第31話 合流
「なんだと?! ロベルトがっ?!」
バルトは騎士の1人から、ロベルトの暴走を聞く
騎士は隊長の命令を半分、無事にこなした。
何故半分か…それは最後の言葉を伝えなかったからだ
隊長の覚悟と、あの場への救援の拙さは分かる。だが、バルト様に…例えそれが真実だとしても言えなかった。
言ってはならないと思ったから…
騎士は何とも言えない気持ちになるが、すぐ顔を引き締め、新しい持ち場に向かって行く
「あれほど言ったが、ヤツは守らなんだか…」
バルトの顔が歪む。それは息子に対しての失望からか…それとも自分に対しての私憤なのか…。少なくとも、長男を立派に育てられなかったという感情はあった。
「旦那様…」
気がつけば背後にバドラーがいた
「爺、どうした?」
バルトは感情を抑え、いつもの顔に戻す
「ロベルト様の教育を、間違えたなどと思っておられますな?」
「…分かるか?」
バルトは顔をしかめた
「あなた様に何十年お仕えしてると…。考えている事など、このバドラー、手に取るようにわかりますぞ」
父の代からバドラーは仕えている。自分が小さかった頃は、バドラーによく叱られたものだ…
「…そうだな」
懐かしい思い出にバルトの顔が緩んだ
「旦那様…いえ、バルト様。御自分が小さかった頃を思い出されませ。先代にあれだけ叱られたではございませぬか…」
「それを言うな爺よ。…それとお前にも、な。」
「で、ございましたら…此度の件でロベルト様をお叱りになられましょうが、決して失望なされますな。何卒、このバドラーに…
「みなまで言うな。…そうだな。俺よりもずっとマシ…だな」
バルトとバドラーは互いに苦笑いした
◇◇◇
「ザジ殿っ、今の雄叫びは?!」
ロードの雄叫びは、ザジの近くで発せられた
「親玉がいるな。それもかなり近いっ」
ザジと老兵は見える範囲のオークを倒していた
「親玉をやるぞっ!戦える者は俺について来い」
ザジは冒険者たちに言い放つ
「「「おおっ!!」」」
冒険者たちがそれに応じた
「親玉を優先する。ザコはほっとけっ!」
ザジは目先の大物に目が眩み、戦術を誤る
「手柄をあげろっ!俺に続けぇー!!」
ザジたち冒険者は、雄叫びのした方へ駆け出した
それが死の道とは知らずに。
◇◇◇
『キングが負けたぞ』
『そのようだ。どうする?』
『どうするとは?…ロードにつくしかあるまい』
『だな。ロードの手土産に冒険者の首でもとるか?』
オークの族長たち…ジェネラル級が話し合う
『だが、冒険者たちは強そうだぞ?』
『みたいだな…。キングの軍も大半がやられている』
『先ずはロードと合流が良いだろう』
『『そうするか』』
族長たちは各々が率いる、オークたちを連れロードの下へ行くことにした
◇◇◇
「先程の雄叫びは…?」
嫌な予感しかない。ロベルトは自分の鳥肌が立った腕を見る
(この距離で…か。マズいな…おそらくアレにあたる冒険者は地獄を見るぞ)
ロベルトは刃が欠け、若干歪んだ長剣を肩に担ぐと走り出した
(今の俺では勝てないのに、どうして向かっているんだ?)
