第42話似た者同士

「どうですか?小鳥先輩。終わりました?」


 昨日の通話では、俺が宿題を完全に終わらせ、残るは小鳥先輩だけとなる状況になった。

小鳥先輩も早く宿題を終わらせたいらしく、通話が終わった後も続けていたらしいので、もう九割は終わっているらしい。


『終わったぁ!!』


そんな飛び跳ねたような声音に俺は驚いて、耳からスマホを離す。


『宿題なんてもうやってられるかぁ!!』


その後、紙束のような物が落ちるような音がする。


「先輩?部屋の床は綺麗にしましょうね?あと、忘れ物があったら悪いのは自分ですからね?」

『凪、今は辞めて、何も言わないで。やった私が一番後悔してる』


小鳥先輩のマジっぽいトーンに、嘆息して呆れからか笑みをこぼす。


「じゃあ、待ちに待った予定立てますか?」

『うん!!でさ、勉強してない時に考えてみたんだけど、暑いうちにプール行かない?』


プール……。暑い夏の場所選びとしてはこれ以上ない場所だ。

だが、一つ問題がある。それは相手が異性である小鳥先輩であるということだ。

それに、その、小鳥先輩は大きな果実を二つ抱えているし、さぞ注目を集めることとなるだろう。

そのあとのことを考えると、俺はいかない選択をした方がいい気がして、少しだけ返答を渋る。


「う~ん、ほかにはどこ行きたいとかあるんですか?」

『行くとしたら遊園地とかかな?しばらく行ってないから行きたくなっちゃって』


遊園地、別に絶叫系は嫌いではないし、むしろ楽しめる方だ。

でも、女に飢えた男どもがたくさんいそうだし……あれ?

どこ行っても小鳥先輩って目立っちゃうからプールでよくないか?

あの桃髪だし、目立つのは仕方のないことだろう。なら俺は小鳥先輩の水着姿が見たい!プールって提案してきたのは小鳥先輩だし、小鳥先輩の期待に沿うよう感じで「じゃあ、プールに行きましょう!」と自分の気持ちをひた隠しにしながらプールに行くことが決めた。

その後も順調に予定を決めていくと、だんだん小鳥先輩の声もだんだんと高く抑揚のあるものへと変わっていく。


「じゃあ、楽しみにしてますね。床片付けるんですよ?」

『う……うん。分かった』


最後だけわかりやすく声のトーンが落ちる先輩それでさえなんだかかわいく思えてきてしまって、苦笑を漏らす。それは小鳥先輩にも聞こえていたようで「凪、笑わないで」とお灸をすえられてしまった。


「それじゃあ、おやすみなさい」

『うん。おやすみ』


通話を切ると、思わず楽しみという感情が沸き上がってきてしまって、寝られる気がしなくなってきた。

気が付くと小鳥先輩のことを考えてしまっていて、まるで何かの魔法にかかってしまったかのようだ。

こういうときはやっぱり本を読むに限る。

きっと眠くなるはずだ。

そう思って俺は読んでいる途中の本を手に取って、活字に目を向けた。



――読破。

一向に俺が眠くなることはなかった。

時間は夜中の一時。家族も完全に寝静まっていて、騒音も何もないからか、あまりに本に集中してしまい眠気が一向に襲ってこなかった。

すると、携帯が突然鳴った。少しだけ体をびくっと震わせてから迷惑メールかと思って携帯に手を伸ばすと、小鳥先輩から、メッセージが飛んできていた。


『なんか寝れなくなってきちゃった。凪はもう寝ちゃったかな?』


先輩も楽しみにしてるんだなと思うとつい頬が緩んでしまう。


『起きてますよ。本を読んで寝ようかなと思ったんですが思ったより眠気が来なくて……』

『私たち、なんか遠足前の小学生みたいだね』


本当にその通りだ。


『そうですね。似た者同士なのかもしれませんね』


そう思うと自分が少しだけ恥ずかしく思えてきてしまう。


『その……寝落ち通話みたいなのしてみない?』


寝落ち通話……。俺にそんな経験ができる日が来るなんて……。

またもや年甲斐もなく心が高鳴ってしまった。


『いいですよ。しましょうか』


するとすぐに通話がかかってきて、俺はワンコールもしないうちに通話をつないだ。


『家族が起きちゃうからあんまり大きな声でしゃべれないんだけど聞こえてるかな?』

「あ、はい。聞こえてますよ」


いわゆるささやきみたいな感じの声だが。正直俺の心臓はバクバクだ。

こんなの寝れるはずがない。普段よりもとろんとした声で、甘い声というか甘えたくなる声をしている。

俺はこのままモヤっとした感情のまま、この夜を越さなきゃならないのだろうか。

そんなことを考えながら雑談を重ねていると時間は三時を過ぎていた。

でも、だんだんと眠気が増してきて、口数も少なくなってきていた。

きっと寝れないんだろうなと思っていたが意外と眠りにつくのは一瞬で気づいた時には俺は意識を手放していた。



ふと目を覚ますと時間は六時くらいになっていた。普段はつけないイヤフォンが少し邪魔で起きてしまった。なんでイヤホンなんてしながら寝ていたのかと思って、携帯を覗くと未だに通話中になっていた。

俺と先輩が寝たタイミングがほとんど同じだったのだろう。

やっぱり俺たちは似た者同士なのかもしれない。

 

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