シーズン1 

エピソード1 魂という名の情報媒体

001 襲撃



 国連。それは1945年に設立され、現在196か国が加盟している機関である。その麾下に世界の治安維持や情報収集・統制のために1946年に設立された組織がある。


 それはS.M.A.R.Tという。人員数20万人以上。予算不明(噂では一国家のGDPを上回る)。世界各国に支部を持つ巨大組織である。


 この物語はS.M.A.R.Tの捜査官たちの活躍を描く。



 ***



「こちら箱崎はこざき。何者かの襲撃を受けています。すぐ応援を……」



 福岡県福岡市にはS.M.A.R.Tの日本本部(JSA)の福岡支局、通称第二支局がある。その捜査三課一係所属の三等捜査官、箱崎はこざき衛矢えいやは何者かの襲撃を受けていた。


『了解。すぐ、応援を送る』


「武装を頼む。敵は少なくとも五人。全員武装している。本当に日本なのか疑うよ」


 通信の途中に銃声が鳴る。


 パンパン。一回ではなく複数回響き渡る。


 箱崎がいるのは福岡市の港湾施設付近の倉庫街である。ちなみに真夜中だ。


 箱崎、いやS.M.A.R.Tにとってさいわいだったのが、そこにたまたま民間人がいないことだ。


 パン。


 銃弾が箱崎の右手首を貫通した。


 拳銃を持って応戦していた箱崎は拳銃を落とした。


 右手首に激痛が走る。


「スナイパーか」


 橋の上に駐車してある車から箱崎は右手首を狙撃されたのだ。


「くそ、もう終わりだ」


 そう言うと箱崎は目を閉じた。



 ***



 数分後、応援のチームが到着した。


「箱崎さん」


 応援チームの一人、三等捜査官の立花たちばな風魔ふうまは血まみれで倒れている箱崎のところへ駆け寄った。そして呼吸があるか確かめる。


「まだ、息してます」


 箱崎は右手首に一発、腹部に一発、計二発の銃弾を受けていた。


 箱崎はすぐS.M.A.R.Tの車両で福岡支局へ運び込まれた。その後、福岡支局の手術室で緊急オペが行われた。



 緊急オペの手術室は二階で手術の様子を見ることができる設計になっていた。立花は箱崎の手術の様子を二階で見守っていた。



「箱崎さん……」


「ここにいたのか」


 二階の見学室にやってきたのは、捜査三課一係長の基肄きい隼人はやと二等捜査官である。


「支局長と課長がお呼びだぞ。今回の件について話があるらしい」


「分かりました。すぐ行きます」


 そう言うと立花は席を立ちこう呟いた。


「箱崎さん。死なないでくださいよ」




 ***



 S.M.A.R.Tの日本本部(JSA)の福岡支局は、福岡市の繁華街天神の中心部にある。S.M.A.R.T日本本部(JSA)管轄の支局は福岡以外にも、北から札幌、仙台、大阪に設置されている。その中でも福岡支局は、東京にある日本本部、大阪支局に次ぐ規模だった。


 S.M.A.R.T福岡支局は、『イロハ・グループ』が所有しているビルの地下にある。地下1〜5階までが全て福岡支局である。S.M.A.R.Tはどこの国でもそうだが現地の治安機関(警察など)と連携することが多い。そのため、支局は、警察本部の近くにある。しかし、福岡の場合は、天神にあった福岡県庁と福岡県警本部が馬出まいだしに移動したため福岡支局と福岡県警本部との距離は近くない。



