これからのあて


取調も落ち着いてきた頃、慌ただしい足音が聞こえてきた。


バンッと勢いよくドアが開く。


「茶鶴さん!!大丈夫!?怪我してない!?」


ダレンが肩で息をしながら入って来た。後ろには澄まし顔のリンの姿も。


「大丈夫だよ。ナットさんが助けてくれたから無事だ。心配かけたみたいで悪かったな。」


本当にダレンは良い子だな。ここまで良い子だと確かにリンの“もう少し自分本位でもいい”というのも理解できる。人の事を考えすぎて損をしてしまいそうな性格だ。


そんなことを考えていたらナットが頭をポリポリ掻きながら話に入って来た。


「その様子を見てると聞くまでもない感じもするが…ダレン、その茶鶴という男は悪意のある奴ではないのか?…お前の言う“黒い靄のような物”はこの男から見えるか?」


黒い靄のような物?そんなのがダレンには見えるのか?


「茶鶴さんは大丈夫だよ。そんなもの見えてたら最初から近づかないし真っ先にナットさんに知らせるよ。」


「そりゃそうだ。」


ナットはこちらに向き、続けて言う。


「じゃあこれで取調は終わりだ。身柄を開放する。時間取らせて悪かったな。」


え?それだけで?ダレンが怪しくないと言ったらそれでいいのか?そりゃ俺としては助かるが…いいのかそれで…


呆気にとられている俺を尻目にナットは続ける。


「ところで茶鶴、アンタ寝泊まり出来る場所のアテはあるのか?それに金はいくら位持っている?帰れる算段付くまではこの村にいるんだろ?」




勿論寝泊まり出来る場所も金も帰れる算段も何も無い。


「いや、無いです。どうにかなりませんかね?」


「それならまた家に来なよ。家事でも手伝ってくれたら母さんも良いって言ってくれると思うし。」


ダレンが誘ってくれたが流石にそこまでお世話になるのは心苦しい。


「それは駄目だ!!女子供しかいない家に得体の知れない男を住まわせる訳にはいかない。今はそんな気ないだろうがいつ魔が指すかわからん。」


ナットが語気を強めて言う。


薄々気がついていたがローリング家には父親がいないらしい。そうとなれば俺もナットに賛成だ。勿論変な気を起こすつもりなど毛頭無いが常識的に考えてそれは許されることではないだろう。


「魔が指すって何?」


純粋無垢な瞳で訪ねてくるダレンは一旦無視することにする。


「しょうがねぇな。アンタ学校に住め。我らブレイブスが使うための宿直室がある。一応建設の時に作ったがこの村は比較的平和でな。寝泊まりする必要は滅多にないから勿体ないと思っていたところだ。」


「えっと…それは助かるんですけど勝手に決めちゃっていいんですか?」


「学校側には俺から頼んどく。まぁ許可はすぐ出るだろう。だが学校も村人からの税金や寄付で経営しているからな。タダで住まわす訳にはいかん。」


「とは言ってもお金なんか持ってないのですが…」


「アンタ学者なのだろう?学校で科学とやらについて教師をやってくれ。そうすれば食うに困らんぐらいの給料は払ってやれるだろう。学校なら人の目が常に光っているからな。変な気を起こす暇もない。夜は我らが学校も巡回しているしな。これも学校側には俺から話をつけてやる。」


教師などやったこともないのだが断っても他にあてはない。


それにナットの中ではもう決定事項らしい。何やら魔法で誰かと連絡し始めた。




「ねぇ魔が指すって何?」


ダレンが再度聞いてきたがそれを俺は苦笑いで受け流した。


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