第22話気になる人
静かにすぅはぁと息を吸ったり吐いたりする音が俺の耳に届く。
さっきの発言がそんなに響いたのかな?あんまり言われたりしないのかな?
こういうことを言われることに慣れていないんだろう。案外初心なところもあるんだなぁ。
桜庭先輩の意外な弱点を見つけ、少し勝り気でいると、桜庭先輩の顔の熱気は引いたようで、いつもの透明感のある白い肌に戻っていた。
「じゃあ、早速九重くんの気になる人を聞かせてもらおうか?」
「さっきのは――」「早く聞かせて?」
「はい……」
その口調からは何が何でも触れさせないという熱気が感じられた。
「ま、まあ、頼んでからにしましょ?それからでも遅くないですから」
「なんだかさっきからうまく交わされてる気がするなぁ……」
気のせいです。ただただ後回しにしてるだけです。
そして俺たちは三元豚の食べ放題を頼んだ。
「それじゃあ飲み物取りに行きましょうか?」
「そうだね」
そして二人で立ち上がる。
「俺が注いできましょうか?」
そのあと桜庭先輩は逡巡としてからこう述べてきた。
「今日の九重君は何しでかすかわからないから大丈夫」
俺を何だと思っているんですか?
そう突っ込みたくなった。
「わかりました……。それじゃあ行きましょうか」
二人でコップを手に持ち、ドリンクバーへ向かう。
俺はコーラ。先輩はミルクティーを注ぎ、帰りにタレや好みのトッピングをお皿に盛ってテーブルまで持って帰った。
四人は余裕で座れる広さだというのに、二人のトッピングだけでかなりの面積が埋まってしまった。
「こんなに食べきれるかな……。無理だったら九重くんが食べてね?あ~んってしてあげるから」
「別にしなくていいですって……。先輩こそ俺にそんなことしようとして恥ずかしがっちゃうんじゃないですか?」
「恥ずかしがらないから!」
子供のように抵抗している表情を見ると、さらにいじりたくなってしまうのは仕方のないことだろう。
「ほんとですか?じゃあやってみてもらえませんかね?」
「こんな公共の場で……九重くんの破廉恥」
「先輩があ~んしてあげようかって言ったんじゃないですか。ほんとに破廉恥なのはどっちなんでしょうねぇ……」
「もう私の負けでいいから!!あ~んとか破廉恥とか言わないでぇ!」
なんだか一人で悶えてるが桜庭先輩が可愛く見えてくる。
先輩ほんとに初心だな……。色恋沙汰に縁がなかったのがひしひしと伝わってくる気がした。
そんな先輩をよそに俺はお腹が減ってきていたので、早速店員さんを呼び、お肉をたっぷりと注文した。
「ちょっと待ってよ……鬼畜って呼ぶよ?」
「それはさすがに……」
鬼畜って呼ぶのはさすがにやめてほしい……。何があったのかまず間違いなく疑われるだろう。
そして俺がみんなから白い目で見られることは確実。そしたら俺の安泰な学校生活が失われてしまう。
それだけは死守せねば。
「じゃあ九重くんそろそろ白状してもらおうか?」
桜庭先輩はにんまりと笑う。もう逃げられなさそうだ……。
「わかりましたよ……。俺の気になってる人は……」
俺はそこで静かに呼吸を挟む。
桜庭先輩も机に手をついて乗り出しかけている。
「俺の気になっている人は、唯花先輩と由都と小鳥先輩です……。今のところ」
「三人もいるなんて罪な子だなぁ。九重君は」
なんだか心にぐいぐい刺さってくる。仕方ないだろ性格もよくて美人の集まりなんだから……。そんな簡単に選べないよ……。
そのあとの桜庭先輩のにやにやとした表情は俺の精神をごりごりと蝕んでいった。
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