第33話 キングとクイーン

エリザはオーク軍が、どんどん倒されていくのを瞬きもせず見つめていた

マルーンは敵陣に突っ込み過ぎて、目視では確認出来ない。ヌレハも同じなのだが…、こちらはオークが上空に飛ばされているから場所は分かった


「…はぁ」

ヌレハの活躍を見れる位置に居ながらもエリザは、よそ事を考え溜息をついた

「父上…」


エリザが人間の領地に来たのは、父との確執にあった。家出したといってもいい

しかし今、まだ幼かった頃の自分を思い出す。

『あの頃は父が好きだった』な、と…


エリザは幼き日の記憶を巡る



『父様〜、どうしてみんなは、私に優ちいの?』

同い年の子供たち(殆どがオス)は、親に叱られたり鍛えられたりしている

子供たちは親が怖かった。しかし、そんな親たちも自分には優しく接してくれる。幼いながらも不思議に思った私は、父に聞いた


『お前は特別な子供だ。俺の娘ということもあるのだろう…。だが…だからといって俺は、お前を特別扱いにはせんぞ』

『うんっ!それでいいよ』

当時の私は、意味がよく分からなかったが…

その言葉がとても嬉しかったということを今でも憶えている



『ねぇ、父様。人間を殺さなくていいの?』

人間は私たちの敵だ。そのことを理解したのはこの頃だったろうか…

仲間たちは人間を見つけ次第殺す。そして女は犯すのが当たり前だと思っていた。

それが、父だけは…父だけが違った


『確かに人間は敵だな。殺さなくてはならない。だが…人間を滅ぼしてみろ。俺たちも滅んでしまうぞ?』

『なんで?なんで私たちも死んじゃうの?』

『子孫ができないからだ…。

…いや、お前には少し早かったな。すまん』

その時の、苦笑いして私に謝った父の顔を憶えている



『おい。そろそろ良い奴見つけたか?』

いつだったろうか…。年頃になった私に、父がそれとなく話してきた

『もうっ!そんな相手、居るわけないじゃないっ。…それに父上より、男らしい男なんていないわよっ』

『そうか…。ま、お前は焦らなくてもいいか。すまん、忘れてくれ』

男手ひとつで私を育ててくれた大きな背中が、その時少し寂しそうだったのを憶えている




『なんでっ!なんでそんなことを言うのっ!』

大好きな父に、初めて私は怒鳴った

『お前はクイーンだ。俺たちとは存在が違う。クイーンとして、君臨するのは当然だが…同時に子孫も残さねばならぬ』


遠い昔、オークのクイーンが魔王になったこともあって…各部族の族長が、"クイーンの子供を是非に"と騒いでいるという

父は立場上、話を聞き流すことが出来なかった。いや、父の立場なら出来たかもしれない。

おそらくは父も期待したのだろう。今なら分かる

『私に夫など要らない!どうしても…というなら、私より強い男しか認めないわっ』

『バカっ!お前より強い男など存在せんっ』

父にビンタをされる私

『ぐっ?! 手首がっ…。これを見ろ!キングの俺でさえお前には傷をつけれんのだ。強い男などと言わずに、どこかの族長の息子と番いになれ!』

利き腕を痛めた父が、私に言った

『父上なんて嫌い! もう、父上なんか知らないっ』

私は里を飛び出した


喧嘩別れしてから父とは会っていなかった



そして今、父上の命が消えかかっている…


人間にやられたとしても、同族にやられたとしても…それがキングとして、存在する父上の運命だ

だが…出来ることなら、最後に話がしたかった。

私が謝ることはないが、今とても素晴らしいお方にお仕えしているのよ、と伝えたかった


しかし、そのお方のご命令だ。父上に会うことは叶わない…。

ご主人様の兄上の救援に行かなくてはならないから


……

「ごめんね父上…。私、行くわ」

エリザは眼前の壊滅したオーク軍の中を走り抜けて行った



◇◇◇



「オークのボスが死んでいる…」

イッキは腹わたが飛び出した、キングの亡骸の前に立つ

体のあちこちにも傷がついている

おそらくキングより強いナニかが、やったのだろうとイッキは思った


「ブ……ヒ…」

亡骸と思っていたキングから、微かに聞こえた

生命力の強いオーク。…それもキングだからこその"今"なのか。

「キミ…泣いてるの?」


イッキはキングの瞳から溢れる涙を見た


「ごめん。僕はキミの言葉が分からない。何か言いたそうだけど…許してね」

イッキはキングに向かってそう言った


『クイーン…ゆるせ…。』

イッキに話しかけられた為か…キングが呟いた

「いま、キミ…なんて?」

イッキは更に話しかけたが、キングはもう死んでいた


「勝手に死ぬなよ… なんて言ったのか、気になるじゃないか」

イッキはキングの額に手を当てた…



(クイーン…。俺が間違ってた。お前には辛い思いをさせたな…すまなかった娘よ)


