002 襲撃者の正体




 小さな笑い声がやむとカシイ支局長が切り出した。


「話を戻すが、一連の襲撃事件に対しどう対処するべきかについてだが、箱崎が目を覚ましたあとに事情を聞くのが一番だと思う。それと同時並行で襲撃者を明らかにする。一係は襲撃者の調査を。箱崎への聞き取りは和多田姉妹にやってもらう。総指揮は千々和ちぢわ、お前がやれ」


「分かりました」


「では解散」


 そう言ってカシイ支局長は出て行った。


 カシイ支局長がミーティングルームから出て行くと部屋は沈黙に包まれた。


基肄きい、襲撃者の調査を頼んだぞ」


 千々和は基肄に念を押す。


「大丈夫ですよ。任せてください」


 大丈夫か?こいつ。千々和はそう思った。




 ***



 福岡市のとある場所の倉庫内に箱崎捜査官を襲った襲撃者たちがいた。


「シルバー卿。心配なかったでしょう?我々は今までどんな事でもやり遂げてきたのですから」



 襲撃者のリーダーらしき中年の男性が銀髪の中年男性に話す。



「まぁ、今のところは、ねぇ。相手はS.M.A.R.Tです。そんな簡単に逃げきれるとは思わないが。慎重に慎重を重ねてもまだ足りないぐらいですよ」


 襲撃者のリーダーは銀髪の中年男性が言っていることに一理あると感じていた。


「で、捕らえた捜査官は?何か情報を吐きましたか?」


「いえ、何も。拷問しても意味がないのでは?階級も格下みたいですし」


「代わりはたくさんいます。死んでも問題ないですよ」


 つまり、拷問を続けろと銀髪の中年男性は言っているのだ。


「分かりました」


「それにしても、情報の提供対象者が一人は寂しいですねぇ」


 情報提供対象者とは『捕らえた捜査官』の事である。


「あと何人か欲しいものです。より高位の捜査官を、そして聞き出しなさい。『魂』に関する情報を」


「了解です。すぐ実行に移します。シルバー卿」


 そう言うと、襲撃者のリーダーを筆頭に10数人がその場から立ち去った。


 残ったのは、シルバー卿と呼ばれていた銀髪の中年男性とあともう一人。



「もう出てきていいですよ。」


『シルバー卿』がそう言うと後ろの方から可憐な少女が現れた。その少女はある特徴を持っていた。右目が隻眼なのだ。だが普段は眼帯をつけているため見えることはない。眼帯をつけている少女は、某アニメの登場人物みたいに厨二病ちゅうにびょうに見えてしまう。


「なーんだ、気づいてたんだね。シルバー」


「お久しぶりですね。レッド・アイ。S.M.A.R.Tパリ支局の襲撃以来ですか」


 少女は何故か苦笑いしている。


「ねぇ。その喋り方やめてよ。あと変装も」


 少女がそう言うと、『シルバー卿』と呼ばれていた銀髪の中年男性は、顔に貼っていたナノマスクを剥がし出した。


「渾身の変装だったのに。」


 声も先程とは違い若くなった。


『シルバー卿』と呼ばれていた銀髪の中年男性がナノマスクを剥がすと銀髪の青年が現れた。


「やっぱ、いつも通りの方がいいよ」


「そう?『シルバー卿』って紳士ぽくない?」


「別にそうは思わないよ」


「あ、そう」


 少し残念そうな表情を若い『シルバー卿』はした。銀髪に碧く澄んだ目。しかも相当なイケメンだ。性格は……外見とは乖離しているように幼く感じる。


「それにしても、あいつら使えるの?」


「さぁ、どうだろう。今までの仕事ぶりからしてド素人ではないな。実際S.M.A.R.Tはまだ襲撃者を特定できてないみたいだし」


「様子見ってことね」


「そういや、君は日本に何しにきたの?」


「マスターの命令だよ。『魂』について情報を、だって。そもそも『魂』が情報媒体なはずだけど……」


 若い『シルバー卿』は苦笑いした。


「情報媒体の情報を、か……。結論、『魂』の中の情報を入手できればいいんだな」


「そうそう、だけど『魂』について何もわかってない」


「じゃあ、取り敢えず。さっきの彼らが高位の捜査官を連れてくるまで持つとしよう」


 そう若い『シルバー卿』が言うとレッド・アイと呼ばれていた少女も頷いた。




 ***




 S.M.A.R.T福岡支局捜査三課一係は、箱崎捜査官が襲撃された現場を訪れていた。



 現場では福岡支局の情報分析官たちが現場検証を行なっていた。


「箱崎捜査官の右手首に貫通した銃弾を調べてみたのですが、どうやら香港経由で日本に持ち込まれた銃弾だと分かりました」


 一人の女性分析官が基肄係長に言う。


「旧ソ連製ですか?」


「ええ」


「だいぶ襲撃者が絞り込めますね」


 箱崎捜査官が襲撃される以前は防犯カメラの映像も目撃者もなく、なんの手掛かりもなかったがここに来て襲撃者に関する手がかりを手に入れた。


 基肄は福岡支局にいる和多田姉妹に旧ソ連製の銃弾を所持しており、香港となんらかの関わりがある国内の組織を探すように要求した。


 数分後、和多田真夜(姉)から基肄に電話がかかってきた。


『基肄さん、該当組織を四つほど見つけました。そのうち九州を中心に活動している組織が一つ』


「筑頭会ですね」


『筑頭会』という名前を聞いた基肄の表情は暗かった。


『ええ、そうです。基肄さん。筑頭会って確か九頭会の下部組織では?』


「そうです。姉を殺した奴らが……」

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