第21話先輩と二人で

土曜日なんてものは寝てるとあっという間に過ぎ去ってしまい、目を覚ますともう日曜日なんだなとぼんやりとした頭で自覚する。

今日は桜庭先輩とご飯を食べに行く日だ。おごらなきゃいけないし少し母さんにお金をねだるとするか……。

そう思って体を起こすと部屋に電話の音が鳴り響いた。


「もしもし?」

『もしもし、九重君。おはよ』

「おはようございます。桜庭先輩。どうしたんですか?」

『忘れてないかなぁ~って思って』

「もちろん覚えてますよ。どこに集合しますか?」

『陽北駅でいいんじゃない?』


陽北駅とはこの前由都と共に行った陽北高校の最寄り駅の隣の駅である。


「まだ場所決めてないんですか……」

『まあいいじゃん?行き当たりばったりのほうが楽しいことだってあるよ!!』


怖い。いろんなところに連れまわされそう。大丈夫。多分桜庭先輩はそんな人じゃない。多分だけど。


「まあ、分かりました。集合は五時半くらいで大丈夫ですか?」

『うん!大丈夫だよ!じゃあまたね~』

そこで電話はぷつっと途切れた。

「まだ九時か……もう一回寝るか……」


まあ寝すぎないようにだけ気を付けるとしよう。

そう思って大して重くない瞼を閉じた。




目を覚ますと十二時前だった。あまり眠くなかったのにもかかわらず案外寝れるものだな。適当に時間を使って家を出る時間まで待つとしよう。

そこからはゲームだったり適当にネットサーフィンをしたり、週末課題をしたりと気の赴くままに時間を過ごした。



◇◆◇



「こんばんわ。桜庭先輩」

「やっほ九重くん!」


時刻は五時二十分。しっかりと十分前集合していることには好感が持てる。

桜庭先輩はボーイッシュな恰好でそれがさばさばとした桜庭先輩にとてもよく似合っていた。


「早速、行きましょうか?」

「そうだね!じゃあ行こ~」


そんな感じでのらりくらりと俺たちは歩き始め、街に出た。


「何が食べたいとかあるんですか?」

「ん~特に決めてないから凪くんの好きなものでいいよ?」

「えぇ……ほんとに何にも決めてないんですね」


計画性はゼロなのになんであんなに勉強ができるのか不思議だ。

ラーメン。そば。ファミレス……は昨日行ったからいいや。

肉も悪くはないけど少々高い。するとそこそこ手ごろな二時間食べ放題のしゃぶしゃぶのチェーン店が目に入った。


「先輩、あそこにしましょうよ」

「あ~いいね。お肉も食べたいし!」

「まあまあ混んでそうですし早めに入りましょうか」


そして俺と桜庭先輩はそのお店の扉をくぐった。

予約のところに俺の名字を書き込み、待合室で並んで座る。


「ねえねえ、九重くん」

「なんですか?」

「誰のこと気になってるの?」


多分昨日の話の続きだろう。今日は根掘り葉掘り聞かれそうだなぁ……。

桜庭先輩は目を輝かせながら俺が口を割るのを待っている。


「はぁ……。わかりました。言いますからそんなに目を輝かすのはやめてください。なんだか期待が重いです」

「言ったね?言質はとったから後から言わないとか、なしね

だよ?」

「わかってますから。でも俺だけ言わされるのも嫌なんですよね~」

「私にも言ってほしいって?」

「はい」


少し食い気味そう答えた。その返答に桜庭先輩は口を薄く広げて怪しげに笑っている。


「わたしは、いないんだよなぁ。ずっと色恋沙汰には縁がなくてね~」


意外だな。先輩みたいなさばさばした性格をしているものだから男子もとっつきやすいとは思ったんだけど……。

もしや生徒会で見せない素顔に原因が……?


「意外?」

「まあ、少し」

「意外と話しかけられはするけど、私の隣にはいっつも唯花がいるからそっち狙いみたいなことが多いんだよね」


唯花先輩と比べられるのか……。唯花先輩は確かにスタイルいいし、かわいくもあるからな。別に桜庭先輩に魅力がないわけじゃないよ!?むしろ全然美人なほう。生徒会の顔面偏差値高すぎです……。あの中に混ざっていられるのはうれしいけど、そのうちだれかに刺されそう。


「桜庭先輩も十分魅力的ですよ?」

「………………」


桜庭先輩が何も言わないので、そっちを向いてみると、桜庭先輩はわかりやすく顔を赤くして照れていた。


「桜庭先輩?」

「急に変なこと言わないで……」


変なことって。

すると名前を呼ばれて席に通された。

席に向かっている間、桜庭先輩は深呼吸を静かにしていた。

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