第39話お泊り
日和によってお風呂場に連れ去られたおかげで、俺はリビングで一人。
どっかりとソファーに座り、目を閉じて真っ暗な世界に身を投じていた。
すると、反響した楽しそうな声がどこからともなくやってきて、目を閉じて鋭敏になった俺の鼓膜を刺激する。
会話の内容まではわからないが、うちのお風呂に七海先輩がいることを否応なく感じさせられて、その光景を想像してしまった。
七海先輩の透き通るような素肌は、水にぬれて、さぞ色っぽさが増していることだろう。そしてチャームポイントともいえる、黒く長い髪は光をより反射し、七海先輩の煌々とした感じを引き立たせているだろう。
そんなことを考えていると、ゆでだこのように顔が熱くなっていく。
なんてことを考えてしまっているんだ俺は……。
誰もこのリビングにはいないのに何かから隠れるようにクッションに顔を突っ込んだ。
そしてそのクッションの中で悶えた。
むしろ男子高校生なら当然とも言える思考ではあるだろう。
でも、あまりに考える状況と相手が悪かった。
俺はシャワーが地面を叩く音や、楽しそうな声が聞こえないように、テレビをつけて、大して興味もない番組をぼーっとしながら、横になって、ただひたすらに見ていた。
番組のいい所でCMが入る。
せっかく面白そうな所だったのに······。
まあ、そういう面白い所にCMを持ってくるのがTVというものなので、仕方ないと割り切る。
すると突然ほっぺをつつかれた。
咄嗟に上を向くと濡れた髪をタオルでまとめて、おでこまで出している普段は見ない新しい先輩を見た。
そしてそのタオルから漏れて、水で纏まった髪の束は重力によって俺の目の前まで落ちてきていて、そのなんとも言えないフローラルな香りが俺の鼻をくすぐる。
「お風呂ありがと。入っていいよ?」
「あ、はい。ありがとうございます。それじゃあ入ってきますね」
俺は逃げるように立ち上がりリビングから姿を消した。
風呂にも先輩の残滓が残っていて、逃げ場はないぞと言われているような、そんな気がした。
先輩が使った後ということもあって、なんだか居たたまれない気持ちになり、すぐに風呂を出る。
しばらくゆっくり出来なそうだなと俺は嘆息し、体の水気を取っていった。
お風呂から出てみると、日和と七海先輩は楽しそうに談笑していた。
「にいに、早くない?体洗ったの?」
「失礼な。もちろん洗ったよ」
ホントに失礼なやつだ。しかも七海先輩がいる前でそういうことを言わないでほしい。なんだか恥ずかしいじゃないか。
「日和と七海先輩はリビングで寝ますか?」
俺は七海先輩に視線を送ると七海先輩は日和に視線を向けて判断を仰いでいるようだった。
「そうしようかな!私の部屋はベッドしかないし、二人以上で寝るならリビングかな」
「そうか、じゃあ、遅くならないようにな。おやすみ」
「うん。おやすみ~」
「おやすみ、凪くん」
俺は階段を上り二階へ足を進めた。
何も起こらずに済みそうでよかった。なんかどっと疲れたし、今日は早めに寝ることとしよう。
自室に入り、ベッドにダイブすると、ふわっとしたいい匂いがした。
なんとなく覚えている匂い。そんな匂いがベッドについているとすれば、それは七海先輩の匂い以外ありえないだろう。
もう気にするなと自分に言いたいが、他人の匂いのある枕というのはあまり落ち着かなくて、こんなことを気にしている自分に対しての羞恥心に苛まれていた。
でも、その匂いは俺をベッドから離してはくれなくて、まるで磁石でくっついてしまったかのようになっていた。
そのおかげか、俺はやがて瞼の重さに耐えられなくなって目を閉じた。
◇◆◇
目を覚ますと熱気をはらんだ光が窓から射していた。
心なしか体が軽い。良く寝れたという感じがする。
いつも通りに体を伸ばして、ベッドから降り、一階へ降りていくと、少しだけ
どうせ、遅く帰ってきた母か父が寝ているのだろうと思って戸を開けると、そこにはだらしない寝姿の日和と七海先輩が。
そうだ、昨日泊ってたんだった……。
起こそうか逡巡したが、男に寝顔を見られるのも嫌だと思い起こすことにする。
そして七海先輩を起こそうと近づくと、先輩の小さなおへそがちょこんとのぞいていた。
目に毒だ……。正確には毒どころかその真逆なんだけれども。
ゆるゆるすぎだよ……。七海先輩。
俺はため息を一つついて、先輩の肩をゆする。
「せんぱ~い?起きて下さ~い」
「んんっ。やだぁ」
先輩はそんな甘ったるい声を出すと、膝立ちいる俺の腰に手を回してきた。不意に力がかかって思わず地面に手を着く。
ここまではいいとしよう。でも先輩は俺のお腹に顔をうずめ、意識があいまいな状態で思いっきり甘えてきたのだ。
「ちょ。先輩?い、一旦起きてください!」
「ん~!いかないでぇ……」
そんな悲しそうな声出さないでくださいよ……。離れるに離れられなくなっちゃったじゃないですか……。
俺は先輩を膝枕しているような感じになり、先輩はずっと俺に抱き着いていた。
もうだめ。七海先輩はガードが緩すぎる。あとで説教だ。
そう心に決めて、俺は煩悩と足の痺れと戦っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき失礼します。
次回で七海先輩パートを終了し、小鳥先輩パートに入る予定です。
次回は少しだけシリアスな展開を混ぜるつもりですが、甘めでいきたいと思います!!
お星様もあと五つで250個ですので、面白いとか思ってくれたら評価していただけると嬉しいです!!
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