いじめッ子と腰巾着と赤髪と

翌朝俺は鳥の囀りで眼が覚めた。


状況が状況なのであまり寝付けず頭がぼーっとしている。


重い瞼を必死に開けながら顔を洗いに行くと少しばかりかマシになった。


「あ、茶鶴さんおはよう。朝食出来てるよ。早く食べて。」


ダレンが何やら準備をしながら言う。


「昨日の約束通り学校に行く前に昨日のとこまで案内するからさ。あと30分ぐらいで出なきゃ遅刻しちゃう。」


この世界にも学校はあるのか。


そういえばテストがあるとか言ってたな。


「おはようダレン君。わかった。ありがとう。ローリングさん、おはようございます。朝食いただきます。」


食べ終わるとダレンが早く早くと急かす。


「色々ありがとうございました。こんな何者かも分からない自分に良くして頂いて。とても助かりました。なんのお礼も出来ずに…」


玄関先でローリングさんに頭を下げる。


「いいんですよ。困ってる人には手を差し伸べるのは当然のことです。それにダレンには何故かいい人かそうではない人かが分かるようなんです。ダレンが連れてきたあなたは悪い人ではないの分かってましたから。」


ローリングさんは微笑みながらそんなことを言う。


「ほら、行くよ。学校に遅れちゃう。お母さん行ってきます。」


ダレンが母親に手を振り歩き出し、俺はもう一度ローリングさんに頭を下げその後についていく。




道中ふと気になったことを聞いてみる。


「学校で何を習ってるんだい?やっぱり魔法とか?」


「色んな授業があるよ。魔法もそうだし、語学、数学、生態学、体育、音楽とか色々。」


魔法以外あまり俺の世界と変わらないらしい。


「何か得意な教科は?」


「うーん、魔法以外は皆それなりに出来る方かな?魔法が使えない分他のことで頑張らなきゃ。


魔法も練習はしてるんだけど全然…」


ダレンは苦笑いを浮かべる。


何故ダレンは魔法を使えないのだろうと思ったがさすがにそれを本人には聞けない。


と言うよりまだ誰かが魔法を使ってるのを一度も見ていないので本当に他の人は魔法が使えるのかすら疑問だ。


「おい!魔NOダレン!!」


突然の背後からの声。


振り向くと年の割には体格のいい少年と眼鏡をかけた背の小さな少年がふんぞり返っていた。


「明日の召喚魔法のテスト楽しみだな。どうせお前は蟻んこ一匹呼び出せないだろうけどな!!」


体格のいい少年が嫌みたらしく言う。


「だろうけどな!!」


眼鏡がそれに便乗。


「うるさいなぁ。僕だって練習してるんだ。明日やってみないと分からないだろ。」


「分かるよ。今まで一度でも魔法が成功したことがあるのか?」


「あるのか?」


「それは…でも今度は成功するかもしれないじゃないか!!」


「無理無理。そういうのを淡い期待って言うんだよ。」


「言うんだよ。」


分かりやすすぎるいじめッ子とその腰巾着。こんなのアニメでしか見たことない。


ダレンはため息をつく。


「茶鶴さん、行こう。あんなのにかまってたら時間なくなっちゃう。じゃあまた学校でね。ビッグジョー。それにチャックも。」


「あんなのとはなんだ!!これでも喰らえ!!」


ビッグジョーと呼ばれた体格のいい少年が何やら呪文の様なものを呟き小さな棒をつき出す。するとダレン君の頭上からバケツ一杯分ぐらいの水が勢い良く降ってきた。


「ぎゃははは。じゃあな魔NOダレン」


「じゃあな。」


二人は大笑いしながら去っていった。


本当に魔法があるらしい。初めて魔法を見て驚いた。


しかし今はそれより…


「大丈夫か?家に帰って着替えないと…」


「いいよ。学校行けば体育用の服あるから。」


「濡れたままでいると風邪ひくぞ。」


「でも今から家に戻ると昨日の場所に行く時間無くなるよ。僕移動魔法も使えないし。」


それは困る。しかし恩人をこのまま濡らしておく訳にはいかない。


「それは自分で探す。なんとなくなら覚えているし大丈夫だからダレン君は一回帰って着替えた方がい…」


俺が言い終わるか終わらないかのその時、


「ダレン!!」


またもや突然の声。


声のする方を見ると16~17歳ぐらいの少女がいた。


長い赤い髪が綺麗な美人であるが何処か気が強そうだ。


「リン姉…」


「また悪ガキ共にいじめられたの?びしょ濡れじゃない!!」


「うん。けど大丈夫だから。」


「大丈夫じゃないでしょ。ちょっと熱いだろうけど乾かしてあげるからそこに立ってな。」


リン姉と呼ばれた少女は小さな棒をつきだし呪文を唱え始める。


すると辺りが熱くなり強風が吹き乱れる。まるで色んな方向から巨大なドライヤーの温風を当てられてるようだ。


俺は濡れていないのに…


風が止みダレンを見てみるとよく乾いていたがその代償に髪はボサボサに逆立っていた。


「あー!!朝せっかく寝癖直したのに~」


嘆くダレンに対して


「全身濡れてるより良いでしょ!!」


とリンという少女は言ってのける。


「うん、そうだね。ありがとうリン姉。」


ダレンが髪を手でとかしながら礼を言った。


「どういたしまして。それでその人は誰?」


良かった。さっきから蚊帳の外だったのでダレン少年以外には見えていないのかと少し不安になっていたところだったのである

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