第49話やっぱり眠い……

朝日の上っている東側に足を進めながら、肩に重くのしかかるバッグを恨めしくにらみつつもだんだんと駅の一部が見え始めてきて、安堵の息を吐く。

運動部の生徒でない俺にとっては家からこの大荷物を持ってくるのも一苦労だ。

少しだけ背中が汗ばんでいるような気もするし、気分がいいとは決して言えない.

そして集合場所に着いたはいいものの俺のそばを通り過ぎていくのは、スーツを身に纏った、社会人ばかりだ。

大まかに駅に集合としか決めていなかったので集合するのにも一苦労しそうだ。

とりあえずほかの面々は目立つはずなので、俺は周りを見渡して、それっぽい視線が集まっていそうなところを探すが、特にそれらしい場所は見当たらない。

まだついていない可能性も考えられるので、とりあえず俺は茫然と駅の柱のそばに立ち尽くしていた。


「凪くん?」


ぼーっとしていたところにちょうど後ろから声がかかって、身の毛がよだつような感覚を感じる。

ゆっくりと後ろを向くと、そこには片側だけ三つ編みにした七海先輩がそこにはいた。


「おはようございます、七海先輩。朝から驚かさないでください」

「ごめんごめん。凪くんはずいぶんと眠そうだね?」


えへへとにこやかな笑みを浮かべながら話す小鳥先輩は、その風鈴のようなきれいな声と相まって俺に癒しというものを与えてくれている気がする。


「先輩……眠くなるんで話さないでください」

「……え?ちょっとそれはひどいよ!凪くん!」

「だって……先輩の声って綺麗で……聞いてるとなんだか眠くなってきちゃうんです」


俺の声はあまりの眠気からか途切れ途切れで七海先輩にちゃんと伝わっているかさえ怪しい。


「きっ!きれいって!その……ありがと」

「ん?はい?どういたしまして」


眠くて完全に頭が回っていない。そのせいか、普段はばっちりかかっている理性も、完全にはじけ飛んでしまっていて、いろいろコントロールができていない状況だ。

眠い……。

俺の頭の中を支配しているのはこの感情だ。

五時から目を擦ってなんとか起きていたが、その代償がここで完全にきてしまっている。

すると、七海先輩とは違った声音の持ち主が現れた。


「絢~凪くん!おはよ~」

「唯花先輩……おはようございます……」「唯花!おはよ!!楽しみだね!」


俺と二人の先輩のテンションが些か離れすぎではないだろうか。


「もう他の三人は車で待っているからいこっか?」


ということで唯花先輩に案内されて、車まで案内される。

そしてかなり大きめの車が出迎えてくれた。

八人乗りの車で、荷物を入れても少しは余裕がありそうだ。

トランクに積もっている荷物を見て、少し違和感を覚えた。


みんな荷物大きくない?


まあ、女の子だしいろいろ必要なものがあるのだろう。

そして後ろから車の中を見ると、由都が後ろを向いて手を振っていた。

手を振るのは少し恥ずかしいので、笑顔を見せて「おはよう」と言った。

すると由都も笑顔を浮かべて「おはよう」と返してくれる。

何気ないこのやり取りに幸福感を感じつつも、他人の車という自分の家のものとは違う匂いに新鮮さを覚える。

そして俺と七海先輩は車に乗り込んで、運転席に座るに挨拶をする。


「九重凪です。今日と明日。よろしくお願いします」

「立花碧斗あおとです。いつも妹がお世話になってます」


碧斗さんは鼻や目に唯花先輩と似るものがあり、美形と言える容姿をしていた。

男の俺でもかっこいいなぁと思ってしまうほどだ。

年下の俺にも丁寧にあいさつを返してくれて、かなり好印象である。

モテる人とはこういう人のことを言うんだろう。

そして程なくして、俺たちは目的地に向けて、走り始めた。

俺はというと心地よい揺れに眠気が誘発されて、みんなが仲良く話している中一人で眠りについてしまっていた。







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