第51話到着とパシられる凪
「ん~やっと着いたぁ~」
長時間車に閉じ込められていた俺たちの体は、窮屈さを身に覚えていて車の外に出ることで、一気に開放感が与えられる。
体を思いっきり伸ばして深呼吸すると若干の潮の香りを含む風が俺の鼻腔を通り抜ける。
今にも海に飛び込んでいきたい気持ちがあるが、まずはホテルへのチェックインが先だ。
碧斗さんには先に海に行っててもいいと言われていたのだが荷物もたくさんあるし、気を遣わせるのも申し訳ないので、先に荷物を置いてから行こうということになった。
エントランスには柔らかそうなソファーに、コーヒーメーカーや電気ケトルが置かれていて、自由に
そこに碧斗さん以外の俺たち六人はドカッと座り、自分の家とは違う匂いや景観にひかれていた。
それにしてもクーラー涼しいな。
外は35度近くの気温があり、まるでサウナの中にいるような気分だった。
それも室内に入ってしまえば一変してクーラーでよく冷えた空間が俺たちを出迎えてくれる。
控えめに言って最高。という感じだ。
「すずしーね!凜!」
「暑苦しいからくっつかないでよ絢……」
小鳥先輩に七海先輩がくっついて暑がられている。なんか非日常の中にも普段みたいな光景が混じっているのはいいなぁ……。
桜庭先輩と唯花先輩は何について話しているのかはわからないが、楽しそうに話しているのは伺える。
そして、一人だけ席を外していた、由都が戻ってきて、俺の隣に腰掛けた。
「部屋どんな感じになってるのかな?」
「旅館だから畳じゃないかなぁ。どのくらいの広さなのかはあまり想像つかないけど」
「そっか!まあすぐにわかることだし、わくわくして待ってるよ!」
本当に楽しそうな笑みを浮かべる由都を見て、俺もつい頬を緩めてしまう。
「みんな、部屋に行くよ」
そしてチェックインが終わったのか碧斗さんが俺たちを呼ぶ。
その声に呼応して、みんな立ち上がって碧斗さんの後について行った。
階段を一段また一段と登って四階まで登る。
重い荷物を持ちながらだと少々きつかったが、俺よりもほかの五人の方がよっぽど辛そうだった。
明らかに俺や碧斗さんよりも荷物が大きく、一泊でそんなに必要か?という量を持ってきていたからだ。
一体あの中には何が入っているのだろうか。そんなに必要なものたくさんあったかなぁ……?
俺が不思議に思いながら皆を待っていると、やっと四階まで上がってきた。
みんな、額には若干の汗を浮かべていて、息も少し荒くなっていた。
そんなに持ってこなければよかったのにとは間違っても言ってはいけない気がした。
「九重くん。なんか私たちを憐れむような目をしてない……?」
「し、してないです」
桜庭先輩は鋭い眼差しを俺に向けて、じぃっと俺のことを見てくる。
「な、なんですか?」
「男らしく私の荷物を持ってよ……」
もう部屋すぐそこなんだけど?
だけど桜庭先輩は有無を言わさないような表情で俺から視線を外さない。
「分かりましたよ……」
そうして俺が先輩の荷物を奪うように取ると、先輩は子供のように「やった!」と喜んでいて、この笑顔のためならいいか。と思ってしまう俺だった。
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