ロベルトは走りながら、自分が不可解な行動をとっている事に疑問をもつ
それが仲間を思う心…という事を、ロベルトはまだ知らない
◇◇◇
「なんだっ?この数は?!」
親玉を狙って駆け出して来たものの、親玉は見当たらなかった
それよりもオークの数が尋常じゃない。どこにこれだけ…いや、集まって来ているのか?と、ザジは感じた
「ザジ殿っ!今すぐ引き返しましょうぞ。このままでは道を開く前に、オークに囲まれてしまうっ!」
老兵が言ったことは痛いほど分かる
だが、姿が見えないだけで…この辺りにいるのだ。目当ての奴が。
「親玉を、親玉を見つけろっ!ソイツさえ殺れば、コイツ等は散り散りになるはずだ!」
ザジの言った言葉は正しい。…正しいのだが、相手を知らない
それを言って良いのは…倒せる見込みがある相手の時のみだ
「いいか、なんとしても見つけろ!さすれば俺らの勝ちだ」
冒険者たちはザコに目もくれず、ひたすら親玉を探す
時折、牽制をするが殺すには至らない。殺す労力すら惜しいのだ
ザジは苛立つ。あと一歩…いや、半歩で勝利が掴めるのに、と。
「出てこい!俺の前に出てこいよっ。それとも何かっ?親玉のくせに臆したか?!」
ザジの挑発が効いたのか…
ついに親玉が現れる
「ブヒィーーーッ!!!」
……
…
「こ、こ、コイツはっ?!ロードかっ」
ザジも含めて、誰もが予想していた親玉と違った。良くてプリンス、悪ければキングかと…
だが実際は、キングよりやや小さく金色の毛並み…この50年でも、数体しか討伐報告がない
無論、ザジも実物を見るのは初めてだ。他の冒険者たちも然り
皆はオークに囲まれている状況も忘れ、佇んでしまった
「「ぎゃあーっ!」」
当然敵に囲まれているのだ。攻撃も喰らうだろう
何人かの犠牲により、我に帰る冒険者たち
だが、オークは待ってはくれない。どんどん冒険者の数が減っていく
『どうした人間?俺を探していたのだろう?』
ロードが言葉を発するが、実際には
「ブッヒッヒ。ブヒィーッ」
分かるはずがない
「くそっ!ロードから目を離すなっ。ザコを倒し道を作れ!撤退だ!!」
ザジは撤退を決めたが、もう手遅れだった
……
…
冒険者が次々と殺され、全滅が目に見えた頃…ザジたちが来た方向から、1人の男が大剣を振り、オークを倒しながら現れる
「ザジ、まだ折れるなよ。最後まで諦めないのが冒険者だろ?」
ロベルトが参戦した
「冒険者よ、密集せよっ!俺が来た道は数が減っている。この機を逃すな!撤退だ」
残っている冒険者は10に満たない。それでも活路が開けたと、冒険者たちは密集する
ザジもロベルトの指示を聞き入れ、老兵と共に密集の陣を作ろうとするが…彼は立ったまま事切れていた
「ロベルト何故だっ、何故やって来た?!」
ザジはロベルトが、この場に来たことが理解できなかった
この場に来る…それは死ぬということ。
来なければソレはない。だから放っておいても良かったのだ…死にたくなければ。
「何故だろう…。実は俺も良くわからんのさ」
ロベルトが自分でも、不思議だと思ったからこそ出た言葉。ザジはその時の…ロベルトの顔に惹きつけられた
「だが…
「ザジ。話はあとだ。先にすべき事があるだろ?」
「…そうだな」
オークを倒しながら来た道を戻るが…
更に冒険者が減っていく。もう片手の指の数だ
「ぐっ?!」
足にきていたザジは、オークの体当たりによって転がされる
ランクSのザジとはいえ、ずっと戦い通しだ。自分が思っていた以上に、体に負担がかかっていたのだ
目の前にオークの槍が振り下ろされる
ザジはただ…それを眺めていた
(あぁ、ここで終わりか…)
直前、人影が目の前に入った
「ちっ! …大剣、大剣と言って長剣を蔑ろにした罰が当たったか…」
人影はロベルトだった
ロベルトは振り下ろされる槍を、大剣で下方より振り上げ、弾こうとするが間に合わなかった。これが長剣なら、弾き返す事が出来ただろう。
結果、ロベルトの左目は眉間から斜めに切られる
「ロベルトっ!何故庇った?!」
ザジは二回りも年下の…少年に庇われた事に怒りを覚えた
「バカか? たとえ僅かな時間だとしても、お前は部下だ。部下を庇う事に"何故"は必要あるか?」
ザジはロベルトを知る
(あぁ、このお方こそ俺が仕える主人なのだ)
「ロベルト様、このザジを正式に部下にして頂きたく存じます」
「阿呆。生き残ってから言えっ!」
ロベルトとザジ。生き残りは2人だけだった
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