恥ずかしいあだ名
夜が更け酒が進むとモリソンがこんな話をしだした。
「朝倉先生、知ってるか?学校で他の先生方から俺達“帰ってきた救世主”なんて言われてるらしいぜ?」
俺が は?なんだそれ?と怪訝な顔をしているとモリソンは続ける。
「なんでもあの学校で教師一年目に部活を任されたのは創立以来俺達だけらしい。」
「そんなことで救世主ってアホな。それに“帰ってきた”って?」
「それがあの村には昔彗星のごとく現れた3人の救世主がこの世界を救ったっていう伝説が語り継がれてるみたいでよ。3人はそれぞれ3柱の神から加護を受けていたらしい。
1人は知識と知恵の神から、1人は戦の神から、最後の1人はその2柱の子供の神からって感じでな。
んで俺と朝倉先生、そしてもう一人、今年 彗星のごとく現れ創立以来初の偉業を成し遂げた奴がいる。
そう、神童アフロディーテ サイノンだ。“神童”っつう呼び名は恐らくその辺もかかってるみたいだな。まぁとりあえずこの3人が同じ年に現れた。」
「なるほどな。だから“帰ってきた救世主”ね。」
俺は納得しながらもアホらしいと思いながら酒を飲む。
「まぁ、先生方も別に本気で俺たちが伝説の救世主だなんて思ってる訳ではないだろうがな。ただのこじつけで付けたあだ名みたいなもんだ。」
モリソンもグラスに残った酒を一気に飲み干す。
「それにしてもそんなこっぱずかしいあだ名は辞めてもらいたいもんだね。」
「そうか?俺は結構気に入ってるんだがな。かっこいいじゃねぇか、救世主。」
モリソンは最初からだがいつの間にか俺も敬語を使わなくなっていた。
「お2人さんよ、そろそろ店仕舞いの時間だ。銀貨9枚と銅貨6枚だよ。」
マスターがそう言ってきた。
モリソンが財布を出したので慌ててそれを制し約束通り俺が全て払った。
「金貨一枚で大丈夫ですか?」
そう言い金貨を一枚マスターに渡す。
「じゃあ銅貨4枚の釣りだな。」
このやり取りで初めて硬貨の価値が分かった。銅貨10枚で銀貨1枚分、銀貨10枚で金貨1枚分という事のようだ。
「また来なよ。」
そう言うマスターに見送られ俺達は店を出た。
「今日はご馳走さん。また学校でな。」
「あぁ、じゃあな。今日は楽しかったよ。」
「俺もだ。」
モリソンと別れ学校へと帰りながらふと夜空を見上げる。無数の星達がとても綺麗に煌めいていた。
星明りに照らされた村の風景を見て思い出す。
そういえばこの辺は俺が気がついたら倒れていた場所、つまりあの日あの巨大な蟻に遭遇した草原のすぐ近くだ。
しかしそこそこ民家があるので普通に暮らしているのだろう。この辺に住んでいる村人は魔物に襲われたりしないのだろうか?
少しゾッとして学校へと急いだ。
翌日、授業がない時間に一緒に教務室にいた他の先生にその事を聞いてみた。
「村に魔物除けの魔法張ってるからね〜。魔物除けの範囲は村全体に及ぶけどあの草原はぎりぎり村の外だから夜は行かないほうがいいわよ〜。」
とのことだった。
村の中心に魔法陣が描かれておりそれに魔力を注ぎ発動しているらしい。
「一日効果を継続させようとしたら結構な魔力が必要だもんね〜。ブレイブスの人達はやっぱ凄いわ。ゴールドクラスのリンちゃんもお父さんの才能引き継いで優秀だし。将来はブレイブスに入りたいってこの間言ってたわ〜。」
そういえばブレイブスの本部も村の中央辺りだったな。
そういうことならもう気軽に魔力を貰うのは悪いな。
というのも実はこれまで宿直室の灯りや魔冷庫、調理用の火を起こす魔道具等に必要な魔力を夜巡回に来るブレイブスの面々に補充してもらっていたのだ。
その夜、巡回に来たナットにその事を言うと笑いながらこう言った。
「そんな事気にする必要は無い。家具に使われる魔道具に必要な魔力なんざたかが知れてる。
それにあんたが全く魔法を使えないと知った時は驚いたがダレンという前例を知っているからな。困っている時はお互い様だ。
だから俺らが困った時には期待してるぜ。“帰ってきた救世主”さんよ。」
言い終わるとナットは巡回の続きをしに学校をあとにした。
…あのこっぱずかしいあだ名は一体何処まで広まってしまっているのかと俺は頭を抱えたのだった。
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