模擬授業
その夜はブレイブスの本部に泊めてもらい翌日俺はナットに連れられ学校に訪れた。校門の前には身長は低め(ダレンと大差無い)だが全体的に丸々とし、顔には立派な白い髭をたくわえ、丸眼鏡をかけたハゲ頭の人の良さそうな老人が笑顔で立っていた。
「校長、おはようございます。コレが昨日伝えていた男です。」
昨日ナットさんが魔法で何やら伝えていたのはこの老人らしい。
校長、つまりここの責任者か。
「朝倉茶鶴と申します。ナットさんの計らいでここでお世話になるようにと助言を頂きました。宜しくお願い致します。」
俺はお辞儀をしながらそう言った。あまり敬語など使う機会がなかったため言い回しが正しいのかよく分からない。
「校長のヨーダンブールです。ナット君の頼みだからね。遠慮せずに宿直室を使って下さいな。勿論仕事の方はしっかりして貰いますが。」
笑みを崩さずにヨーダンブールがそう言いながら手を差し出してきたので握手を交わす。
「ちなみに教師の経験はお有りで?」
「いや、ありません。研究一筋でしたので。」
「そうですか。それなら一度私とナット君相手に模擬授業をして頂けないですかな?科学とやらにも興味がありますし、いきなり生徒相手に授業をするより大人相手に一度経験しとくのも良いと思いますので。」
…これは恐らく試されているな。この世界では唯の伝説やお伽噺の類とされる科学がどんな物なのか、この俺に教師の素質があるのか、それらをこの模擬授業で見定めるつもりなのだろう。
断るわけにもいかないのでどんな事をしようか考える。
そうすると何をするにもそれなりに道具が必要なことに気がついた。何かこの世界にありそうなもので手軽に出来るものはないだろうか。鍋等の金属の加工品や窓やコップに使われているガラス製品などがあることはこの二日間で確認している。それらも立派な科学の力なのだがおそらく作り方は知っていてもそれを科学と認識していない、つまり理屈や原理等を知らないのだろう。きっと知る必要がないのだ。 それらを説明するのを授業としてもいいのだが今回はもう少しポップな内容がいいだろう。
「虫眼鏡と紙を用意して頂きますか?」
眼鏡がある世界なのだから虫眼鏡も恐らくあるだろう。
「ええ、直ぐに用意しましょう。」
ヨーダンブールはそう言うと呪文を唱えた。すると地面に何やら魔法陣のようなものが浮かび上がりその中からまるで地面から生えてくるかのように虫眼鏡と一枚の紙が出現した。
…マジか。作り方を知ってるのは確からしい。理屈や原理を知らないのもその通りだろう。だが根本的に俺の想像と違った。あらゆる物を魔法で作っているのだ。作り方と言っても“魔法での作り方”を知っているのだ。…そりゃここまでなんでも魔法で出来るのなら科学が発展しないのも頷ける。
まぁとりあえずこれでアレの実験が出来る。
俺は二人に向かい仰々しく言う。
「では今から魔法を使わずに科学の力で火を起こしてみせましょう。」
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