第47話雨降る夏に(+後日談)

短めです。

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一日中小鳥先輩に振り回された······。

精神的にも身体的にも疲労はマックスを迎えていた。

ずっと一緒にいたからか先輩がナンパなんてことをされることもなく、限りある時間を思うがまま活用できていたと思う。


「そろそろ帰りましょうか。これ以上になると、帰るのかなり遅くなっちゃいそうですし」

「そうだね……帰るのも惜しいくらい楽しかったけど、わがままは言えないし」

「そういってくれると嬉しいですよ。また来ましょうね?」

「うん!来年は受験生だから三年生になる前に!」

「はい!」


まだどこに行くかさえも決まっていないのに、わくわくとした感情が沸き上がってきてしまう。

ただそんな感情とは裏腹に水気を帯びている水着は俺たちからだんだんと体温を奪っていって、夏だというのに少し寒さを感じるほどになっていた。


「だんだんと寒くなってきたんで着替えに行きましょうか」


まだ心は子供っぽいなと思わせられて、乾いた笑みを浮かべる。

小鳥先輩もそれを感じ取ったかのように笑って、更衣室に入っていった。


更衣室に入って、はっきりとは見えない鏡の向こうが少し暗くなってるのを感じた。

一雨降りそうだなと思いつつ、持ってきていた荷物の中に折り畳み傘があってよかったなと心底思う。

先輩はどうなのかはわからないが……。

とりあえず着替えて外で待っていると、案の定雨がパラパラと降り始めてきた。


「おまたせ~。あ、雨降り始めてきちゃったね」

「そうですね、先輩は傘持ってますか?」


すると先輩はえへへと笑う。

持ってないのか……。

俺はかばんの中に入っていた傘を先輩に渡す。


「先輩……どうぞ、使ってください」

「ありがと……凪のは?」


そこで俺のがあるのかなんて聞くのは男泣かせだろう。せっかくかっこつけたってのに。


「……ないですけど」

「じゃあ、これは凪が使って」

「先輩が使ってくださいよ!風邪でも引かれたらいやなので」

「私だって、これを借りて凪が風邪を引いたなんてことになったらいやだよ」


そこで俺は先輩と顔を見合わせて数秒間固まる。


「一緒につかおっか」「一緒に使いましょう」


不意にそこで意見があって、笑いがこぼれてしまった。

俺は無言で先輩から傘を受け取ってそのまま開いて、小さめの傘に肩をすぼめて、肌を寄せあった。


◇◆◇

(後日談)


プールのお二日経った今日。先輩が傘を返したいということで俺たちはまた会うことになっていた。

俺は集合時間の約十五分前には約束をした場所について先輩が来るのを待っていた。

そしてその五分後集合場所に現れたのは二日前の先輩とは見違える姿をした小鳥先輩だった。


「先輩……これはまたバッサリと切りましたね……」


先輩は長かった髪を肩くらいまで切っていた。

先輩はもみあげを指でくるくるしながら、顔を赤らめて恥ずかしげに「に、似合ってる……かな?」と聞いてきた。

もちろん似合っているので当然のように「似合ってますよ」と答えると先輩は、乱雑に傘を渡してきた。


「ありがと……。ばか」


優しい口調で、放たれたその言葉は鈴を転がしたような凛としたもので、俺の心にスーッとしみこんでいくようだった。



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あとがき失礼します!

これで小鳥先輩パートを終了し、次回のパートで夏休み編を終えるつもりです!

ここで一つお知らせなのですが、約二週間後からテストが始まってしまいますので、更新ペースが落ちるかと思われます。

一週間前まではぼちぼち投稿するとは思いますが、そこからは勉強にあてたいので、休むことをどうかお許しください。


あとはこの作品がついに1000フォローを超えました!!

読者様に面白い物語を届けるため日々精進していきます!!

良ければお星様などをつけて評価していただけると、作者のモチベにもつながりますのでよろしくお願いします!

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