ナット
あぁ死んだな。そう思った。そりゃそうだ。俺は科学者、自慢じゃないが身体能力など並以下だ。逃げ切れるビジョンが浮かばない。
巨大な蟻がカチカチと音を鳴らし口を左右に開閉しながらジリジリ間合いを詰めてくる。 腰が抜けて動けない。
もう駄目だ!!と目を強く瞑る。
…
……
………おかしい、一向に襲ってくる気配が無い。
ゆっくり目を開けるとそこには立ったままの巨大な蟻の胴体とその足元に転がるさっきまでその胴体にくっついていた筈の首があった。
「ヒッ!!」思わず変な声が出てしまったがそれもしょうがないことだ。うん。しょうがない。
「無事か。」
と謎の声がすると同時に蟻の巨体がドシーンと倒れる。
「こんな時間にこんな所で一人で何をしている?死にたいのか?」
そこに現れたのは大きな剣を持った体格のいい男だった。歳は恐らく40代半ばといったところか。
「立てるか?」
男はそう言いながら手を差し伸べてくれた。
その手を掴みなんとか立ち上がる。膝の笑いが止まらない。危うくチビるところだった。(実は少しだけ…なんでもない)
「ありがとうございます。考え事してたらいつの間にかこんな時間になっていて。」
「ここは巨大蟻−ジャイアント−の巣が近い。夜に一人でいるなんてアンタ余所者だな?」
「えぇ、昨日この村に来たばかりで…助かりました。私は朝倉茶鶴といいます。」
「そうか、俺の名前はナット。この村の警備隊〈ブレイブス〉の一人だ。夜の巡回もたまには役に立つものだな。」
そこまで言ってナットと名乗った男が何やら呪文を唱える。
俺の体は目に見えない何かに拘束されたように自由が効かなくなった。そしてその俺を担ぎ上げナットは続けて言った。
「では余所者のお前が何をしにこの村に来てこんな時間にこの草原で何をしてたのか本部の方で聞かせてもらうぞ。」
俺は人生で初めて連行された。
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