 立花は、福岡支局のミーティングルームに入った。


「遅いぞ。立花」


 すでに、他の皆はミーティングルームに到着していた。


 ミーティングルームにいるのは、

 福岡支局長であるエリーナ・ヒル・カシイ(香椎)上等捜査官。


 刑事部捜査三課長の千々和ちぢわ用兵ようへい一等捜査官。


 捜査三課一係長の基肄きい隼人はやと二等捜査官。


 捜査三課一係所属の浜崎はまさき千代ちよ二等捜査官。


 福岡支局所属の情報分析官兼技術官の和多田わただ真夜まや


 技術官とは、エンジニアや医者などの特定の技術を持つものを指す。和多田真夜の他に彼女と同じ肩書を持つ者がいる。和多田わただ朝華あさか。真夜の双子の妹であり医者である。現在、箱崎の緊急オペを執刀している。姉の真夜はエンジニア、妹の朝華は医官で役割分担しているのである。


 ミーティングルームにいるのは、立花含めこの六人である。



「これ合計、八件だぞ。福岡支局の捜査官が襲撃されるのは。」


 話を切り出したのはカシイ支局長だ。


「しかも、今までのと違って、敵は武装していました」


 浜崎捜査官が今までの経緯を説明する。


「そもそも福岡支局所属の捜査官がここ数週間で初めて襲撃されたのは四月二日。襲撃されたのは、二係の青山三等捜査官です。場所は、福岡市西区の自宅周辺です。最初我々は、青山捜査官を襲撃したのがただの暴漢だと思っていました。しかし、犯人を捜索しようとしても防犯カメラには写っておらず、何の証拠もない。当初から警察に任せっぱなしでしたが、二人目の犠牲者が出てしまいました。犠牲者は福岡支局の一般職員、樋口ひぐちさん。犯人にスタンガンで気絶させられました。襲撃者は、樋口さんのカバンをあさったあと何も盗まず逃走しました。しかし、犯人はいまだに見つかってません。その後、箱崎さんを含め六人が襲撃されました。共通点は箱崎さんの件以外、カバンを漁った後があると言うことです。」


「しかも犯人は一人も捕まっていないんですよね」


 立花が付け加える。


「ええ、そうよ。そもそも今までの八件が全て関連しているか分かりません」


「確かに」


 完全に行き詰まっていた。そもそも襲撃者のことが何も判明してないのだ。


「あと付け加えると、被害者から調書を取ったところ、皆口をそろえて襲撃者は素人だったって言ってるんです」


「じゃあ、箱崎の件とは別では?」


「立花、箱崎の襲撃者がはじめは素人を使っていたって言う可能性もあるぞ」


 一係長の基肄が立花に助言する。


「あっ、そういう可能性もありますね」


「逆にこう立て続けにS.M.A.R.Tの捜査官が素人に襲われるっていうのは前例がないぞ。別件だと片付けるのは早速すぎるな」



「基肄の言うとおりだ。私も全くの無関係とは思えん」


「ですよね〜。課長」


 図に乗るなと言っているような目線で千々和は基肄を睨みつけた。


 ブルブル、ブルブル。基肄のスマホから着信音が鳴る。


「おっと電話だ。」


 そう言うと基肄は通話ボタンを押した。


「は〜い、基肄です」


『係長、箱崎捜査官の手術が終わりました……』


 基肄は息をむ。


『………成功です』


 はぁ〜〜〜〜。


 基肄は胸を撫で下ろした。


「報告ありがとう。朝ちゃん。みんなに報告するね」


『了解です。これから箱崎捜査官は医務室で術後の経過観察を行います』


『わかった。よろしく〜。そういや、今度飯……』


 ピーピーピー。通話の終了音が基肄の耳元で鳴る。和多田朝華が電話を切ったのだ。


「つれないなぁ〜」


「その様子だと手術は成功したようだな」


 千々和課長が基肄に聞く。


「ええ、これから経過観察だそうです」


「基肄係長、妹に何言ってるんですか」


「別に、飯誘っただけだけど。ダメなの?」


「いや、そういう訳では……」


 姉の和多田真夜が困惑する。


「じゃあ、真夜ちゃんでいいや。今度、ご飯に……」


 パチーン。部屋に基肄の頬の音が響き渡る。


「基肄最低だな」

「今のは基肄が悪い」

「係長サイテェー」


 クスクス、クスクス


 ミーティングルームに小さな笑い声が響き渡る。

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