第54話プライドが……

海である程度遊び終えると今度は砂浜に出て、併設されたビーチバレーのコートで遊ぼうということになった。

ボールに空気を入れるのは雑用係一年生の役割になり、俺と由都が駆り出されることとなった。


「俺が入れるから由都は休んでいていいよ」

「ううん!私もやるよ!」


由都は深呼吸をしてから一気にビーチボールの空気を吹き込んだ。

だんだんと赤くなっていく彼女の顔を見て、つい笑ってしまった。


「もう!どうして笑うの!」

「あんまりに一生懸命なのが面白くて」

「凪がやって!!」


そっぽを向きながらぶっきらぼうに渡されたビーチボールを受け取って、俺は空気穴に口をつけて息を吹き込んだ。


「……あっ」


突然由都が何かに気が付いたように声を上げた。


「どうかした?」

「ううん……何でもないよ!」


心なしか由都の顔が赤く染まっているように見えるが、先ほど空気を入れる時に酸欠気味になってしまったんだろう。


「ね、ねぇ、凪。凪って鈍感とかって言われたりしない?」

「あんまり言われたことはないかな」


すると由都は呆れたように肩を落としたかと思うと、俺からビーチボールを取り返して、空気をまた吹き込み始めた。

それっ······間接キス······。

由都が紅くなってたのはそういうことだったか。

これは正直恥ずかしい。

すると空気が入れ終わったのか、由都は勢いよく立ち上がり「行こ!」と俺の手を引いて、走りずらい砂浜の上を駆け始めた。


チームは小鳥先輩と由都。

桜庭先輩と俺。

唯花先輩と七海先輩だ。

バレー経験はあんまりないからなんともいえないが、男のプライド的に負けるつもりもない。

最初は小鳥先輩のチームと俺たちだ。

ジャンケンでサーブを手に入れ、俺が軽くボールを叩いて相手のコートに入れると、ボールは呆気なく、相手チームの二人の間に落ちた。


「ごめんなさい!凜香先輩!」

「いやいや、私も取りに行けた……ごめん」

「じゃあ次はとりましょう!」

「うん!」


そして、今度は小鳥先輩に向けて、緩やかな山なりなボールを打つ。

小鳥先輩はレシーブの構えをして、そのままボールにあてると、ボールは高く上がり、由都がボールの落下点に入って小鳥先輩にトスを上げる。

そして、小鳥先輩はジャンプして、手を振ると、その手は空を切りボールは綺麗な放物線を描いたまま小鳥先輩の頭に直撃した。

普段よりも運動しずらい環境が故、ボールに届かなかったんだろう。

すごいジャンプしずらいしね。

それから俺のサーブが自分のコートに返ってくることはなく、桜庭先輩がボールに触ることのないまま、試合が終わってしまった。


「呆気なかったですね」

「そうだね、私もボール触ってないし」


そして俺たちはほかの二チームの試合を外から見る順番だ。

由都のチームもだんだんと慣れてきたのか、ボールが相手のコートに返るようになってきていた。

こんな女子に混ざって試合を見てられるなんて役得だ。

隣を通り過ぎていく人たちは必ずと言っていいほど彼女たちに目を向けていく。

これだけの美少女たちがそろっていれば、俺だって目を向けてしまう自信がある。

そしてコートの中では試合がなかなかに白熱していて、何回かラリーが続いていた。

唯花先輩がレシーブをして七海先輩が返すと、唯花先輩は思いっきりジャンプして、ボールを相手コートに叩き込んだ。

そして着地した瞬間に、胸がぽよんという音が付いてきそうなほど跳ねた。

眼福……いや、目に毒か?

眼福だとしてももう一枚羽織ってほしい、高校生男子がここに一人いるんだよ?

それが本当に分かっていてその格好をしているのだろうか。

襲われても文句言わないでね?襲わないけど。

せめて人の目があるところでは隠してほしい。

次の試合では唯花先輩にばかり目が行って負けてしまった。


男のプライドが……。

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