第41話一緒に宿題を

今日は終業式がある。

つまり、今日の学校を終えれば、高校生になって初の夏休みを迎えるのだ。

まだ、学校についてもいないのに、高鳴る気持ちが抑えられない。

夏休み中は生徒会のみんなで遊んだりもするのだろうか。

そうなった時に宿題が終わってないなんてことがないように早めに終わらせておこう。

そう心に決めて、俺は自転車のペダルを強く踏んだ。



学校へ着くと皆浮ついた気持ちでいるようで近くの人と仲良さげに話していて、夏休みの予定について話し合っているようだった。

「部活だ~」と項垂れていたり、金欠なことを嘆いている人もいた。

今日は終業式をして、掃除をして終わりだ。もう授業がないと考えると、どこか体は軽く感じた。

教室に先生がやってきても騒々しい空気は変わらなかったけど、先生もみんなの気持ちがわかるのか、それを咎めることはしなかった。

朝のHRを終えると、体育館で終業式が行われ、何の問題もなくスムーズに進み、学校の終わりを告げるチャイムが鳴る。

帰りのHRも先生は「羽目を外しすぎるなよ」と注意を入れる程度で終わった。

今日は生徒会で体育館の椅子をかたずけなければならないので、皆が昇降口に向かう逆方向に向かって俺は歩いていく。

するとそこで小鳥先輩の姿を見つけた。


「こんにちは、小鳥先輩」

「あ、うん。こんにちは。凪」


この呼び方もだんだんと聞きなれてきて、恥ずかしさがなくなってきた。


「凪は夏休みの予定とか結構埋まっちゃった?」

「いえ。俺は結構友達が少ないんで、あんまり埋まってないですね。それがどうかしたんですか?」


小鳥先輩は一回俺から視線をずらして一回深呼吸を挟んだかと思うと「夏休み一緒に遊ばない?」と聞いてきた。

なぜか小鳥先輩の頬はそのきれいな桃髪に近い色になっている。


「いいですよ?どこで遊びたいとかあります?」


すると小鳥先輩は首をかしげてしまった。内容はあまり決まっていなかったみたいだ。

なんだかその計画性のなさにあることが不安になってきてしまった。


「小鳥先輩?夏休みの宿題を最終日にやるなんて言う愚行はしないでくださいね?」


すると小鳥先輩はわかりやすく固まった。

俺はため息を一つついて小鳥先輩にとっては辛辣しんらつな言葉を投げかける。


「先輩の宿題が終わったら一緒に遊びましょうね?」


俺は足を進めようとすると、小鳥先輩はまるで俺に泣きついてくるように、服を引っ張って来た。


「凪ぃ……手伝ってぇ……」


手伝うって。俺は高一で先輩は高二だからあんまり力にはなれないんだけどな……。

先輩がしっかり宿題をする手伝いくらいならしますよ?


「……具体的に?」

「通話しながらやるとか?」

「わかった!!じゃあ、それで!今日から早速やろうね!!あと遊びに行くの忘れないでよね!!」


小鳥先輩は声のトーンを上げてスキップをしながら俺を置き去りにして、体育館へ向かっていった。



家に帰ると、母親から成績表を見せろとせがまれた。

別にみられても恥ずかしい成績をしているわけでもないので、渡すだけ渡して、自分の部屋に戻る。

ふと自分の携帯を覗くと小鳥先輩からメッセージが届いていた。


『ねえ、早速しない?早く終わらせたい!』


勉強はやる気のあるうちにするべきだと、俺も思っているので、『いいですよ』と返すと三十秒もせずに先輩から連絡がかかってきた。


「もしもし」

『もしもし!早くやっちゃって夏休みの予定立てよ!』


先輩の上ずったその声は、幼い子供のようで、すこし笑ってしまった。


「じゃあ、やりましょうか」




最初は雑談を挟みながらやっていた勉強会もだんだんと口数が減ってきて、イヤフォンを通して聞こえるのは、ペンを走らせる音と、十数分ごとに捲られる、ワークの音だけだ。

小鳥先輩は一回集中できればかなり集中力が続く人なのだろう。

それを表すように一時間半ほどは先輩の手は動き続けているように感じる。

それにはさすがに関心してしまって、小鳥先輩につられるように俺も徐々に集中を高めていった。

勉強を始めて四時間ほど経っただろうか。ある違和感を感じた。

先輩のページをめくる音が止まったのだ。

最初は難しい問題でもやっているのだろうかと思ったのだが、どうやら違うようで、俺の耳に入ってきたのは、柔らかい寝息の音だった。

先輩のかわいらしいそれを聞いて思わず苦笑するが、四時間もぶっ通しで勉強をしていれば、そうなってしまうのもうなずける。

俺はお休みなさいと小さな声で言って電話を切った。





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