第34話濫読派

何とか気まずい時間を乗り越えて、俺の家までついた。

七海先輩はというと「ここが凪くんの家かぁ」と変な表情をしながらつぶやいている。


「じゃあ、入りましょうか」

「う、うん」


そして俺は鍵の掛かっていない玄関を開けて、先輩を招き入れた。

幸い親はいないし、自分の部屋にいるであろう日和はきっと引きこもっているだろうから大丈夫だ。

先輩を俺の部屋に案内し、お茶や菓子類を取りに一度リビングへ戻る。

ついに先輩が来てしまったかと嘆息するが、呼んでしまったものは仕方がない。

そう割り切って、この時間を楽しむことにした。

自分の部屋のドアをノックするというのは変な感覚だ。

普段なら絶対にしないが、中には先輩がいるし一応しておこうという配慮だ。

そしてトントンと小さく二回だけノックをすると、中からは少し慌ただしそうな足音が聞こえた。

恐る恐る、ドアを開くとじゅうたんにお尻をつけて何事もなさそうにしている先輩の姿。

なんか怪しいなぁ。

でも詮索はしないようにする。それで決まずくなったら本末転倒だしな。


「お茶でよかったですか?」

「うん。大丈夫だよ。ありがとう」


七海先輩はどこか所在なさげだか、異性の部屋に来るなんてそんなものだろう。


「じゃあ、何か読みますか?」

「うんっ!凪くんのおすすめ読んでみたい!」


おすすめかぁ……。割とそういうこと言われると悩んじゃうんだよなぁ。

明確に一番ってのはないし、あまり考えたこともなかった。


「なんか読みたいジャンルとかありますか?」

「う~ん、恋愛とか読みたい気分かな」


そして俺はもう一度本棚を一望する。

作者のあいうえお順に分けられているから、少し探しづらい。

ジャンルで聞いたのは間違いだったかもしれない。

でもいまさら聞き返すこともできず、気合で探して、その中で選んだ本を先輩に渡した。


「あ!これ、私も読んだことある!!」


読んだことがあったとは……。さっきの本を探してる過程で見つけた本を渡す。


「あ!これもある!意外と読んでるものが似てるのかもね!」

「そ、そうですね」


この時点で若干俺の頬は引きつっている。なぜだか悪い予感しかしないのだ。


「先輩これは!?」

「あ~これも面白いよね。主人公の性格とか特に!」


またダメ……。


「このミステリーなんかどうですか?恋愛ものじゃないけど面白いですよ!」

「この作品はね数あるミステリーの中でもすっごい面白いよね!いい意味で読者を裏切る展開というか!」


ミステリーも!?

こんな感じのやり取りを十回ほど繰り返したころだろうか、だんだんと緊張が抜けてきたのか、先輩は流れるような動作で俺のベッドに腰を下ろした。

本探しで頭がいっぱいになっている俺はそんなことを気にする暇もなく、ただ一心に本棚に目を走らせていた。


先輩がやっと手に取ってくれたところで、俺はベッドに寝っ転がった。

先輩がいる前で、とは思ったがあんまり気にもせず、寝っ転がるとやけに目線の高い、七海先輩と目が合った。

なんだか目が合っているのも恥ずかしくなってしまって、照れ隠しで「読みましょうか……」と言ってすぐに自分の体を持ち上げた。

俺は机の上に置いてある、呼んでる途中の本を手に取り、ページをめくり始めた。

先輩の隣に座るのは恥ずかしいから俺は地面に座りながら読んだ。


先輩はなんであんなに平然としていられるんだろうか。

何も考えてないとしか思えない。

一分間隔くらいでページをめくる音がして、そのたびに先輩の方へ、視線を向けてしまう。どこか凛とした表情をした先輩は、形容しがたい神秘的なオーラを秘めていた。

静かにしてれば綺麗だなぁと不意に思ってしまった。


しばらくすると先輩がうとうととし始めた、なんで俺の家で……。

先輩の瞼は今にも落ちてしまいそうで、必然とでも言わんばかりにその体を俺のベッドに倒した。

そんな状況じゃあ俺の読書も進むわけがない。

でも起こすのも申し訳なくて、そのままにしていると、寝息が聞こえてきた。

えぇ……。マジで寝ちゃったのか。

きっとなんらかの疲れでもたまってたんだろう。

なら休ませてあげるべきという結論に至ったのはいいのだが、縦に置いたベッドに対し横に寝ているから少し寝づらそうなのだ。

気にしたら負けだと分かってはいたが、一度気になってしまうと、気にせずにはいられなくなってしまう。

何度か深呼吸を挟み、先輩の首裏とひざの裏に手を通して、そのまま持ち上げた。

軽い。そして柔らかい。俺の腕の中にいるお姫様に対し、だんだんと邪な思いが沸き上がってしまいそうだ。

なんとか縦に寝かすことはできた……。


「にぃに?何してるの?」





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがき失礼します。

まずはいつも読んでくださり本当にありがとうございます。

近況ノートにも書かせていただきました通り、公募に向け案を練ろうと思い、更新をしばらく止めることになります。私事で非常に読者の皆さんには迷惑をかけることになります。本当に申し訳ないです。

一か月ほどで戻ってきたいと思っているのですが、テストと重なり、一か月+αの期間を要すると思います。

七海先輩パート中にもかかわらず勝手に止めることは本当に心苦しいですが、どうか待っていただけるとありがたいです。

必ず生徒会は完結させるので、気長に待っていただけると嬉しいです。




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