第26話誤解

坂口が項垂れて自分の席に帰っていくのを見届けてから、俺はまた席に突っ伏した。

こうしてるのが一番。今日はなんだか視線が多い気がするし、こうしていれば誰の視線も気にしなくていいのだ。

このまま寝て、起きたら学校終わってるとかないかな……。ないですね。現実見ます。

俺を射抜くような視線が怖い。

この状態で俺は今日一日過ごさないといけないのか……。坂口を盾にして頑張るか。

今日初めて話した彼を盾にするという非情な決断であるとはわかっていたが、あんな奴だからいいやと思い、気にしないようにした。


四時限目を終えてお昼休み、普段通りに由都のところに向かおうと思って席を立ちあがると、坂口に声をかけられた。


「なあなあ、九重。お前いつも昼休みどこにいるんだ?」

「いつもはほかの教室で食べてるよ」

「誰と?」

「由都と。あ、蓮見さんね」

「蓮見さんってあの……?」


どの……?


「この学年に蓮見さんって一人だけじゃないの?そんなたくさんいる苗字でもないし」

「この学年で蓮見さんって言ったら、あの超絶美人のあの人だろ……?なんだよお前。本当に許さないからな」


やっぱり理不尽だ。俺はただ誘われたから一緒に食べているんだ。

もちろん誘われなくても一緒に食べたいのは間違いないけど……。


「そんなこと言うんだったら、坂口も女子と食べればいいじゃないか?」

「それができたら苦労しないんだよぉぉぉ!!!」


今日一番の注目を浴びた瞬間だった。



◇◆◇


「やっほ、由都」

「あ、凪。やっほ~」


俺が来ると由都はいつもニコニコとして嬉しそうな表情をしてくれる。

あぁ……。癒されるなぁ……。

そんなのほほんとした表情を俺がしていると、由都は自分と対面にある席を指さす。

座れということだろうか?普段はこんなことしないんだが。

俺は指されるがままにその席に座った。


「どうしたんだ?」

「凪……。一体桜庭先輩となにしたの!?」


またこれ……?まあ、由都の誤解はしっかり解いておきたいところだ。

ちゃんと説明することとしよう。


そして俺は余すことなく由都に昨日のことを伝えた。

嘘です。結構隠しながらしゃべりました。


「ずるい……。私も一緒にどっか行きたい!」


今度は由都の欲求が爆発したようだ。もうしばらく俺の休日ないんじゃないかな……。こんな美少女たちと一緒にいられるんだ。休みなんて捨ててやろう。


「もちろんいいよ。どこに行きたいとかある?」

「う~ん。江の島とかの海行って泳ぎたいかも」


海か。たまには海に行くのもいいかもしれない。中学生以降の海に行った記憶がないしな。


「いいな。行ってみるか?夏休み辺りに」

「うん!行く!」


そして由都はうれしそうに目を細める。

この笑顔が見れるなら、いくらでも遊びに行こうと思える。彼女の笑顔を見るためなら何でもします。

そう思えるほど彼女の笑顔は眩しいものだった。

そして、俺たちはご飯を食べ始めた。



◇◆◇



「授業終わったぁ~」


そう呟いて、大きなため息を一つ吐いた。

これからは生徒会。桜庭先輩が説明しているか否かで俺の人生が大きく変わってくる。すでに説明済みなことを祈ろう。

そして別棟に向かって足を進めた。


――生徒会室の扉をノックして、その扉を開いた。

すでに中には由都以外の先輩たちが。

すると……やはりというか鬼の形相で俺たちに迫ってきた。


「凪くん!!一体紗耶香となにしたの!?」


はぁ……。またこれかよ。

桜庭先輩のほうに目を向けると、手を合わせて謝るようにしていた。

とりあえず許さない。おごってもらうことで手を打とう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る