第13話 女の子だったの!?


 「ねえねえ君、その赤毛って生まれつき?僕の名前はオルダって言うんだ。よろしくね!」

 

 「君の瞳は羨ましいくらい綺麗だな…… 俺はシバン、よろしく!」

 

 「僕はボアル!よろしく。君さぁ、何で " 素敵なオジサンお髭 "なんて付けてんの?弟のベルケも同じの持ってるよ」

 

 雪花シュエホアは麗しの貴公子達の質問攻めにあっていた。

 

 (髭がおもちゃとバレてたか…… うう、なんだか恥ずかしい~!)

 

もう明日っから髭を付けるのをやめようと思った。

 皆、至近距離で見ても美しい。

 絵巻物の世界からいらっしゃいましたか?と思うくらいの美形揃い。

 美の為に何の努力もせず、のほほんと堂々と生きている自分が恥ずかしく思える。

 

 「僕はジョチ。よろしく」

 

 菖蒲の花の貴公子は、優しい笑顔を向けた。

 

 (あ…… 薬用ビュー○君だ。癒して欲しい)

 

 「こちらこそ。私は……バヤル…… ジョノンです……」

  

 言ってしまった。 キラキラネームが恥ずかしかった。

 では、さっき紹介した人から順番に。

 

 「なんか君にぴったりだね!」

 

 (ええ!?そうかしら?)

 

 「そうそう!浮き世離れした感じがさあ!」

 

 (良い意味と取っていいですか?)


 「僕らと遊ぼうよ!」

 

 (いいですけど…… この時代って何して遊ぶんですか?)

 

 「友達になりたいな」

 

 (あなたみたいな誠実そうな方なら

OK~と即答です!)

 

 直ぐ近くにいる高麗王子がガン見している。

 

 「僕らいい友達になれそうだね!」

 

 オルダはシュエホアと肩を組んだ。

 

 「おい!!こいつは俺の……」

 

 王子は髭ズラ乙女のことをなんて言っていいのか悩んだ。

 

 「俺の何って言いたいんだ?」

 

 ジョチが意地の悪い顔をした。

 

 「ダ……ダチなんだよ!だから……」

 

 「え?単なる友達だろ?じゃあ俺らと遊んだっていいんじゃない?」

 

 シバンも反対側からシュエホアと肩を組んだ。


 「いや!めちゃくちゃダチだ!一番の!俺達はいつも一心同体だ!!」

 

周囲に誤解されるようなことを平気で口走るくらい王子は焦っていた。

 側で見ている従者三人衆はとりあえず、今は見守るだけにした。

 彼らにとってシュエホアは要注意危険人物。

 触るな!混ぜると危険―― はっきり言って王子に近付いて欲しくなかった。まあ近付くのはいつも王子の方だけど。

 

 「は?まるで俺の恋人には近付くな的な?君達って、今流行りのそういう非生産的な関係?」

 

 ボアルのストレートな質問に、シュエホアは魔除けの張り子の虎みたく、ぎこちない動きで首をガクンガクンと横に振った。

 

 「だよね。これは失礼」

 

 「いえ……」

 

 いくら鈍感なシュエホアでも、侮蔑が含まれた今の言葉の意味がわかった。子孫繁栄こそが一族の基盤という、いかにも遊牧民的な考え方だ。


「おい、お前ら無礼な奴らだ…… ムカつく!」

 

 王子はキレた。

 

 「は?やるのかよ。相手になってやるぜ!」

 

 シバンの黒髪超ストレートのポニテがざわっと揺れた。

 王子と従者二人は剣を抜き、貴公子達も剣を抜いた。非戦闘員のチャンディはひとりハラハラオロオロしている。

 

 (げっ!薬用ビュー○君まで。見た目によらず、なんちゅうケンカっ早い人達…… に、逃げるだよ)

 

シュエホアはそっと後退りし、唐草模様の風呂敷き包みを担いだコソ泥の如く、すたこらさっさと逃げようとした。

 

 「君、奴らに背中を見せるのか?」

 

 途端、オルダに風呂敷包みを掴まれた。

 

 「……い、いえ……その様な……」

 

 仕方なく剣を抜くことにした。

 

 「シュエ…… いやバヤル・ジョノン!お前は俺の一番の親友じゃないか!!なんでそっち側に付いてるんだ!?」

 

 王子は悲痛な面持ちでこっちを見た。

 

 「……あの……でも」

 

 仕方なく剣を鞘に戻すことにした。

 

 「君!それでも男か!!本当に

大事なの付いてるのか!?」

 

 シバンは何をトチ狂ったか、シュエホアの股部分を手でバチンとはたくがあれ?と思い、確かめる意味でもう一度、今度はむんぎゅと掴んでみた。

 絹を裂く様な声とは、この声を言うのか――!?

 

 「キィャァァァァーーーー!!!」


 響き渡る、うら若き乙女の悲鳴。

一同は唖然とした。

 当然ながら…… ソレはあるはずもなかった。

 たとえようもない不思議な感触。彼はようやく己の過ちに気付いたのかも知れない。

 いや、秘密に。


 「え?え?え?ななな何でぇぇ~!?」

 

 シバンは腰を抜かした。

 

「お、お、女の子おぉぉぉ!?」


 手に残った感触に、素直に喜んで良いのか悪いのか。

 ひとり真相を知るジョチは額に手を当て低く呻くのを、ボアルとオルダは不審に思い、次にお互いの顔を見合せる。そして……


 「ちょっとジョチ!」


「知ってたなら内緒にしないでくれよ!」

 

 二人はジョチに詰め寄った。

 

 「……済まない。まさかシバンがあんなことをするとは……」

 

 いや、一番気の毒なのがほとんど初対面の男に、突然股ぐらを鷲掴みにされてしまった女子の方だった。

 恥ずかしさに顔を真っ赤に染めたシュエホアは、再び剣を抜き放った。

 

 「……成敗してやるわ!全員!!」

 

 植物油でしか取れない筈のお髭がポロっと取れた。

 

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