第23話奇異な光景

「へぇー九重くんはその三人が気になってるんだ?」

「も、もうだめです。その話絶対に掘り下げないでくださいね」


そう言われたら余計に掘り下げたくなるのが人間。なんて話は聞かないことにする。


「仕方ないなぁ……。気になるけどまたの機会にするよ」


何ならもう聞かないでほしい。できるだけその機会が来ないように善処しよう。そう心に決めた。

そして次々と持ってこられた肉の山を見て、俺たちは心を躍らせながら、その肉を鍋に入れていった。


「九重くんが先食べていいよ」

「いやいや、先輩が先に食べてくださいよ」

「別に気なんて使わなくてもいいからさ」


このまま譲ってくれそうはないので、俺が先に折れた。


「それじゃあお言葉に甘えて……」


そう言ってお肉を口に含んだ。別に高い肉を使っているわけではないのに、誰かと一緒に食べる料理は実においしく感じる。不思議だ……。


「おいしいです……。先輩もどうぞ」

「うん」


先輩も一つのお肉を手に持ち、タレにつける。その肉からは一滴一滴とそのしずくが流れ落ちて、たれの水面に波を残す。

そして桜庭先輩はそれを頬張り、一口で食べる。


「ん~!おいし~」


桜庭先輩は笑顔を前面に浮かべ恍惚とした表情を浮かべる。

正直、そんなにおいしいのか?と思うほどだ。先輩がきっとCMとかを務めたら、そのお店は伸びると確信した。間違いなく。

俺は今にもよだれが垂れてきそうなほどに食欲が増してくる。

その食欲の赴くままに俺は肉を掴み自分の口に放り込んでいった。最高のお供の白飯と一緒に。

ご飯と一緒に食べる、お肉って最高だよね。あれほどおいしいものはこの世にないと思う。



◇◆◇



俺たちの目の前に残るのは少量のお肉たち。俺と桜庭先輩のお腹はもう満腹。

もうお腹に何も入らないよ……。


「九重くん?食べようか……」

「いやもうマジで無理ですって」

「じゃあ、私が食べさせてあげるから」

「いやいや、こんなところで恥ずかしいですって!」

「この前ファミレスでみんなを餌付けしてた九重くんを私は知ってるよ?」

「それはずるいですよぉ……」


そして桜庭先輩は俺の目の前に肉を持ってくる。うぅ……。仕方ない……。

俺は目の前に出されたお肉を口に含んだ。たれの味が付いたそのお肉は、お腹いっぱいな俺でも、おいしく感じた。


「ほらもう一枚!!」


俺の口の中にはまだ肉が入っているというのに、先輩はそんなことお構いなしに目の前に肉を出してきた。


「ちょ……。待ってください。先輩も一枚くらい食べてくださいよ」


俺は肉を一枚持ち先輩の目の前に持っていく。これでお互いに食べさせあっているようにしか見えないバカップルの完成だ。じゃなくて、周りから見たら相当変な人って思われてるんだろうな。


「仕方ないなぁ……一枚だけだよ?」


そう言って桜庭先輩は肉を食べた。

俺もそれを見てから同じようにして肉を口に含んだ。


あれ……。よくよく考えたらこれって間接キスなんじゃ……。


桜庭先輩もそれ気が付いたのか、俺と目が合うと恥ずかしそうに目をそらした。


あぁ……。もう恥ずかしい。早くこの店から出たい。


さっきから俺たちを見る視線がぐっと増えたように感じる。それもそうだ、公共の場であんな変なことをしていたらそりゃあ注目の的にもなるだろう。

残るお肉はあと一枚これさえ食べてしまえば会計だ。

早くお店から出たい一心で俺は無理やり口に肉をねじ込んで、きれいに食べ終えた。


「帰りましょうか……」

「うん……そうだね」


そして会計に向かうと先輩がすっと財布を出した。


「先輩?俺がおごりますよ?」

「いや、いいよ?おごっててのは冗談でただ一緒にご飯食べてみたかったってだけだから」


そうだったのか。何はともあれ俺は出費が減って歓喜。しっかりと割り勘しました。


「今日はありがとね。とっても楽しかったよ」

「いえいえ、こちらこそ。また一緒にどこかいけたらいいですね」

「えぇ……。九重くん鬼畜だからどうしようかなぁ……」

「ほんとにやめましょう?俺が学校で生きていけなくなります」

「ごめんね九重くん。もう遅いよ……」


そう言って桜庭先輩はスマホの画面を見せてきた。

そこに映るのは桜庭先輩のインスタのストーリーズに映る俺の姿。

そしてゴシック体の『九重くん鬼畜』という文字。すでに三百人近くに見られている。


あ、俺の学校生活終わったわ。

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