第12話 予測出来ない禍福
流石の丞相の息子達も、ややこしい尭舜?とわざわざ事を構えたいと思っていないようだ。
もっとも、大事な戦の前にして怪我をするだなんて、大馬鹿者のやることに違いない。
その辺の知恵は無鉄砲な高麗王子と違って、立派に働いていると言える。
尭舜は問うた。
「何故、丞相の息子の財布を掏ろうとしたのか?」と。
母親は最近になって持病の
町医者から「
しかし、医者は「滋養に効く物を食さねば夏の猛暑を乗り切るのは難しいだろう」と言った。
「でも、高麗人参はとても高い。そんなお金なかったから……」と丞相の息子の財布を狙ったのだという。
その理由が「その日暮らしの貧しい民の事を考えないで遊び惚けているくらいだから少しくらい盗ったって罰は当たらないと考えたんだ」と。尭舜は笑った。
「だがどんな理由であれ盗みは罪だ。もう二度としてはならない!」と釘を刺した。
一郎は「はい……」と元気なく頷いた。
見て見ぬふりが出来ない尭舜は、紅線をカフタンに売ってしまったというのだ。
「……嬢ちゃん、これは紅線の意思なんじゃよ」
これは詭弁ではない。
地震でも来ない限り、絶対に落ちない様に、金具もしっかりきっちり壁に固定されている。
そう、槍を持ち上げる様に抜かない限りは。
当然、三人の顔は青ざめた。
怪現象はそれだけに留まらず、落ちてきた紅線はくるりくるりと時計回りに回転、革製の鞘に収めた穂先をカフタンに向けた。
まるで「私を高く買いなさい」と言っているかの様に。
「呪いはやっぱり本当だった!」とカフタンは酷く恐れたが、気の毒な
「" おじさん達、本当にありがとう!でも十両だけで。このお金は必ず返しますから!" と一郎は言ったんじゃよ。あいつは絶対に約束は守る!あいつの澄んだ目を見ればわかる」
尭舜は銀貨の入った袋を雪花に手渡した。
「さあ嬢ちゃん、残り四九〇両。受け取ってもらえんか」
「…………あ、はい」
正直、ショックだった。
黙って売られたことではない。
(私は、紅線の主ではなかった―― いや、これで良かったのかも知れない。え!?いや…… そうか!)
急に突拍子もない考えが湧き起こった。
紅線は災いを呼ぶ――ということは!?
「……お師匠、考えましたね」
「……ほう。もう気付いたか」
「いずれ…… 紅線は私の手元に戻る。そうお考えなのでは?」
尭舜はニコニコと笑っていた。
「ああ、必ずな。だがワシは、紅線はただ災厄をもたらすだけではないのかも知れぬと思うた。人の手より生み出されたものだ。だから人の悲しみや苦しみ、喜びを解すこともあるのかも知れぬとな。まあ、紅線からの小遣いと思っては?」
「はい。私もそう思えました。ああ!でも……」
シュエホアは尭舜の顔を見て、無情にもこう言い放った。
「……お師匠、高麗人参。うちにありましたのに」
「な――!?」
尭舜の目は死んだ魚みたいになって、口から
「大変!」
シュエホアは慌てて尭舜の口をふさいだ。
(ハァ…… 予測出来ない禍福か)
占いが趣味の蘇州のお祖母が言っていたことを思い出した。
生きていると、人生何が起こるか本当にわからない。
人間が予測できることには限りがある。このように、何が幸福に繋がり、何が不幸になるのか、と。
一寸先は闇。
塞翁が馬。
禍福はあざなえる縄の如し。
この世には人智を越える不思議な力が働くこともある。
紅線は独りで旅に出たのは確か―― それも自らの意思で。
♪幾つもの山~と丘越えて~
幾つものジャムチ~を通るのさ~
北に~向かう~理想郷へ~♪
美しき槍の女王~
謎の隊商と災厄を呼ぶ槍――ある意味究極の組み合わせかも。
そして雪花と紅線は、思わぬ場所で奇跡的な再会を果たす。
彼女を守る為か―― それとも……
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