第56話突然に。

はガールズトークに花を咲かせ、男子である俺は明らかに置いてけぼりになってしまっていた。

むしろなんでこんなに話が盛り上がるのだろうかと思ってしまうほど、会話のテンポは早く、まるで関西の人の話を聞いているような気分になってしまった。

時々「キャー!」といった沸き上がるような高い声が上がるが、話についていけてない俺は苦笑いしか出来なくて、段々と空っぽになっていく頭は自然と俺を夢の世界へといざなっていった。




かすかに聞こえる浴衣の衣擦れの音に気がついて、俺は目を覚ました。

いつの間にかガールズトークは終わっていて、俺含めみんなで川の字で寝てしまっていた。

みんなで昼寝なんて堕落しているなぁと思ったが、警戒心というものがないのだろうか。

俺が寝ているからと言って軽々と隣で寝ないで欲しい。

間違って抱きついたりでもしてしまったらどうするんだ。

俺は眠気を取るために立ち上がって一瞬で周りを見ると一人だけ明らかに足を向けている方向がおかしい七海先輩がいた。

もともとは俺たちと同じ向きで寝ていたのだろうが、寝相のせいで90度ほど回転してしまったんだろう。

そしてそれだけ動いたらダボダボな浴衣は段々とはだけてしまうのは当たり前で今にも下着が見えてしまいそうなほど七海先輩の白い脚が露になっていた。


アットホームすぎると言うか······。


呆れからため息を吐きながら安息の地を求めて、テラスへ向かった。

畳の部屋とテラスの部屋の境にある障子を開くとベランダに桜庭先輩がぼーっと立っていた。

何か考えているのだろうか。邪魔しちゃいけない気がする。でも畳ではみんなが寝ているから逃げ場が完全にない。

仕方ないか······。

腹をくくる······という程ではないが、ある程度覚悟を決めてベランダの窓を開けた。


「あ、凪くん。起きたんだね。おはよ」

「おはようございます。ここ、いい景色ですね」


なんでもない普通の会話。

話題選びのセンスはかなり酷いと自分でも感じるほどだが······。


「そうだね〜なんか落ち着くよ」


桜庭先輩の横顔は驚くほど綺麗で精緻で、作り物かと思ってしまうほど儚げだった。


「私は戻るね。携帯でも触って時間潰してるよ」


そう告げて先輩はベランダを去っていった。

気を使わせてしまっただろうか。少し申し訳ないことしちゃった気分になった。

すぐに戻るのも変なので景色を見て時間を潰すことにする。


遠くから見ると藍色に近い色をした海は、見ていても意外と飽きないものだった。

ほのかに香る潮は深呼吸をするとむせてしまうほどに感じられる。


1年のうちに一回あるかないかのイベントなのにこんなに気ままに過ごしていいものなのだろうか。そう思ってしまうほど自分たちがしたいような過ごし方をしている気がする。

でもそれはそれでいいのだろう。

みんなで海に来た。ということよりも今はみんなで旅行に来たということが重要だからだ。

変わらないじゃないかと思うかもしれないが、俺はかなり違うように感じる。

具体的な何かがあるわけじゃない。でもこの旅行でしっかりとした思い出を一つ。残せればいいなと思う。だからこの後もしっかり楽しんで思い出を作って行ければな。とそう思って俺もベランダを後にした。



「あーっ!凪くんはいた!」


部屋に戻ると開口一番に七海先輩が俺を指さして声を上げた。

それにしても「は」ってなんだ?他に誰かいなくなったのか?


「どうかしたんですか?他に誰かいなくなったんですか?」


そう尋ねると唯花先輩は重々しい表情で答えた。


「そうなんだよね。紗耶香がいなくなっちゃったんだ」

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