第52話騒がしいみんな

今日自分たちが止まる部屋に入ると、そこには小さな玄関に迎えられ、そして畳の敷かれた、テーブルと座布団にテラスという如何にも旅館といった感じの雰囲気だ。


「なんか落ち着けそうだね」


碧斗さんは荷物を綺麗にまとめて、ゆっくりと座布団に座った。

運転の疲れもあるのだろう。少し瞼が重そうにしていて、うとうととしている。

今はそっとしていておくのが最優先だろう。

すると玄関と部屋をつなぐ戸口がいきなり開いて、唯花先輩がちょこんと顔をのぞかせた。


「凪くん、この後海行くでしょ?十分後くらいにみんなで行こ!」

「いいですよ、着替えて待ってますね」


そして、俺は静かに寝息を立てている碧斗さんを尻目に着替えて、荷物をまとめ部屋を出た。

そして部屋を出て、待つこと数分。

五人はぞろぞろと部屋から出てきた。


「おまたせ~それじゃあいこっか!」


そして旅館から出て海に向かった。


「わぁ……!」


小鳥先輩がそんな感嘆の声を漏らした。

そこには真っ白な砂浜に透明感のある真っ青な海が広がっていた。


「……すごいですね」


俺も思わずそんな声を漏らしてしまう。

周りのみんなも唖然としていて、その光景に瞳を奪われていた。


「うみだぁぁっっ!!」


そう叫びながら、砂浜にずけずけと入っていくのは七海先輩だ。


「ちょっと……七海先輩、空気読めなさすぎですよ……」


すると七海先輩は何のことだかわからないように首をかしげた。

そのあっけらかんとした表情にみんなで目を見合わせて笑う。


「絢のKY!」「あんぽんたん!」


そんなことをいいながらみんな砂をまき散らして七海先輩について行っていた。

そんな様子を桜庭先輩は後ろから眺めていた。


「桜庭先輩も行きましょ!!」

「あ、うん!そうだね!」


そして俺と桜庭先輩もほかの四人の後を追った。

夏本場にもかかわらずあまり人の数は多くなく、ビーチがとても広く感じた。


「先輩たちは先に海入ってて大丈夫ですよ?」

「私たちも場所取り手伝うよ」

「ありがとうございます」


適当な場所を見つけると、どこにそんなパラソルが入っていたのかという大きさのパラソルが出てきて、それが俺の手なんか必要ないというようにあっという間に立ってしまった。


「唯花先輩……手慣れすぎじゃないですか?これじゃ俺がいた意味が全くなかったように感じたんですけど」

「……まあ、かなりの回数立ててるからね!いろいろ私に任せてよ!」


唯花先輩は肘をまげて腕に力こぶを作ろうとするが、その細い腕に膨らみは一切できなくて、普段は拝むことのできない白い腕が露になっていた。

決して腕フェチというわけではない。本当に。

ブルーシートも引いて砂の熱さから逃れることがやっとできたかと思うと、てっきりもう海に入っているものだと思っていた唯花先輩以外の四人もやってきて、おもむろに上の服脱ぎ始めた。

水着を下に着ていると知ってはいるが、さすがに同年代の女の子が目の前で着替えられるとさすがに恥ずかしくなってくる。


「ねーねー凪くんこの水着どうかな?」


一番最初に聞いてきたのは、七海先輩だ。

七海先輩が身に纏っているのはパステルカラーの花で彩られた水色のワンピース型の下着だ。

それは露出が多いわけでもないので落ち着いた雰囲気が七海先輩のとても似合っている。

でも俺はこのほかのメンバーの目がある中でそんな気が利いたコメントができるはずもなく、ただ「似合ってますよ……」としか言うことができなかった。

小鳥先輩はこの前一緒に言ったプールで来ていたセパレート型の水着を着ていた。


「凜香先輩……そんな刺激的な水着を……」


由都がそう呟くと小鳥先輩の耳にも聞こえてしまったようで、真っ赤になってラッシュガードをすぐに羽織ってしまった。


「凜香先輩、ちょっとそれ触らしてくれませんか……?」

「由都!?ちょっ!目が怖いよ!?待って!こっちこないでぇぇぇ!!!」


小鳥先輩と由都は砂浜に向かって駆け出して行ってしまい、転んでしまった凜香先輩が由都に捕まっていた。

そんな様子を見ていると横からちょんちょんとつつかれてそっちを向くと、唯花先輩がブルーシートに膝をついて四つん這いのような格好で俺のことを呼んできていた。


「その……どうかな……?」


唯花先輩は恥ずかしそうに髪を耳にかけて、聞いてくる。

ただ唯花先輩のは重力の影響を直に受けていた。

小鳥先輩のものと遜色がないほど大きいそれは俺の思考を徐々に停止させていき、やがて俺の精神を完全に蝕んでしまうところだったが、なんとか先輩が姿勢を直してくれて踏みとどまることができた。


「き、きれいです……とっても」

「そうかな、ありがと」


唯花先輩はえへへと笑みを浮かべて、自分の体を隠すように体育座りをする。

その姿を見た俺は照れて暑くなっていた体を冷ますために飲んでいた水をのどに詰まらせてむせてしまった。


女子高生の生足……侮れない……。


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