せめてパンツぐらいは…」

副長が見かねて言った

「キミ、バカなの? 女性に裸で歩かせるなんて…正気じゃないよね」

確かにそうなのだが、パンツまで渡す必要はなかった。そして、サイズの違いすぎる服を着たパンジーの姿は…

逆にエロかった。


「キミもいつまで寝てんのっ? 早く相棒を起こして!」

「しょ、承知しました!」

副長は絶賛気絶中の隊長を、無理やり起こした


「パンジー、最短で向かうよ」

「はい。少しだけ道が険しくなりますが、近道をしましょう」



〜〜〜



「2人共っ、早く早くっ!置いて行っちゃうよ?!」

イッキは引き離されていく後ろの2人に言った

「まったく、近頃の騎士ときたら…。パパンに言って、もっと鍛えさせよう」

そう独言るイッキは、パンジーにおんぶしてもらっている


「イッキ様…。近くにボス級だったモノがあります」

パンジーが呟く

「…だったモノ?」

"います" じゃなく、"あります" というパンジーの表現を、不思議に思ったイッキだったが…

その言葉を直ぐに理解する


「オークのボスが…死んでいる?」


イッキはキングの亡骸を見つけた

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