(キミが彼女の父親かい?)


(?!バカなっ…。俺は死んだんじゃないのかっ?)


(うん。死んでるよ。だけど少し話がしたかったからね)


(死んだ者と会話が…貴様、死霊術士かっ?!)


(死霊術士?そんなカッコいいモノじゃないし、使えるわけないじゃん。よっ…と。これで僕が見えるかな?)


(人間の子供だと?! いや…人間ではないな)


(僕は僕だよ。…詐欺っぽいねっ、ぷぷっ)


(…俺になんの用だ?)


(あ、そうそう。キミ、クイーンの父親なの?)


(クイーンを知っているのか貴様っ?!)


(知ってるよ。僕の配下だもの…。今、エリザって名前があるんだよー)


(クイーンを配下にしただと?やはり貴様は…)


(…俺がナニかは知る必要がない。それより…エリザに伝えることがあるか?)


(な、なんだ…コレはっ?! …まさか…まさか、あなた様は…

  娘に…すまないとだけ…お伝え願えるでしょうか…?)


(ふむ…却下だ。謝罪の言葉を託すのが気にくわん。 …自分で伝えよ)


イッキはキングの額から手を離し、指を鳴らした


やわらかな風が、キングの亡骸を吹き抜けると…そこには何も無かった



◇◇◇



「豚さん、強いねー」

マルーンはロードと対峙していた

『小娘がっ。…貴様もなかなかやるな』


敵陣を直線で駆け抜けたマルーンは、ちょうど殺されそうになっていたロベルトを助けた。ロードとロベルトの間を割って入った形だ


「娘、何者だ?!」

突然現れた小娘にザジが問う

「あたし?あたしはイッキ様の配下だよー」

配下になりたいが為、しれっと嘘をつくマルーン。


「イッキ?! 今、イッキと言ったのか?」

ロベルトは彼女が発した言葉に驚いた

「ロベルト様、イッキというのはどなたで?」

ザジが知らないのも無理はない

「この俺の弟だ」

「はっ。そうでございましたか」


ロベルトがイッキの事をザジに話し出す

弟の話をする兄…嬉しそうだ

「あのさー。いま、戦いの最中だよ?」

ロードの槍を受けながら、2人にマルーンが言う

彼女はロードの相手を、何気なくしている様だが…ザジならもう5回は死んでいる


「ちょっとは危機感もたない?」

マルーンはすごーく当たり前の事を言った



『ちょこまかと…。すばしっこい奴だ。

…ぐ?! ぐわぁぁぁ…』

ロードがセリフの途中で叫ぶ

3メートル半ばぐらいだったロードが二回り大きくなった

『キングの力が俺に?…今死んだかキングよ』


ロードが進化した


「ひゃー。あたしじゃ、手に負えなくなっちゃった」

マルーンが後退する

「どうした小娘?来ないのか?」

ロード改め、キングロードがマルーンを挑発する

「うーん…。2人とも…逃れないよね」

マルーンはロベルトとザジを見遣る。2人は尻餅をついていた

「どうしよう…」

……

マルーンは必死に攻撃を躱していた

その持ち前のスピードを活かして。数えきれないほどの攻撃を避けた

しかし、体力が減ってしまったせいで…つい、キングロードの槍を大鉈で受け止めてしまう

「きゃっ?!」

マルーンは吹き飛ばされた


「小娘が、手こずらせやがって!だが、それもここまでだっ。死ねい!!」

キングロードは力を込めた突きを放った

…が、飛んで来た巨大な戦斧に防がれてしまう


「新たな敵かっ!」

キングロードは吠えた


「敵? …違うぜ。姉だ!」


ヌレハとエリザが参戦した

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