第33話盗聴

珍しく俺の携帯が鳴り、電話がかかってきたことを知らせてくる。


「もしもし」

『もしもし!凪くん!いつどっちの家で遊ぶ!?』


いきなりテンション高いな……。まだ七時になったぐらいだぞ……。


「いつでもいいですよ。俺は基本暇なので」

『じゃあ今日でも!?』


なんでそうなるかなぁ……。先輩と俺の感覚は少々――いやかなり違うようだ。


「当日に約束をする人がどこにいるんですか。明日以降でお願いします」

『じゃあ明日ね!!どっちの家にする?』

「わかりましたよ……。先輩が選んでいいですよ」

『じゃあ凪くんの家に行く!』


なんとなくわかってはいた。一応部屋は片付いているし、平気かな?


「わかりました。明日、駅まで迎えに行くので何分くらいに着くかLINEしておいてください」

『りょーかいっ!また明日!』

「はい。また明日」


俺は携帯をそのままベッドに投げて、ごみが溜まってたりしないかの確認作業を始める。

七海先輩が明日俺の家に来るのか……。少しだけ緊張もする。


「曲がりなりにも先輩は綺麗な人だし……」


そんな人と同じ空間を共有して数時間も一緒にいるのだ。

まあ、七海先輩だから大丈夫だとは思うが。変におしゃれされるとこっちがきつい。おしゃれして来ないでくれっ!!


「でも、絶対おしゃれだよなぁ……」


異性の家に行くっていうのにおしゃれしない女子っていないもん。

完全に自分の偏見だけど……。

明日は理性との戦いになりそうだ。俺の部屋がもっと広ければ大丈夫だったんだろうなぁ。


「頑張るかぁ……」



◇◆◇



熱い日差しの中、俺は七海先輩を待っている。

なかなか人通りも多くなかなか見つけずらい状況だ。

連絡は取れているのだが、なかなか見つからない。


『凪くんがいるのって西口だよね?』


はぁ……。どうりで見つからないわけだ。

だって俺がいるのは、東口なのだから。


『東口なんですけど……』

『あっ!ごめん!今から行くね!』


抜けてるなぁ……。

まあ、七海先輩だし仕方ないか。

俺の中では七海先輩はそんなおっちょこちょいな人なのだ。

そこそこ人も減ってきて見通しもよくなってきた。

そんな中、明らかに異質な人が現れた。

道行く人の目を奪っていく。そんな注目を集める七海先輩がそこにはいた。

おしゃれすぎだろ……。遠目から見ても、程よい肌の露出に、細い脚に白い肌が露になっている。


「先輩。なんでそんなに気合入ってるんですか……」

「え?凪くんが私のことをおしゃれって言って……あ、なんでもない!」


俺、そんなこと言ったか?昨日は眠かったからあんまり覚えていない。

そしてなぜか先輩はもじもじとしている。なんだか愛らしいものを見ているようだ。


「先輩?どうかしたんですか?」

「昨日は綺麗って言ってくれたから今日は言ってくれないのかな……ううん!聞かなかったことにして!」


おしゃれも綺麗も先輩と通話した後に言ったことだよなぁ。

もしかして聞かれてた!?


「先輩、盗聴器仕掛けるのはさすがにまずいですって」

「盗聴器?なんのこと?」

「しらばっくれないでくださいよ。どうして知ってるんですか?」

「そ、その通話終わった後に凪くんが通話を切ってなかったから、ちょっと聞いてたら、そんなことを呟いてたからもしかしたら、あえて言ってるのかなって」


それもう盗聴だよ。早く切れよ。めっちゃ恥ずかしいじゃんか。


「先輩はおしゃれで綺麗です。満足ですか?」

「なんか投げやりだなぁ」

「早く行きましょう。普通に暑いんで」

「待ってよ凪くん!」


七海先輩は少し小走りで俺の後ろについて来ようとしたとき――

躓いた。

そして俺が振り返ったタイミングで、ちょうど右肩に体重がかかってきた。

顔が近い。肩から伝わる若干ひんやりとした手。

先輩の整った鼻梁が目の前に。そしてふんわりと香る先輩のフローラルなまろやかな匂い。頭が蕩けてきそう。

だが、俺は頭を振って先輩の体を起こした。


「し、しっかりしてくださいよ先輩」

「ご、ごめんね……」


七海先輩にヒールを履かせるのは危ないな……。






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