第55話露天風呂

午前中に遊び疲れて、お昼にはホテルに戻ってきてお昼ご飯を食べることになった。

リゾート地に来て数時間程度しか海で遊ばないことはどうかとは思うが、海というのはついはしゃいでしまって、いつもの数倍疲れてしまうのだ。

そしてホテルに戻って身体に付いたベトベトとした感覚を取るために露天風呂に入る事になった。

女風呂の前で別れて、俺は青の暖簾のれんをくぐって少しだけ木の匂いの香る更衣室に入った。

服を脱いでお風呂に入ると、ガラス窓一枚はさんでだだっ広い海の風景が広がっていた。

まさに絶景。

水平線までハッキリと見える。

来れて良かったと思った。

いつかまたみんなで来れたらな。

なんてまだ終わってさえいないのに考えてしまった。


「おーい凪くーん聞こえる〜!!」


!?


「ちょっと絢!大声出さないで!変な人達だと思われるでしょ!」


これは小鳥先輩の声だな。

ここは何も言わない方がいいだろう。

なんか面倒くさいことに巻き込まれそうだし。

俺は無言を貫き、露天風呂に浸かりながらぼうっと海を見ていた。

すると黄色い声と形容するのが一番正しいような声が聞こえてきた。


「凜香先輩も唯花先輩も大きすぎませんか!?――って水に浮くんですか?気になってたんですよ!」


水に浮く……?


まあ、男子高校生が浅はかな想像力で考えてしまうものなんて一つだろう。

まあ、あえては言わないが……。

そして一体向こう側ではどんな光景が広がっているのだろうか。

きっとこの水平線の映える、ここよりも綺麗な光景があるのではないか。

そこで俺は想像することをやめた。

このあと普通に顔向けできる気がしなかったから。

だから俺は耳から意識を遠ざけるように海を眺めた。


「唯花先輩、柔らかっ!!ほらほら絢先輩も触ってみてください!!」

「きゃっ!もう由都〜やめてよ〜」


······。


そろそろ中に入るか······。

これ以上は聞いてはいけない気がして、俺は室内浴槽の方へ戻った。

室内は石で埋められた、趣を感じる造りとなっていて、普段の無機質な白で染まった浴室とは比べ物にならないほど心がワクワクとした。

するとだんだんと視界が歪んでくる。

あやふやになった頭でのぼせたことを自覚すると、すぐに風呂から上がり更衣室へ戻った。

軽く洗面台で顔をゆすいで、鏡を見ると、のぼせて赤くなってしまっている俺が写った。


「そんなに長い時間入ってたつもりはないんだけどなぁ······」


そんな呟きも扇風機の音にかき消されて、変わりと言わんばかりに涼しい風が俺に当たる。のぼせていた体にはそれがとてつもなく気持ちよく感じられて、段々と意識が明瞭になってきた。

俺はフロントで受け取っていた浴衣を着て、クーラーのよく効いたフロントで休むことにする。碧斗さんを起こしてしまうのも悪いし。

フロントのふかふかのソファーは段々と俺の眠気をいざない、いつの間にかうとうととしてしまっていた。

フロントで寝てしまうなんて迷惑極まりないので俺は一旦立ち上がって身体を起こすように思いっきり伸びをした。

縮こまっていた身体が伸びるような感覚に思わず欠伸あくびが出てしまう。

そして、ふと時計を見ると先程よりも長身が90度くらい進んでいたので、部屋に戻ろうとして、フロントを後にした。


俺と碧斗さんの部屋に脱いだものを置いて、先輩たちの部屋に向かうとテンションの高そうな声が部屋の外に漏れていた。

俺は三回程ノックをして扉を開けた。


「失礼します〜」

「あ、凪くんお風呂長くない?」

「のぼせちゃったのでフロントで休んでたんですよ」


風呂から出たみんなはフロントで受け取った浴衣を身にまとっていた。それが良く似た柄だったのでペアルックのようにも見えて、華やかな雰囲気が流れていた。

話している内容に華やかさは微塵もなかったけれど······。


「凪くんもガールズトークに参加する?」

「じゃあお邪魔します······」


さて俺はガールズトークについて行けるだろうか?

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