図書室と神話とポンポン船

ある日の午後、俺は学校の図書室に来ていた。この世界の事を調べるために何か良い本が無いかと探しに来たのだ。とりあえず童話や神話、魔法の教本やこの世界の地図等 計10冊を借りた。

入口の横に新聞も見つけたのでそれも借りようとしたのだが“持ち出し厳禁”と書いてあったので図書室で読むことにした。

『新たな古代遺跡を発見。神話時代解明の鍵となるか。』

『王都で連続不審死。住民に広がる不安。』

『グレー島領土問題。隣国との睨み合い続く。』


気になる記事に一通り目を通し終えるともうすぐ部活の時間になろうとしていた。

元の位置に新聞を戻し部室へと急ぐ。


科学部が始動してから一ヶ月も経つと、 当然だが部員達は授業だけで科学を学んでいる他の生徒よりかなり先に進んでいた。

その日の部活動は蒸気機関の仕組みを学び実際にそれを作る事であった。実際に作るそれはポンポン船である。水蒸気の推進力で動く玩具の船だ。

簡単な材料で作れるしおまけに浮力等の他の要素も学べる。

銅パイプだけが見つからなかったのでそれは魔法の先生にイメージを伝え作ってもらった。

モリソンに銅板や鉛板を作って貰った時には魔法で何が作れるのか把握してなかった為あんな強引な作り方になってしまったが、最近になって具体的なイメージがありこの世界に存在する物質でなら大抵の物は魔法で作れるようだと理解してきた。

白衣が化学繊維で作れなかったのもそのためだ。


部員達がポンポン船を制作している間に図書室から借りてきた本を読む。時は金なりだ。

先ずは神話辺りからか。



―――遥か昔、人類がまだ魔法の力を得ていなく科学技術なる物が文明を支えていた神話の時代。

科学技術を司る知識と知恵の神が人類のさらなる発展を御望みになり地上に魔法の種をばら撒いた。それは長い年月をかけ成長し、やがて世界全体に根を張った。知識と知恵の神はそれと同時に何人かの選ばれし人間達に魔力を授けた。魔力は親から子に、子から孫にと受け継がれ、やがて魔力を持たない者はいなくなった。

科学は魔法の発展と共に衰退していき一部の限られた人間にしか扱えない物となった。


そして世界は唐突に終焉を迎えた。


天から降り注ぐ無数の炎の槍。それは世界を焼き尽くし、更には大洪水を起こし陸の半分を海に沈めた。

事前に気がついた知識と知恵の神が人類を聖域へと導こうとしたが科学を司るその神は科学の衰退と共に力を失いつつあった。

そんな神を信じる者は少なく殆どの人間は地上に残る。

そして神に導かれた僅かな人間だけが聖域で生き残った。

生き残った人類は聖域で途方もなく長い年月を過ごし少しずつその数を増やしていった。

やがて聖域に収まり切らなくなった人類は意を決し荒れ果てた地上へと戻った。


科学を知る者はもういない。


これか魔法歴の始まりである。―――




ここまで読み俺は知識と知恵の神とやらを不憫に思った。

人類の発展を願い、その結果多くの人の信仰心は薄れ力を失い、人類を救えなかった。

どれたけ悔しかったのだろう。

無神論者の俺でさえ切なく思う。

「朝倉先生、皆作り終わりましたよ。」

ダレンがそう伝えに来た。

「よし!じゃあ早速実験してみようか。水を用意してくれ。」

各々水を入れた容器に自作の船を浮かべた。

アフロディーテが炎の魔法を使い蝋燭に火を着けて回る。

暫くすると玩具の船はゆっくり水の上を進みだした。

喜ぶ部員達を見て俺もさっきまでの切なさが無くなり嬉しくなったのだった。

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